【徹底検証】ギター・シールド徹底比較 その13 ~ハイエンド・ケーブルPRS&VOVOX~
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VOVOX
VOXではありません。VOVOXです。“VO”が一回多く入ります。
VOVOXは近年突如として現れた、スイスのオーディオ・ケーブル・メーカー。2002年にJürg Vogtによって創業されました。Jürg Vogtは素材技術者で、ベース奏者でもあったため、5年以上理想のケーブルを求め、研究を重ねた結果、卓越したケーブルの開発に成功し、VOVOX AB 社の設立したのです。
①sonorus protect A Inst Cable 350cm 『6.3203』
独自の精巧な構造と極めて純度の高い素材を使用して、エレキギター、ベース、キーボードなどのあらゆる電子楽器と、ピックアップ・システムを搭載したアコースティック楽器の接続に最適なケーブルが、sonorus protect A Inst Cable 350cm 『6.3203』です。
(型番/JANコード) 6.3203 / 4533940038742
メーカー希望小売価格 (税込) ¥15,620 (税抜 ¥14,200)
販売価格 (税込) ¥15,620 (税抜 ¥14,200)
まずこのVOVOX、見た目で驚きます。
シース部分が編みこみの物はたくさん見かけますが、これはさらにケーブル自体がネジネジされています。ねじねじ。
そして持ち上げると脅威の軽さ。今まで私が見てきたシールドの中で確実に、絶対にトップの軽さを誇ります。
これは芯線にPVCを使わずに可塑剤不使用の高純度プラスチックを使っている事が大きく影響しているのだと思います。
プラグはオリジナルでしょうか。創業者が素材技術者だけあってケーブルに対するこだわりは多々紹介されていますが、プラグに関して表記がありません...
しかしプラグカバーにはしっかりVOVOXとかかれている事から、やはりオリジナルだと思われます。
【ギター】音圧が増す感じというよりは、不要な低音を抑えて全体的にフラットな出音にしてくれる感じ。歪ませても各弦の分離が綺麗。
【ベース】コンプ感が気持ち良い。中域のまとまりが良く、音抜けも良い。ケーブル繋ぐだけでベースの音作りが完成したかのような印象。
以前ANALYSIS PLUSの時に感じた「高級ケーブルは音量が増す」という概念、VOVOXはそうではありませんでした。あくまでも音量は控えめながら、原音に忠実である事を目的としているように感じます。音の分離感に関しては、「これこそハイエンド!」という圧倒的なクリアさを体感出来ます。これはこのクラスでないと得られないですね。
シールド自体が軽く、さらに柔らかい事で取り回しの良さもピカ一。これはぜひ1本持っておきたいシールドです。
Paul Reed Smith(PRS)
もうPRSに説明は要らないんじゃないかと...(笑)
言わずと知れたハイエンド・ギター・メーカーです。PRSのギターの代表格はこのCustom。
そしてPrivate Stockと呼ばれる限定モデルの数々。
30th Anniversary Dragonは40本しか作られていない超絶希少品。
ともかくPRSは価格云々ではなく、「本当に良い物を」というスタンスでギターを作り続けているメーカーなのです。
そんなPRSが送り出すシールド、高級でないワケがない。サウンドだって飛びぬけているはず。
②STRAIGHT 10FT/3.0M
さあていよいよPRSシールドの登場です。
(型番/JANコード) STRAIGHT 10FT/3.0M / 4959112072695
メーカー希望小売価格 (税込) ¥8,800 (税抜 ¥8,000)
販売価格 (税込) ¥8,800 (税抜 ¥8,000)
このPRSシールド、思ったより高くありません。(ん? 私の感覚がおかしくなっているのかな?) しかし高級シールドと言えば1万円以上はあたりまえ、3万円以上のものだってあります。それからしたら¥8,000(税抜)というのはお手ごろではないでしょうか?
PRSのシールドはイギリスVAN DAMME社の物を採用しています。VAN DAMME社は、導体に銀メッキの無酸素銅を使用することで伝導効率を高めたり、低レベルの信号入力時に、高周波をロスすることなくノイズの発生を極限に抑えるといった技術で、アビーロード・スタジオの全室に高品質なケーブルを提供し続けている会社として世界的な有名ケーブル・メーカー。
「高級メーカー同士が手を組んだ」という感じでしょうか。
プラグは信頼のNEUTRIK。そういえばNEUTRIKって「ノイトリック」と読みますけど、メーカーの所在地はどこなんでしょう?
調べると「リヒテンシュタイン侯国」だそうで。...どこ?
このスイスとオーストリアの間にある小さな侯国です。だから読み方がドイツっぽいんですね。
さてそのサウンドは?
【ギター】VAN DAMMEケーブルか、はたまたNEUTRIKプラグか、その組み合わせからなのか、なんともPRSらしいサウンドのケーブルです。出音は大きく、艶っぽいサウンド、分離の良さ、PRSの名を冠したケーブルに恥じない、高級感が音にも現れています。シールド自体の柔軟性もゴムのシースながら非常に高いです。
【ベース】自然なHi-Fiサウンド。個性は良い意味で強くなく、幅広いプレイヤーに好まれるサウンドです。よく出来た優秀な機種という印象です。
このPRSケーブルで一番驚いたのは、音が「PRSっぽくなる」という事です。PRSギターのサウンドイメージは、艶と潤いがあって、音の分離が良く、サスティンも豊か、といった印象ですが、このシールドを通した瞬間にギターがそういったサウンドになるんです。特にハムバッカー搭載のLPタイプで鳴らすとそれが顕著で、まるでPRSギターを弾いているかのような錯覚に陥りました。ここまでブランドイメージどおりのシールドは滅多に無いと思います。好き嫌いは置いておいて、そういった意味ではかなり優秀です!
検証後記
いやはやさすがにハイエンドの2機種。それぞれに驚きのある結果になりました。
VOVOXのコンセプト等
VOVOXはコンダクター(芯線)に強いコダワリを持っています。他社との違いを明確に持ってケーブル作りを行っているからこそ、この独特の素材で高品位なサウンドが生まれるのでしょう。きっと創業者が素材技術者である事もそこに大きく影響しているのだと思います。
最高級コンダクター素材
sonorusシリーズは極限まで高純度の銅をソリッドコア・コンダクターに使用し、各ワイヤーはナチュラル・ファイバー網にて覆われています。それによって摩擦電気ノイズを防止し、同時に更なる音質の改善に繋がります。
それによって摩擦電気ノイズを防止し、同時に更なる音質の改善に繋がります。
超高純度ポリマー
サウンド・コンダクターはハイテク・ポリマーで覆われ、プラスチック素材は信号の転送に直接は関係しないのですが、音質には影響を及ぼすそうです。
VOVOXは音質に影響があるPVCを一切使用せず、可塑剤不使用の高純度プラスチックのみを使用し、直色顔料を使用していません。
グラウンド専用コンダクター
シールドの主機能は外来ノイズの干渉の防止。多くのケーブルではシールドはリターン信号用コンダクターとしても使用されています。
しかしVOVOXはグラウンド専用のコンダクターを使用することで構造は複雑になりますが、それによりクリアーで優れた音質を実現しているとの事です。
コンダクターの配置
いかなるコンダクターであっても電流は磁場を誘導します。
2本のコンダクター間の距離が近すぎると、相互干渉が生じ、音質劣化が生じるので、VOVOXケーブルは充分な距離を確保した、最適な位置に配置されています。
フレキシブルかつ高い信頼性
VOVOX では音質を最大限に優れたものにするため、一般的なワイヤーではなく、ソリッドコアを採用。ソリッドコアは一般的なワイヤーよりも圧倒的にピュアでクリアなサウンドが得られますが、 柔軟性に欠けます。ソリッドコアであってもケーブルのフレキシビリティを実現するため、VOVOX サウ ンド・コンダクターには独自の製法が採用されています。
各コンダクターのリード形成はポリマー・ジャ ケットにてコーティング。そして複数のリードをらせん状に束にしたものを、フレキシブルなネットでカバー しているこの構造により、ケーブルを曲げたときでもワイヤーの軸は保たれ、ワイヤー自体に強いテ ンションがかかることを防止し、音質を犠牲にすることなくスムーズに曲げることが可能になっています。
PRSのコンセプト等
PRSもVOVOX同様芯線にコダワリをもってVAN DAMMEケーブルを採用しています。そしてさらにシールディングにもアツい想いを感じます。
銀より線中心導体と銀めっき中心導体
単線導体だと生産も簡単で安価になりますが、傷みが早く、曲げたり収縮させたりすると破損する、といったトラブルも考えられます。PRSのケーブルは銀より線中心導体を使用しています。また複数の銅の中心導体を銀でめっきすることにより、めっきなしの場合よりも導電性を向上させ、銀と銅を組み合わせることによってケーブルのトーンと耐久性の最適なバランスを保っています。
ではなぜ銀のより線のみではだめなのか? それは銀だともろいからです。銅の耐久性を、知られている導電体の中で最も優れた銀でめっきすることで耐久性があって伝導性もあるケーブルに仕上げています。
ちなみに銀は腐食耐性に優れているため、銅の弱点もカバーしています。この組み合わせ、すごいですね。
絶縁体
絶縁体は XLPE (クロスリンク・ポリエチレン)を使用。
誘電率が低いため、オーディオ・シグナルに対して優れた絶縁材料であり、一貫した低度のキャパシタンスと導電熱可塑性スクリーンにより最小限のノイズに繋がっています。
シールディング
PRSケーブルはブレード・シールドを採用していません。スパイラル巻きシールドを採用しています。
一般的なブレード・シールドに関してPRSは、「網状の物は網目を通して空気が入って来るように、ケーブルの場合は、穴、またはカバーの隙間からノイズや干渉が入り、音に影響を及ぼす」と言っています。柔軟性も制限し、ケーブル自体も硬くなるそうです。
PRS のスパイラル巻きシールドは銅の単線の平らな層を、芯線の周りに単一方向 (時計回りまたは反時計回り) に巻きつけて作られるためフレキシブルで、ケーブルの柔軟性にもほとんど影響を与えません。
こうした隙間の無いシールディングを行う事で、ノイズからサウンドを守っているんですね。
ちなみに...
安価なケーブルのスパイラル巻きだとこんな感じで隙間が開いているそうです。
ハイエンド・ケーブル総評
ハイエンドという事でくくった今回のシールド。どちらもサウンド的に優れているのはこだわり抜いた仕様とクオリティからという事が分かりました。もちろん価格だけではないのですが、こういったこだわりがあって、ギターサウンドが上質なものになって行くというのも事実。ぜひ一度試して頂きたいと思います。
9月9日追記※本記事公開時記載のVOVOX製品名、および製品情報に誤りがございました。訂正してお詫び申し上げます。