皆様こんにちは。島村楽器別室 野原のギター部屋管理人の野原です。
前回の記事で触れました通り、4月にナッシュヴィルにあるギブソンに訪問し、材選定やオーダー、完成品のハンドピック(現地買い付け)などを行ってきました。

例えば店頭で目にする「現地選定材」と書かれた1959レスポール・スタンダード・リイシュー。これは現地で一枚一枚手に取り厳選したフィギュアド・メイプルをボディ・トップに使用し、その表情に合わせたカラーや仕上げ、仕様を指定してオーダーしたモデルになります。









「Hand Picked」「現地買い付け品」と書かれたモデルも一本一本直接手にして選んだもので、通常ラインナップには無い特別仕様のものも多く含まれます。私が手にしている1961 ES-335 Reissue Pelham Blue Light Aged “Double Stinger to Match Body”もその1本。ボディ・カラーと同色のスティンガーは非常に珍しい仕様です。とてもお洒落ですよね。



現在ギブソン社から出荷される製品はいずれも品質が高く素敵なものばかりですが、よりスペシャルなものを入手できるのが現地訪問の魅力の一つでもあります。
他には現地スタッフの皆様との意見交換、ファクトリーの視察などを行いますが、その主な工程に関しましては同行しました札幌パルコ店坂口の記事や、私が以前に執筆しました特集記事「Gibson Brands Partner Experience in Nashville 2023 現地レポート」をご覧ください。
Gibson Nashvilleファクトリー訪問記2026 前編 (札幌パルコ店 坂口)
Gibson Nashvilleファクトリー訪問記2026 中編 (札幌パルコ店 坂口)
Gibson Nashvilleファクトリー訪問記2026 後編 (札幌パルコ店 坂口)
で、ここからが本題です。
4月の現地訪問では上記の他にどうしてもやりたかったことがあります。それがギブソン製品開発責任者マット・ケーラーさんへのインタビューです。

マットさんに初めてお会いしたのはもう何年も前のことになりますが、とにかく知識と経験が豊富な方で、いつも一緒に食事をする時はヴィンテージ・ギブソンの話で盛り上がります。世の中には造詣の深い方がたくさんいらっしゃいますが、その中でも指折りの存在として認識しています。
今回のインタビューではヴィンテージとリイシューについてや、日本国内で良く耳にするギターファンの意見についてなど、様々な質問をさせていただきました。残念ながらスケジュールの関係で対面でインタビューを行うことはできませんでしたが、後日わざわざ書面でご回答くださいましたので、ぜひ最後までお楽しみください。
ギブソン製品開発責任者マット・ケーラーさんインタビュー

まず最初に、音楽に目覚めたきっかけ、好きなアーティストやジャンルなどをお教えください。

私は4人兄弟の末っ子で、兄弟姉妹も音楽好きですし、ピアノの先生をしている母も音楽に親しんでいます。
家ではいつも音楽が流れていて、幼い頃は初期のロックンロールが一番好きでした。それがハードロックやジャズ、ブルースへと広がり、やがて楽器中心の音楽から、曲作りに重点を置いた音楽へと変化していきました。
好きなアーティストは多岐にわたりますが、B.B.キング、レッド・ツェッペリン、セロニアス・モンク、ブレイク・ミルズ、ビリー・アイリッシュまで!
数え切れないです。

ご自身の演奏経歴についてもお教えください。

私が生まれた時、兄は13歳にしてすでにギターを自在に弾けるようになっていました。
私は5歳の頃からレッスンを受け始め、間もなくチャック・ベリー、スコッティ・ムーア、ビーチ・ボーイズのリフをコピーしたのを覚えています。あちこちで小さなバンドを組んだり、高校や大学のジャズバンドでも演奏していました。大学時代から地元のブルース・ジャムに通い始め、ギブソンに入社する前、シカゴやロサンゼルスに住んでいた頃、それらの街のブルース・ジャムで定期的に演奏していました。
そしてギブソンに入社する直前に、初のソロアルバム『Rewrite History』をリリースしました。様々なジャンルが融合したソングライティングの集大成のような作品です。

マットさんはたくさんの楽器を所有されていると思いますが、所有するギターと、特に気に入っているモデルについてお教えいただけますでしょうか。

私がヴィンテージギターを多く所有しているのは、探し出す楽しさを味わいたいからです。
特に気に入っているのは、1954年製レスポール・ゴールドトップ、初期型ビグスビーB6を搭載した1954年製ES-295、 ファクトリー・ゴールド仕上げの1954年製L-7C、1930年製ケル・クロイドンKK-2アコースティック、アルゼンチングレイの1960年製ES-125TCD、ペルハムブルーの1966年製トリニ・ロペス・スタンダード、そしてバットウィング・ヘッドストックの1965年製エピフォン・リヴィエラなどです。
私の「この1本」であれば、ファクトリー・ブラックの1959年製ES-345です。ESシリーズのギターが大好きなんです。

ヴィンテージギターについてかなりお詳しいですが、興味を持ったきっかけは?

私はレス・ポールの故郷であるウィスコンシン州ウォーキショーの近くで育ち、その町でライバル関係にある2軒のギターショップでは叔父たちが働いていました。
ギターは常に私の身の回りに溢れていました。古いギターの中には信じられないほど価値のあるものがあることに気づいたのは、13歳になってからでした。そのため、私にとってeBay、遺品セール、質屋などは宝探しをしているような気分でした。
その頃ヴィンテージギターについてできる限り多くを学ぼうと努めました。知識が増えれば増えるほど、宝物を見つけ、即座に見極めるチャンスが増えると思ったからです。

ちなみに、初めて所有したヴィンテージギターはどんなモデルでしたでしょうか?

1970年製のサンバーストES-345。その後、なんと購入価格の2倍で売れたのです!その経験がきっかけとなり、ヴィンテージギターに関わる長いキャリアが始まりました。
私が初めて手に入れ、長期間愛用したヴィンテージギターは、ビグスビーの1962年製のES-330TDCでした。

日本ではヴィンテージにフォーカスした専門書などが多数発売されていますが、ヴィンテージギターの知識はどのように習得されましたでしょうか?

本、本、そして本……。そして数え切れないほどの実経験。私がこれまでに見てみたいと思ったヴィンテージギターのほとんどすべてに触れる機会を与えてくれた、コレクターやプレイヤーの友人たちには本当に感謝しています。
ギターに関する知見については実経験に及ぶものはありません。なぜなら、今でも毎日が新たな発見と学びの連続だからです。

マットさんがギブソンに入社した経緯、数あるブランドからギブソンを選んだ理由についてお教えください。

当時ギブソン・カスタムのゼネラルマネージャーだったリック・ゲンバーが、共通の友人であるジョー・ボナマッサの推薦で私をスカウトしてくれました……。ジョーは、私がこの業界で仕事を探していることを知っていたのです。
ギブソンは私にとって第一候補でしたし、私は一生ギブソン派です。

ギブソンに入社してから現在まで、どの様な仕事をされてきましたか。

ギブソン・カスタムに入った後、私は多数の仕事を同時にこなしていました……。
SNS用の写真をすべて撮影し、それらのキャプションをすべて書き、製品ラインナップを管理して、新製品の発表(2017年から2018年にかけては特に多かった)をすべてを担当し、ウェブサイトの仕様書やコピーをすべて作成し、カスタムオーダーのメイド・トゥ・メジャー・チームを率い、ディーラーへの出張にも行き、他にもきっと忘れてしまっていることがあるでしょう。
長時間労働の日も多く、徹夜も何度かありました…。しかし、その経験は今の私の仕事に欠かせないものとなっています。

現在の仕事内容についてお教えください。

30名以上の素晴らしいチームと共に、当社の全製品群の開発を担当しています。

私の連載の読者の多くは特にエレクトリックのヴィンテージ・リイシューにご興味を持たれている印象ですので、ここからはヴィンテージ・ギブソンやそのリイシューについてお伺いしたいと思います。
リイシューを製作するためにオリジナルの個体を計測してきたと思いますが、御社はこれまでに1950年代のバーストは何本ぐらい採寸されたのでしょうか。

ざっとですが約100本で、その半数は過去10年間に採寸しています。

こうしたオリジナルの計測やリイシューのアップデートは公表していないところでも行っているのでしょうか。

仕様変更については適切にお伝えできるよう努めています。しかし、私たちは常に改善に努めています。例えば近年であれば、機能部品としても精度を改善して、形状の再現度も高めたABR-1のように、新たな部品の調達が可能になったタイミングでランニングチェンジを行い、その変更について後日に他の情報と共に発表させていただくことがあります。

ヴィンテージ・ギブソンを復刻する上で気を付けていることや大切にしていることは何でしょうか。

ルックス、フィーリング、そしてもちろんトーン。単純なことですが、それら全てがヴィンテージ・ギブソンの所有感を得るために重要な要素です。

これまで数多くのヴィンテージ・ギブソンを手にされてきたと思いますが、マットさんが思う1950年代~1960年代中頃までのサウンドの特徴や印象、魅力などを教えてください。

テッド・マッカーティーが活躍した時代、それ以降も含めて、ヴィンテージギターに触れる機会が増えるほど、モデルや製造年に関わらず、素晴らしいギターはやはり素晴らしいのだと確信するようになりました。それがギブソンの素晴らしいところです。
1950年代、1960年代に製造されたギターは、今や伝説となっており、そうしたギターには最も胸が躍りますが、それは音楽とギターの歴史における、あの素晴らしい時代とのつながりによるものが大きいと思います。

個人的には音の立ち上がりが良い(=レスポンスが速い)解像度の高い音と捉えているのですが、いかがでしょうか?

確かに、その時代のモデルに採用されていたセントララブ製のポットのおかげで、ノートやコードの明瞭さは抜群でした。
私たちは2019年、新しいポットの開発によって、そのサウンドを再現するために全力を尽くしました。音の立ち上がりについては、1970年代のレス・ポール・デラックスについても、おそらく同じことが言えるでしょう。

1950年代~1960年代中頃までのP-490(PAF)ピックアップについてですが、マットさんから見たPAFの印象を教えてください

私にとってはピックアップそのものよりも、各パーツの総合的な働きの方が重要です。配線ハーネスも重要ですし、弦に触れるあらゆるパーツ、例えばペグ、ナット、ブリッジサドルなども。
しかし、当時のハムバッカーにみられた、磁石の種類、ワイヤーの巻数のランダムさが生み出すPAF独特のキャラクターには、何か特別なものがあります。

発売以来様々なアップデートを繰り返しオリジナルに肉薄したプロダクトに成長したヒストリック・リイシューですが、あえてオリジナルとリイシューの相違点(見た目、音、材など)を挙げるとするのであればどのような点でしょうか。

まだ課題がいくつか残っていることは私たちも認識しています。それらの仕様のアップデートに着手していますが、詳細はまだ明かせません!

ビジネス的な制約(生産本数や予算、製作時間など)が無い条件で究極のリイシューが作れるとします。現在のリイシュー(例えばMurphy Lab)をどのようにブラッシュアップされますか。

サンバースト塗装にアニリンダイを使えたらと思うのですが、それをスプレーで塗布する場合、製造現場の事情と製品を出荷した後の一貫性の面で不可能です。ギブソンがレスポール・サンバーストにアニリンダイを使用したのが短期間だったのには、それなりの理由があるのです。
トム・マーフィーが言うように、今、私たちが採用しているフィニッシュであれば、お客様が求める特定の色味の仕上がりを最初から正確に再現できます。例えば同じ色のジーンズを出荷した後、“どのように色落ちするのかわからない”ということではなく、最初からさまざまな色落ちのバリエーションで仕上げることができますから。

ではサンバースト塗装にアニリンダイを使用したリイシューは実現は、、、

ファクトリーで製造している他のすべてのモデルやカラーの品質を犠牲にすることなく、大規模に実現することは絶対に不可能です。

ギターファンの中には、そのうち良質な木材が枯渇してしまうのではないかと心配されている方もいらっしゃいますが、その点についてはいかがでしょうか。

私たちも同じように懸念していますが、ギブソンは材を得る森林を持続させるために多額の投資を行っています。

マホガニー材についてですが、「1950年代のものが良い」「1990年代のマホガニーは今のものよりも良かった」など様々な意見を目にしますが、この辺りについてはいかがでしょうか。現在使用されているマホガニーの質や特性についてもあわせてお聞かせください。

確かにある程度の違いはあるでしょうし、当時調達された木材の多くは、はるかに樹齢が古いものであったはずです。しかし、適切に乾燥させ、重量別に選別されていれば、密度や音響特性はほとんど変わらないはずです。

メイプル材についても「1950年代のものの方が硬い」という意見を目にしますが、これに関してはいかがでしょうか。

私はそうは思いません。ウェスタン・メイプルはイースタン・メイプルよりも柔らかい傾向にありますが、一般的な認識とは異なり、1950年代のギブソンではイースタン・メイプルに加え、ウェスタン・メイプルも使用されていました。

世界中の人々にギブソンが求められているのはなぜだと思われていますか。

その理由は、幅広く豊富なラインナップ、音楽史、音楽ジャンルの黎明期との直接的なつながり、そしてその結果として「家宝」レベルの投資対象となっている点にあると思います。

それらを踏まえて、今後どの様なことを行っていきたいですか。

本当に、本当にクールなことを計画しています。それ以上は、まだお話しできません。

日本のマーケットやファンの印象についてお聞かせください。

日本のギター愛好家の方々は、まさに私と同類です!私たちは「ギターオタク」という共通言語で通じ合っています。皆さんの細部へのこだわりや、今回のインタビューの質問からも伺えるような深い理解のおかげで、ギブソン製品は長年にわたり飛躍的に進化してきました。
また、日本の愛好家の方々は、私たちの製品に込められたクラフツマンシップや芸術性を心から評価してくださっているようで、そのご支援に心から感謝しています。

最後に日本のギターファンに向けてメッセージを願いします。

ギブソンは皆さんを愛しています!これからも素晴らしい音楽を作り続け、私たちの製品への情熱をもって、私たちをさらに成長させてください。また日本を訪れる日が待ち遠しいです。

以上、マットさんのインタビューでした。
私の連載の中でも何度か書いた記憶がありますが、「最近のギブソンは面白いですよ」とお客様にお話しすることが多々あります。これは販売員としてのセールストークではなく、一人のギター好きとしての率直な感想です。
私の中でハイドグルー(膠)が採用された辺りからコアなギブソン・フリークが喜ぶようなアップデートが積極的に行われている印象があったのですが、マットさんにお会いした時に「なるほど」と妙に納得したのを覚えています。
「まだ課題がいくつか残っていることは私たちも認識しています。それらの仕様のアップデートに着手していますが、詳細はまだ明かせません!」
「本当に、本当にクールなことを計画しています。」
マットさんのこの発言、色々と期待してしまいますね。発表されるその日まで、色々と予想をしながら楽しみに待ちたいと思います。
最後に、今回ご協力くださいましたマット・ケーラーさん、ギブソン社の皆様に感謝申し上げます。











