PRS ピックアップの特徴
自社開発に注がれる膨大なエネルギーと「TCI」の革新

ナンバード・シリーズの前に、PRS ピックアップの特徴をご紹介します。
PRS は自社の各モデルが持つポテンシャルを最大限に引き出すため、PU を自社で設計・生産(SEはOEM)することにこだわり続けてきました。
ポール・リード・スミス氏は、いわゆる「PAF」をはじめとする歴史的なヴィンテージ・ピックアップを徹底的に解析し、そこで得た膨大なノウハウを自社製ピックアップの設計に注ぎ込んでいます。
部品製造から完成組立まで一貫生産するマニュファクチュアリングが PRS の特徴ですが、これに費やされる時間とエネルギーは想像を絶するものがあります。
また、近年の PRS を語る上で欠かせないのが「静電容量(Capacitance)」と「誘導係数(Inductance)」の関係性に着目して、ピックアップを開発・製造する「TCI(Tuned Capacitance and Inductance)」です。
静電容量、誘導係数に関する詳しいことは専門家にお任せしますが、ギターにマウントする前の段階で、狙ったサウンドキャラクターを科学的に、かつ音楽的に特定することができるようになりました。
使用するワイヤーやマグネットを始めとした、PRS 独自のレシピでピックアップを製作することで、クリーンからドライブまで、意図したサウンドをコントロール可能な「音楽的なデバイス」としての PU を完成させました。
また近年の PRS は、ハムバッカーでありながらシングルコイルのニュアンスに肉薄するようなトーンデザインを目指しています。
ワイヤーのテンションも PU ごとに調整するだけでなく、AWG○○といったワイヤーを製作する治具まで自社用に開発するこだわりです。
ワックスポッティングは PU によって2種のワックスを使い分けており、さらに JM635PU だけは全品検品を行い、2kHz が出るようにレジスターや抵抗を取り付ける場合があります。
ギター本来のトーンをキャプチャする「マイク」としての役割

ピックアップに関して、忘れてはならない本質的な視点があります。それは「PU はあくまでマイクである」ということです。
人間がマイクを変えただけで歌が上手にならないのと同様に、PU だけでギターの音色を根本から作り替えることは不可能です。
PU の役割はボディやネックの材質、構造、そして弦の振動が織りなす「ギター本来の音色の特性」をキャプチャし、増幅することにあります。
「そのギターが本来持っていないサウンドは PU で付加することはできない」
これが重要なポイントです。
PUは基本的なトーンを拾い上げる役割であり、その楽器の「素性」を超えることはありません。だからこそ、アンプを通さない時点での「生鳴り」を確認していただきたいと考えています。その楽器が持つ本来の響きこそが、最終的なアウトプットの質を決定づけるからです。
仕様から読み解くキャラクターと、カスタマイズの自由

先日、ポール・リード・スミス氏とピックアップについて対話する機会に恵まれましたが、その際、非常に興味深いことを語ってくれました。
「コイルの巻き方は周波数特性を決定づけ、マグネットはアタックのレスポンスを決定づける」
このシンプルながらも本質を突いた言葉に、PRS ピックアップの設計思想が凝縮されています。
私たちがピックアップを選定する際、客観的な指針となるのが「マグネットの種類」と「直流抵抗値」です。
やや簡略化した定義ではありますが、直流抵抗値が高いほど高出力でハイゲインな傾向にあり、低いほどヴィンテージライクで明瞭なローゲイン・サウンドとなります。英語表記であれば「DC Res」の数値が直流抵抗値です。
また、アルニコマグネット(I~V)は種類によって特性は異なりますが、伝統的で音楽的な温かみを持ち、セラミックマグネットはモダンでタイト、かつハイパワーなサウンドを構築する際にその真価を発揮します。
もちろん、PRS の各モデルにはそのキャラクターに最適化されたピックアップがデフォルトでマウントされています。しかし、ポール氏本人のスタンスは柔軟です。ポール・リード・スミス氏は「ピックアップはマイクなのだから、自分が求める音に合わせて自由に交換して楽しめばいい」と語っています。
特定の周波数帯域を強調したり、減衰させることで楽器に独自の個性を与えたい場合や、アンプの入力をより早くサチュレートさせるために高出力な信号が必要な場合、フルオリジナルの価値を尊重することはもちろん大切ですが、手にした後に自分だけの理想のトーンを追求する「カスタマイズ」も有効な手段ではないでしょうか。
PRS Pickups ナンバード・シリーズ

ここからが本題ですが「最新こそが最高」というフィロソフィーを貫き、一切の妥協なくリファインを止めない PRS の歩みにおいて、その進化の礎となったヒストリックなピックアップにも、深い魅力が詰まっています。
そもそもは創業者ポール・リード・スミス氏が自分自身のギターに搭載するために特別に製作し、長らく「Private Stock」やごく一部の限定モデルという特別な個体でしかその音を聴くことができなかったのが、この「#8」「#9」「#10」といった希少なナンバード・シリーズです。

ナンバード・シリーズは他に、2000年代の PRS を象徴するシングルカット・モデルにマウントされた「#6(Singlecut Trem / 2004-2008)」「#7(SINGLECUT / 2000-2007)」といった名作も存在しており、当時の PRS が追い求めたサウンドの極致として、今なお色褪せない輝きを放っています。
現代の DMO、McCartyⅢ といったピックアップが持つ高い解像度も、こうしたポール氏の純粋な探究心から生まれたナンバード・シリーズ等の膨大な積み重ねがあったからこそ辿り着けた境地であり、この歴史を遡ることで最新モデルの真価をより深く味わっていただけるはずです。

今回、残念ながら#10 Treble だけは入手が叶いませんでしたが、それ以外のラインナップを見ると、直流抵抗値にして7.6kから11.2kあたりをカバーしており、いわゆる PAF をベースにしながらも、それをややホットに仕上げたような「豊潤で立体感のあるサウンド」が大きな魅力です。
特筆すべきは、耳に心地よく響く豊かな偶数倍音成分。音の奥行きと粘り強いロングサスティーンが同居しており、プレイヤーがシンプルに「弾いていて気持ちが良い」と感じられる、極めて音楽的な仕上がりとなっています

パッケージについても、現行のものとは異なる当時の旧タイプとなっており、当時の PRS の空気感が閉じ込められているようです。
モデル詳細
#8 Treble & Bass

トレブル側の抵抗値11.2kという数値が示す通り、PAF をベースにしながらもしっかりとパワーを持たせたセットです。Alnico IVマグネットを使用しており、AlnicoⅡのやや甘く音楽的な響きと、AlnicoⅤの持つタイトな立ち上がりの、ちょうど中間的なサウンドです。
弦振動をスポイルしない適度な出力が得られ、艶やかな倍音と、現代的な明瞭な解像度を高い次元で両立させています。プレイヤーのピッキングニュアンスを色付けなくアウトプットできる、極めて扱いやすくバランスに長けたピックアップです。


#8 Bass: Alnico4 / 7.6k / 1芯仕様


#8 Treble: Alnico4 / 11.2k / 1芯仕様
#9 Treble & Bass

こちらはヴィンテージ PAF のトーンプロファイルに忠実な、レンジの広いセットです。ブリッジ側の8.4kΩという設定は、ピッキングレスポンスのスピードと、豊かな偶数次倍音の共存を狙った絶妙なターン数です。
さらに、本来の仕様から4コンダクターへとコンバージョンした、非常に実用的なモデルです。PRS の伝統的な5-Way スイッチや、プッシュ・プルによるコイルタップ、さらには Mini-Sw を駆使した高度な配線バリエーションにも対応しており、微細なニュアンスを求めるプレイヤーの要望に応える高い汎用性を備えています。


#9 Bass Alnico4 直流抵抗値 7.5k
多様なアッセンブリへ対応するため、4コンダクターへモディファイ済。


#9 Treble Alnico4 直流抵抗値 8.4k
多様なアッセンブリへ対応するため、4コンダクターへモディファイ済。
#10 Bass

8.2kΩというフロント(Bass)ポジション用として、非常に優れたヘッドルームを有しています。PAF より僅かにパワーを持たせることで、低音域の解像度を維持しながらも、スウィートで豊潤なサスティーンを獲得しています。
AlnicoⅣ がもたらす素直な磁気特性が、弦の振動を抑制することなく自然にアウトプットしてくれるため、立体的な奥行きを持ちながら、高い解像度を実現しています。残念ながら、入手できなかった#10はホットなタイプですので、異なるキャラクターをミックスできたことが#10の魅力です。


#10 Bass Alnico4 直流抵抗値 8.2k 1芯仕様

今回は、#10 Bass(直流抵抗値 8.2k)& #9 Treble(直流抵抗値 8.4k)のセットで販売いたします。
下の動画は、DGT Semi-Hollow LTD に #9 Treble&Bass Pickups を搭載した個体の動画です。参考になれば幸いです。
販売に関して
こちらは、旧代理店時代に仕入れたものを店舗でストックしていたため、日頃のご利用の感謝の想いを込めて、当時の販売価格のままご案内させていただきます。
島村楽器オンラインストアにて販売しますので、下記リンクを参照くださいませ。
さいごに
長文にお付き合いいただき、誠にありがとうございます。
本記事が皆様のギターライフが豊かになる一助になれば幸いです。

平林 大一プロフィール
埼玉県出身。現在は静岡県に移り住んで15年が経過。
趣味は釣りとワインで、自然の中でリラックスする時間や美味しいワインを楽しむのが大好き。
2024年現在、PRS USAファクトリーでのオーダーやGIBSONナッシュビルでのバイヤー業務、国内外のギター・ベース、アンプやペダルのオーダーに携わっている。
所有楽器はPRS Private StockやAMPをはじめ、Fender 1963 Stratocaster、Gibson CS LP、Ken Smith BSR5、Vintage Ibanez & Maxonなど多岐に渡る。







