皆様こんにちは。島村楽器静岡パルコ店、店⻑兼バイヤーの平林です。
Vol.5では、先日入荷した貴重なPrivate Stockをご紹介いたします。
PRS Private Stockとは

既にご存知の方も多いと思いますが、本連載でPrivate Stockの実機をご紹介するのは初めてなので改めてご説明します。
Private Stockは1995年の”Guitars of the Month”プログラムに端を発して、Paul Reed Smith氏のもとで少数の敏腕ルシアーのチームにより、ミュージシャン向けにカスタム・ギターを製作するプログラムとして1996年にスタートしました。
最高級の材料を用い、1本ずつのオーダーにより製作される楽器であり、PRSで最高レベルのカスタマイズが可能です。
BTO(ビルト・トゥ・オーダー)インストゥルメントでも、すべてのPrivate Stockは「その1本だけの」ワンオフ・メンタリティで扱われ丹念に製作されます。
家宝レベルのクオリティの楽器をお届けするプログラム、それがPrivate Stockです。
Private Stock Director : Paul Miles

↑ポール・マイルズ氏
Paul Miles氏(以下、マイルズ氏略)は、Private Stock部門のトップであるディレクターを務めるベテランのギター職人です。
1991年にPRSに入社し、30年以上にわたりPRSでのギター製作に携わっています。
彼はディレクターとしてPrivate Stockのギターが最高の品質と美しさを備えるように、木材の選定からデザイン、製作、最終チェックに至るまで、細部に渡って監督しています。実際にPRSファクトリーを訪問すると、マイルズ氏とマテリアルの選定やスペックに関して詳細を打ち合わせながらオーダーします。
マイルズ氏の木工やギター製作に関する高い専門知識、木材選びや仕上げの技術に対する鋭い感覚は、Private Stockギターの高い品質を支えていて、現在もモダンギターとしてPrivate Stockが進化し続けているのは、マイル氏の力が非常に大きいと感じています。
マイルズ氏のディレクション下で製作されたギターは芸術的でありながらも楽器として優れているため、ミュージシャンやギター愛好家から高い支持を集めています。また、世界中の楽器ショーでPRS Guitarsのプロモーション活動も行い、ミュージシャンやカスタマーとの関係を築く重要な役割を担っています。

Private Stockチームはディレクターであるマイルズ氏を中心とした、19名という少数精鋭のチーム(2024年時点)で構成されています。
400名程在籍するPRSスタッフの中から、特に高いギター製作スキルを有したスタッフが選出されます。
Private Stockチームから生み出されるプロダクトはPRSのデザインと製作の頂点を極めます。既成概念にとらわれず限界に挑戦し続けることで、音楽を奏でるツールとして新たな可能性を見出すだけでなく、芸術作品としても唯一無二の美しさを誇ります。1本1本に職人の熟練した技術と情熱が注ぎ込まれ、細部に至るまで精密に仕上げられます。選び抜かれた最高品質の木材やパーツが用いられ、熟練の職人によって手作業で組み上げられるため、全てにおいて完成度が高く、モダンギター製作の最高峰と呼ばれるほど傑出しています。
上述のチーム、メンタリティで製作されるPrivate Stockはプレイヤー、コレクターに愛されているだけでなく、ギター業界全体にも多大な影響を与えています。
Private Stock #6548 Custom 24 Retro/ Spider-Man Dragon’s Breath/ Stained by Paul Miles
前置きが長くなりましたが、今回ご紹介する1本の全貌をご覧くださいませ。

こちらは2010年代に開催された日本の楽器店主催イベント用にPRSがUSAファクトリーから厳選したボディを持ち込み、マイルズ氏がイベント会場でカラーを決めて着色する様子まで、公開デモンストレーションした個体です。

PSディレクターであるマイルズ氏が自らカラーを決めて、着色したということが証明できるモデルは極々少数です。

アメリカンコミックのヒーローの象徴的なスーツを見事に表現しているだけでなく、PRSギターとしての魅力を更に際立たせるカラーです。
細かい部分ですが、ピックアップ・マウントリングにホワイトカラーを使用することでヒーローの目を見事に再現しています。

赤からピンク、パープル、そしてブルーへと外周に向かって美しく移り変わるグラデーションカラーは、卓越した塗装技術だけでなく、アメリカで生活するマイルズ氏独自の色彩感覚を鮮やかに表現しています。

PRSの「Dragon’s Breath」カラーは非常に美しいグラデーションを持つフィニッシュで、ドラゴンの息(ブレス)から生まれる炎をイメージさせるダイナミックなデザインが特徴です。ボディ中央から外側に向かって炎のように色が変化するグラデーションで、杢目の美しさと立体感を引き立てます。
こちらのSpiderman Dragon’s Breathは燃え盛る赤い炎と、それに対する青い炎の温度差を見事に表現したカラーで、まるでドラゴンの息から立ち上る熱気を描いたかのようなアーティスティックなフィニッシュです。特に、ボディエンド部に広がる深く奥行きのある杢目を存分に堪能していただけます。

美しいバイオリンカーブのアーチが最上級グレード・カーリーメイプルの立体感を引き出しています。
モデル名に「Retro」と付くCustom 24 Retroはプリファクトリー期と呼ばれる1985年創業以前〜1980年代創業当時のCustomのハンドカービング・シェイプをベースにしています。ボディのバイオリンカーブが異なり、ホーン部が鋭角でリム部のエッジも際立っています。

こちらでハンドカーヴィングによる際立ったボディエッジをご確認いただけます。
バイオリンカーブと杢目を活かした透明感のある仕上げが施され、光の当たり方によって輝きが変わる美しさがあります。

塗装の質感をご覧いただけるように照明を当てていますが、木部の凹凸が分かるほど薄いフィニッシュであるということが見てとれます。
PRSで使用されるNitroラッカー塗料はPrivate StockとCoreモデルで異なります。 特にPrivate Stockでは硬質で薄いフィニッシュを実現するため、取り扱いが難しい特別な塗料が使用されています。この塗料は熟練した職人だけが扱うことができる、高度な技術を要するものです。

ボディバックには最上級PSグレードの柾目のマホガニー材が使用されています。

マホガニーの中で大変貴重な、リボンマホガニーが使用されており、ボディバックでも揺らぎのある杢をご覧いただけます。
マホガニー材の中で特有の「リボン杢」と呼ばれる美しい縞模様が現れたものをリボンマホガニーと呼んでいます。

ネックジョイントをご覧ください。
Reteoには初期PRS同様スモールヒールと呼ばれる、小さなヒール形状が採用されます。ハイポジションへのアクセスが良く、洗練されたサウンドをもたらします。

ヘッドにはPrivate Stockの象徴であるイーグルが燦然と輝きます。

パウアシェルを使用したイーグルインレイと、カーリーメイプルを用いた3色のステインド・ペグボタンがボディとの調和をさらに高めています。

ヘッド裏には「Private Stock 通しナンバー」 「デイト」 「シリアルナンバー」に加えて、ポールリードスミス氏とマイルズ氏のダブルサインが入ります。

フィンガーボードには上質なダークカラーのブラジリアンローズウッドが使用されています。
年々、ワールドワイドでCITES1の輸出入に関する規制が厳しくなっていますが、PRSの企業努力により日本への入荷は継続できています。
しかし、EUではピック1枚でも規制がかかるほどに厳しい状況のため、ブラジリアンローズウッドを使用した製品の輸出入がいつストップしても驚きません。

ブラジリアンローズウッドらしい道管です。
こちらは私の推察ですが、インレイマテリアルのパウアシェルにはボディカラーに合わせて、赤や青のマテリアルが使用しています。オーダーでパウアシェルを選択した場合、多くの場合はブルーカラーのマテリアルが使用されます。

ピックアップにはMetalが2機マウントされています。
Metalピックアップはメロイックサインがロゴのモチーフとなっているように、メタルサウンド等に特化したピックアップです。
セラミックマグネットが使用され、高出力かつモダンな仕様を持っています。
トレブルピックアップは直流抵抗値が15.7kと高出力ですが、歪ませても1音1音が分離しているのは流石PRSです。対照的にベースピックアップは直流抵抗値が8.4kとローパワーでクリアなサウンドです。開発はトレモンティピックアップが元となっております。
シャープでタイトな低音とクリアな高音が得られ、クリーンサウンドではクリスタルトーンを、ドライブサウンドでは各弦の分離感が良く、アンサンブルの中でも埋もれず、リードパートやリズムパート問わず際立つトーンが得られます。
レトロな設計にモダンなピックアップを搭載するという面白い試みですが、非常にマッチしています。

Private Stock専用のブラウン・レザーケースを開けるとPSイーグルが現れます。
この瞬間を何度も楽しめるのは手に入れたオーナーの特権です。

2016年製のモデルですがファーストオーナー様が大切に保管されていたため、クリーン・コンディションをキープしています。

もちろんPrivate Stock Certificate(証明書)も完備しております。
認定書には細かなスペックが記載され、出荷時の仕様証明にもなります。
こちらは紛失すると再発行不可ですので、厳重な保管と念のためのコピーをお勧めいたします。


認定書にもポールリードスミス氏とマイルズ氏のダブルサインが入ります。

こちらの個体は外箱まで完備していますのでファーストオーナー様のギターへの愛情を感じることができます。
上述の通り、フィンガーボードはブラジリアンローズウッド指板ですのでINTERNATUIONAL BRWのラベルが外箱に付きます。
以上がこちらのギターのご紹介です。
木材という自然の神秘と、人知の結晶が生み出すギターという楽器ですが、本機はその真髄を体感することができる至極の1本です。
販売に関して
2024年11月16日(土)・17日(日)に渋谷ストリートホールにて開催される、PRS GUITARS & AMERICAN VINTAGE GUITAR SHOW 2024島村楽器ブースにて販売いたします。
ご相談がございましたら、島村楽器静岡パルコ店 平林までお問い合わせくださいませ。
長文にお付き合いいただき、誠にありがとうございます。
本記事が皆様のギターライフが豊かになる一助になれば幸いです。

平林 大一プロフィール
埼玉県出身。現在は静岡県に移り住んで15年が経過。
趣味は釣りとワインで、自然の中でリラックスする時間や美味しいワインを楽しむのが大好き。
2024年現在、PRS USAファクトリーでのオーダーやGIBSONナッシュビルでのバイヤー業務、国内外のギター・ベース、アンプやペダルのオーダーに携わっている。
所有楽器はPRS Private StockやAMPをはじめ、Fender 1963 Stratocaster、Gibson CS LP、Ken Smith BSR5、Vintage Ibanez & Maxonなど多岐に渡る。