アコースティックギターファンの皆様こんにちは。
仙台ロフト店アコースティックギター担当の吉田(よしだ)です。
10月下旬に“Martin Factory Tour2025”に参加してまいりました。
今回はその様子をレポートにまとめました。
4日間のツアーでお伝えしたいことが盛りだくさんです。
前編と後編の二回に分けお届けいたします。
是非ご覧くださいませ。
※動画をスクリーンショットした写真も多いため、画質が荒い画像もございます。
予めご了承くださいませ。
今回のツアーのメニュー
さて、今回のツアー内容をザックリまとめますと
- 店舗オーダー品の木材選定
- Pre-Build Custom品の買い付け
- 工場見学
- マーティン・ミュージアムの見学
の4つです。
それでは出発です。
1日目:日本出国〜アメリカ入国〜滞在先のホテルへ
仙台駅から羽田空港→ニューアーク・リバティー国際空港を経由し、滞在先のホテルに向かいます。
まずは羽田空港で他の参加者の方々と集合。
出発が少し遅れ、ニューアーク空港まで15時間ほどのフライトでした。

ニューヨーク上空の様子。
高層ビルが立ち並びます。
さすがの大都市です。

ニューアーク・リバティー国際空港に無事到着しました。
こちらの車でMartin Factory 近くのホテルに向かいます。
こんなに大きな車に乗るのは初めてです。
参加者13人全員で乗り込みます。
せっかくなので現地のハイウェイを走る様子も、車の中からご覧ください。
ホテル到着後、この日は参加者の皆さんと軽くピザなどの夕食を取り、明日に備えて就寝します。
2日目:工場見学〜オーダー品の木材選定
二日目は工場見学から始まります。
朝食を済ませ、いよいよMartinファクトリーへ向かいます。
Martin社へ向かう車窓から見える様子をお届けいたします。

無事到着。
トップ写真にも掲載しておりますが、Martinファクトリーのイメージと言えば、「C.F.MARTIN & CO.INC.」と文字が書かれているこちらの建物ですよね。
到着して気がついたのですが、Martinファクトリーの外観と車窓から見えた街並みは、どこか風合いが似ていませんか?
“Martin工場の周りには広々とした風景が広がっている”とイメージしていたのですが、実際は住宅地の中にありました。
いよいよ入館です。
まずは1Fの様子を動画にまとめましたので、是非ご覧くださいませ。
工場見学


まずは創業者のクリスチャン・フレデリック・マーティンと、巨大なアコースティックギターのオブジェがお出迎え。
動画でご紹介したエントランスもそうでしたが、“アコギの王様”とも言われるMartin社ならではの、“アコースティックギター”を感じさせる魅せ方はさすがの一言です。


Martin社は環境にも配慮しており、極力無駄のないようネック用の木材を切り出します。
ネック部分はCNCルーターで大まかに成形され、最終的には手作業で仕上げられます。
基本的にブリッジは指板と同じ材質で製作します。

Xブレーシングは1843年にMartin社が発明(完成させたという意味の説もあり)。
Xブレーシングにより、加わる重量を最小限に抑えつつ、その中で最大限にトップ材を補強をすることに成功しました。
“鳴り”と“耐久性”
“鳴り”と“耐久性”は相反します。
トップ材の補強材を増やせば増やすほど、丈夫になる一方で振動は減ります。
逆も然り、です。
独自のMartinサウンドの秘密は、こちらのブレーシングが一因です。
ちなみに基本的にはブレーシング材はトップ材と同じ材です(カスタムオーダー品で別々の選択も可能)。


ロゼッタの埋め込みは手作業です。

カスタムショップのセクション。
写真はクリスさんです。
Authenticシリーズなどを担当しております。



ブレーシングを削っております。
上記写真で3名の職人さんがブレーシングを削っている通り、カスタムショップ以外の製品は「特定の作業を特定の職人が行う」ということはございません。
時によっては新人さんに教えて実施してもらうこともあるそうです。
さすがはMartin社。
後進の育成にも力を入れていますね。




ボディ側面・内部の取り付け方を説明いただきました。
テーブルに置かれたペアリングされた側板(赤丸)にネックブロック(青丸)を取り付け、その後ボディエンドブロック(緑丸)を取り付け、最後にリボンライニング(黄丸)でしっかりと取り付けます。


バインディングの溝切り作業です。
今では生産効率向上のために機械でも実施しておりますが、この時はスペシャリストが手で成形しておりました。

バインディングを接着し、こちらで段差をなくします。


この日はスタッフが昼食に出られていたため実際の作業の様子は撮影できませんでしたが、こちらでトラスロッドを入れて指板を付ける作業が行われます。
ちなみにMartinは2WAYロッド(出荷時に順反りも逆反りも対応可能)です。


塗装やサンディングをするスペースです。
Martin社は環境にも配慮しているため、端材が飛ばないよう吸引機に吸い込まれるようになっております。
また、これにより他のギターに端材が混ざらないため、品質を保つことができます。


マホガニーネックが置いてあります。
私達が普段目にするマホガニーネックは、左画像のように染められているものが多いですが、本来のマホガニーネックの色は右画像のような色です。

ネックのテンプレートです。
「LOW PROFILE」など、こちらを当てがい成型いたします。

塗装の最終検品場所です。
塗装は6〜8回重ね塗りをします。

エレキギターが展示されております。
1980年代はパンクミュージックやディスコミュージックが流行った背景もあり、エレキギターが流行。
その結果アコースティックギターメーカーが非常に苦しんだ時代でした。
Martin社では現在エレキギターは製作していないため、当時日本の代理店だったトーカイ楽器に委託してエレキギターを製造、販売していました。

バフ掛けです。
近年ロボットでバフ掛けをするメーカーが増えておりまして、Martin社も取り入れております。

こちらでは、ロボットでバフ掛けをしたギターの検品を行います。
何かエラーがあれば作業を戻します。

旧倉庫です。
以前はこちらから出荷しておりましたが、現在はディストリビューションセンターがあるため、こちらは保管庫になっております。
こちらからディストリビューションセンターに出荷されます。

Martin使用アーティストがズラリと並んでおります。

PLEKもありました。

最終アッセンブリーはこちらで行われます。

時間の都合上で見学出来ませんでしたが、地下では木材加工などが行われているそうです。

ネックヒール部分を丁寧に仕上げております。



お寿司やハートが描かれた指板など、ユニークな指板もありました。
以上、工場見学でした。

昼食はハンバーガーです(実際には木材選定の合間にいただきました)。
自分たちで好きな具材をサンドイッチにして食べます。
あまりにおいしそうすぎて、完成したハンバーガーを撮り忘れてしまいました…。
非常にボリューミーで、1つでお腹いっぱいになりました。
さて、木材選定へ移ります。
オーダー品の木材選定


昨年新設された“Custom Shopショールーム”にて実施。
壁には3日目に商談会を実施予定の“Pre-Build Custom品”が展示されております。




こちらのお部屋では、カスタムの商談も行われるため【指板、ブリッジ、ロゼッタマテリアル、ヘッドプレート、ブレーシングパターン、新素材】などが観られるようになっていました。

隣には“トーンブース”と言われる試奏部屋がございます。
アコースティックギターの演奏には最適の音響環境で、レコーディングルームのようでもありました。
アンプに繋いで音を鳴らすこともできれば、調光機付きの照明もあるため、YouTubeなどのコンテンツを撮影することもあります。
それでは選定を始めます。
今回は仙台ロフト店分2本と静岡パルコ店分1本、計3本分のトップ材・バック材を選定しました。
- 木目の整い具合と詰まり具合
- 木目の濃淡(力強さの有無)
- 木全体の色の濃淡
- タップによるサウンドチェック
- 木のしなり具合
- etc.
完成品をイメージしつつ、様々な観点からじっくりと選定いたします。
①CTM000-28C Sitka VTS(仙台ロフト店)
公式ホームページをご覧いただくとお分かりの通り、現在スタンダードシリーズのレギュラーラインナップには000シェイプのカッタウェイモデルはございません。
「ソロギタリストに人気の000だから、きっとカッタウェイが欲しい方がいるはず」という想いからオーダーしました。

まずはトップ材のシトカVTSを選定。
毎度お馴染み、Martin社の材選定のスペシャリスト:Danさんにも協力いただきました。
VTSを施された材は色が焼けがちですが、その中でもクリアフィニッシュが映える、明るめの色から選別。
VTSとは
「Vintage Tone System」の略で、木材を特別な熱処理を人工的に施すことで“経年させる”Martin独自のシステム。
主に表板やブレーシングに使用され、ヴィンテージギターのような軽さ・レスポンス・熟成されたトーンを新品状態から狙います。
Martin公式ブログ(英語)のテストでは、
- 音の立ち上がりの速さ
- オープンな鳴り
- ヴィンテージ的な音のまとまり
といった点で、VTS搭載モデルの特徴が確認されたと報告されています。
ただし「どちらが上位」というよりは、通常のトップとVTSトップは「音色キャラクター違いの選択肢」として提示されている、という位置づけです。
カラーと音色はなるべくリンクさせたいので、タップ音(軽く叩いた時に出る音)がより明るい材をセレクト。
※ちなみに、現在スタンダードシリーズのトップ材は“シトカ・スプルース”と明記されておらず、“スプルース”のみの表記になっておりますが、今回は特別にシトカでご用意いただきました。

続いてバック材のイースト・インディアン・ローズウッドを選定。
これだけ大量の中から選ぶことができました。

ローズウッドの魅力と言えば、やはり力強い木目です。
そのためまず最初に濃い板を選別。
その中から、比較的まっすぐで濃淡のしっかりした個体を選別。
観てください、この力強いローズウッドを!
Danさんにも“Good choice!”と言われるほどの、納得の1枚です。
②CTM OMC-28 Ambertone(仙台ロフト店)
こちらも上記000と同様の理由でカッタウェイモデルですが、アンバートーンカラーでオーダーします。

トップ材のシトカVTSから選定です。
アンバートーンに合う、温かい色からセレクト。
その中でも色が均一でムラがないものを選びます。
最後に低音が損なわれがちなカッタウェイモデルということで、タップ音がより暖かいものをセレクトしました。

同様の流れでバック材のイースト・インディアン・ローズウッドを選定。
こちらは濃さにこだわらず、木目が一番美しく詰まった個体をセレクト。
木目が綺麗で幅も狭い最高の一枚を発見。
目に入った瞬間に選びました。
まさに運命の出会いです。
③CTM000-42 Quilted Maple Premium(静岡パルコ店)
こちらはなんとオールキルデッド・メイプルで、カラーが“Custom Shadow Burst(Trans-Black Edge Burst)”。
しかも材はマスターグレードからセレクト。
大変豪華で特別なギターです。
今回はオールキルデッド・メイプルのため、トップとバック材を一緒に選びます。
今回はDanさんと同じく材選定のスペシャリスト:Jimさんにお手伝いいただきます。


これだけ大量のマスターグレードから選定。
アルコールをかけて比較してみると、明らかに深いキルトが。
キルトにもキルト特有の丸いうねりが強めのものと、縦の線が強めのものがありましたが、今回はキルト特有の丸いうねりのある個体を選定。

マスターグレードの中でも最高の材を選ぶことができました。
材選定を終えてホッとしていると、なんとそこに…

サプライズでクリス・マーティン4世が登場!
Martin社の現会長で、創業者であるクリスチャン・フレデリック・マーティンから数えて6代目の代表者です。
すかさず記念にツーショットです。
素敵な締めくくりで無事木材選定が終了。
これらのオーダー品は一年〜一年半後を目処に仙台ロフト店と静岡パルコ店に入荷予定です。
※納期は前後する可能性がございます。
金額などは入荷時のレートによって変動するため、各店へお問い合わせくださいませ。

その後はMartin社の方々と一緒に夕食。


お通し的なパンとアスパラガスでこの大きさと量でした。
そしてメインディッシュを撮り忘れてしまうという今旅2回目の失態…。
すみません。
本当においしそうでつい…(実際とてもおいしかったです!)。
そして長いようで短かった2日目が終了。
ここまでご覧いただきありがとうございます。
後編では皆さんお待ちかね、商品の買い付けです。
全て世界に一本しかない貴重なギターをご紹介いたします。
ご期待くださいませ!






