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PRSギターの選び方|バイヤー平林が綴る PRSという美学Vol.3【Paul Reed Smith】

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PRSギターの選び方|バイヤー平林が綴る PRSという美学Vol.3【Paul Reed Smith】

記事中に掲載されている価格・税表記および仕様等は予告なく変更することがあります。

皆様こんにちは。島村楽器静岡パルコ店、店⻑兼バイヤーの平林です。
Vol.3では、PRSの選び方について語ります。

私がギターを選ぶうえで最も重要なのは「個人的に好きな1本を選ぶ」ことだと考えていますが、ギターは個体ごとに違いがありますし、各社様々なシリーズ・モデル・価格帯があるので自分で色々調べて理解し、お気に入りの楽器を選ぶのは極めて難しい作業だとも同時に感じています。

もちろん偶然の出逢いも素敵ですが、特にPRSギターは決して「お求めやすい」とは言えない価格のお買い物なので、より納得して決めたいものだと思います。

今回は私が実際にお客様とPRSギターを選ぶ際にご説明している内容と、PRSギターの仕入やオーダーを行う際に重視している点を包み隠さず全てご紹介いたします。

皆様が最愛の1本と出逢える一助になれば幸いです。
長編ですがお付き合いくださいませ。

シリーズ・価格の違い

PRSギターは一見するとルックスが似ているため「どのギターを選んで良いのか分からない」というご相談を数多くいただきます。

選ぶうえで1番ポイントとなるのは「モデルごとにコンセプトが大きく異なり、サウンドやプレイアビリティが変化する」ということです。

また、ギターを購入する際に気になるのはやはり価格だと思いますので、初めにシリーズと価格の違いをご説明いたします。

PRS製品を大きく分けるとUSA工場で生産される各シリーズと、インドネシア工場でOEM生産されるSEシリーズがございます。
※SEホロウボディ、アコースティック製品は中国製です。

オプションの有無や、海外ブランドの価格は為替によって大きく変化しますが、2024年夏時点でのシリーズ・販売価格は下記の通りです。

価格帯

Private Stock:¥1,800,000 ~ ¥3,000,000以上
Wood Library:¥1,000,000前後 〜
Core:¥640,000 〜
Bolt-On:¥380,000 〜
S2 Series:¥250,000 〜
SE Series:¥90,000 〜

以上がおおよその価格です。お次はシリーズについて見ていきます。

Private Stock(以下、PS)は、PRSギターのフラッグシップラインです。
最高級の材料を用い、1本ずつのオーダーにより製作される楽器であり、PRSで最高レベルのカスタマイズが可能です。

BTO(ビルト・トゥ・オーダー)インストゥルメントでも、すべてのPSは「その1本だけの」ワンオフ・メンタリティで扱われ、丹念に製作されます。
家宝レベルのクオリティの楽器をお届けするプログラム、それがPSです。

PSディレクターであるポール・マイルズ氏を中心とした、11名という少数制のチーム(2024年時点)から生み出されるプロダクトは全てにおいて完成度が高く、モダンギター製作の最高峰と呼ばれるほど傑出しています。

生み出されるプロダクトはプレイヤー・コレクターのみならず、ギター製作業界においても高い影響力があります。
そして、PSだけで10,000本以上生産していることは、このプライスラインとして驚異的です。

よく「車が購入できる価格」と表現される通り、決してお求めやすい金額ではございません。
しかし、本当に欲しいギターであれば、初めてのPRSでもPSを手に取っていただくことをお勧めしております。

もちろん外観も素晴らしいのですが、PSの真髄はサウンドとプレイアビリティーにありますので、実際に触れていただくことでPRSのクオリティを体感いただきたいと考えております。

PSはカスタマーから1本ずつオーダーが可能です。
さきほど「車が購入できる金額」という表現をしましたが、例えば「世界に1台のカスタムカーを世界最高峰のチームへ製作依頼」した場合、一体いくらになるのでしょうか。

モダンギター製作において、世界最高峰のPSチームが「自分だけのために世界に1本しか存在しないギターを製作してくれる」という価値は、値段だけでは計り知れないものがあります。

納期はオーダーから1年以上、価格も200万円前後~というPSですが、皆様にお薦めするだけでなく、私も実際に購入し愛用し続けており、素晴らしさを実感しております。

新品のPSに関しては2024年現在、日本国内では両手で数えられるほどのごく限られた正規ディーラーショップでのみオーダーや仕入が可能という状況で、弊社では静岡パルコ店、ミーナ町田店で取り扱いがございます。

Wood Library(以下、WL)は、PRSの最高峰である“Private Stock”に準ずる高品質な木材をストックする保管庫から、各部材をチョイスして作成するシリーズです。

様々な選択肢の中から指板、ネック材、ボディ材、ピックアップなどのパーツ類、インレイデザインなどを組み合わせてオーダーすることができます。

WLの魅力は高品質な木材を使いながら、実際の生産をプライベートストックラインからレギュラーラインに変更し、高いコストパフォーマンスを実現していることです。

上の画像は実際に私が現地で選定したWL用のマテリアルです。

レギュラーラインでは選択できないKorina、Ziricote、Torrefied Mapleといったマテリアルが選べるだけでなく、WLはカラーバリエーションも豊富です。

スペシャルなマテリアルと巡り合えば上の画像のような個体が完成いたします。
※2024年時点では木材保管スペースが確保できない都合上、ディーラーのハンドピックはできませんが、PRSスタッフが厳選したマテリアルが使用されます。

PSとは使用するNitroラッカーの塗料が異なることと、オプションは限定されますが、販売価格は100万円〜とPSと比較すれば入手しやすいプライスです。

サウンドやルックスを含めて、レギュラーモデルとは異なる魅力が詰まったプロダクトとなっております。

WLプログラムのオーダーは国内ではSignature Dealerのみが可能で、ミニマムで10本程度のまとまった数量が必要です。弊社ではミーナ町田店で取り扱いがございます。

その名の通り、PRSの「核」となるシリーズです。

1985年の設立より世界中のギタリストから支持され続ける、セットネックに深いバイオリンカーブが特徴的な造形美と、クリアかつファットなトーンを有しており、プレイアビリティにも秀でているため「PRSらしさ」を体感するには、まずはCoreモデルを手に取っていただくことが分かりやすいと考えています。

創業者のポール・リード・スミス氏が試行錯誤の末に完成させた現在の「CUSTOM 24」が代名詞となっておりますが、McCarty、Santana、Modern Eagleといったバリエーションに加え、24フレット or 22フレット、ソリッドボディ or ホロウボディ、ダブルカッタウェイ or シングルカットなどサウンド、ルックス、プレイアビリティの好みに合わせた選択肢が豊富にあることもプレイヤーとして嬉しいポイントです。

ここで覚えておいていただきたいことは、同じ「CUSTOM 24」というモデルでも、上の画像のように「製作された年代によって仕様やサウンドが大きく変化」するという点です。

PRSは日々細かなパーツに至るまでブラッシュアップを続けているため、製作年代によって使用されるパーツや塗料が異なります。
ですので、可能であれば一度お試しいただいてから購入いただくことをお勧めいたします。

そして、以前PRSギターをお試しされてマッチしなかった方でも、2019年中期以降に大幅なアップデートがあったため、改めて最新モデルをお試しいただきたいと考えております。

ちなみに私のファーストPRSは、COREの1996年製CUSTOM 22 TREMでした。
楽器店に勤める前で、今から20年以上前のPRSデビューでしたが、購入した当初から不動のメインギターとして活躍してくれました。

当時は、本記事を製作しているとは考えもしませんでしたが、PRSとの出会いとなった思い出の1本です。

その名の通り「ボルトでボディとネックをジョイント」したシリーズで、CE 24、Fiore、NF 53といったモデルがございます。

近年ではJohn Mayer氏との共同開発で人気が高い「Silver Sky」もこちらのシリーズです。

Coreセットネック

Bolt-Onセットネック

レギュラーラインではCoreがセットネック・ジョイントのマホガニーネックであることに対して、Bolt-Onはボルトオン・ジョイントのメイプルネックという差別化が図られています。

当シリーズの代表機種「CE(=Classic Electric) 24」はボディトップに付けられたアーチ形状がCoreと異なり、レスポンスの良い明瞭なサウンドが得られます。

そのサウンドを求めて多くのプレイヤーがCEを使用しており、価格だけではない魅力がBolt-Onシリーズにはあります。

シングルコイルとハムバッカーのピックアップを組み合わせたモデル多数もあり、シングルコイルとのマッチングはBolt-Onシリーズが個人的には好みです。

またCE 24にはCustom Configuration(CC)という、レギュラーモデルとは異なる特別仕様が存在します。

ブラックカラーにステインしたメイプルネックやヘッドストック、Emerald Greenカラーなど、特別なスペックをまとったプロダクトを探してみるのも面白いのではないでしょうか。

S2はセットネックにスカーフネック・ジョイント、Coreと比較して厚みとアーチが異なるボディシェイプの採用や、ペグとブリッジはSEと共通パーツ(2024年時点のCEも同様)、インレイマテリアルにシェルを使用しないことで、USA製ながら手が届きやすい価格を実現しています。

生産ラインは異なりますが同じUSAファクトリー内で製造されており、Coreに通じるファットなサウンドとプレイアビリティを得ることができます。

スカーフネックジョイント(Scarf Neck Joint)は、S2と上述のBolt-Onシリーズで採用されております。

このジョイント方法は強度が向上するだけでなく、短い木材を効率的に組み合わせることで高品質かつコスト面でも有利なネックの製造が可能になります。

近年ではNitroラッカーフィニッシュの採用やピックアップ・エレクトロニクスがUSAパーツにアップグレードされたことで、さらなる品質の向上に成功しています。

また、一部モデルではウィング・ペグボタンの採用や、ポール氏がお気に入りのTCIピックアップをマウントしたモデルも登場しています。

その他、PSとS2でのみ生産しているオフセットボディのVela等、個性的なモデルが多いこともS2シリーズの特徴です。

当初SEを検討していたお客様が、S2をご購入されるケースが多い印象ですが、決してCore等と比較しても廉価版の位置づけにはならないシリーズです。

SEシリーズは「SANTANA SE」からスタートいたしました。
高価格だったUSAモデルを手に取りやすい価格にすることで、PRSギターを多くの方にお届けするため「スチューデント・エディション」とネーミングされ製造されたことが始まりです。

現在のSEシリーズは、スチューデント・エディションという枠組みにとどまらず進化しています。

SEシリーズは「インドネシアファクトリー製のエントリーライン」という位置付けではなく、PRSが近年最も力を注いでいると言っても過言でないほど、重要視しているプロダクトで、PRSスタッフが幾度もOEM先を訪れてUSAのノウハウが継承されています。

SEシリーズしかない製品も多くあり、SEコレクターも存在するほど高い人気を誇ります。

例えば「SE MARK HOLCOMB SVN」は、PRSの中では貴重な7弦ギターです。
7弦ギターはPSでのオーダーか本モデルのみという状況です。

カラーバリエーションも非常に豊富で、SEシリーズならではというカラーも多数あります。
見た目の美しさにもこだわりたいギタリストにとって、自分だけの一本を見つける楽しみが広がります。

また、個性的なカラーリングはステージ上でもひときわ目を引き、演奏する楽しさをさらに引き立ててくれます。

SEに取り付け可能なロックペグも別売りでご用意しております。
交換することでチューニングの安定性が飛躍的に向上するだけでなく、ストリングポストにブラス素材を使用しているため、音質の変化も楽しむことができサウンドの幅が広がります。

オリジナルのまま使用するだけでなく、リプレイスメント・パーツを使って自分だけのオリジナル仕様にカスタマイズする楽しさも格別です。
愛機を自分好みに育て上げることで、より深い愛着と満足感を得られます。

以上がシリーズごとの違いでございます。

カラーと塗装

カラーの見分け方

PRSを選ぶ際に最も重要視するのは「ルックス面」だと思います。

Coreモデルのカラーは、

1.ボディトップ&バックの色の組み合わせ
2.ナチュラル・バインディングの有無
3.ピックアップ・マウントリング・カラー

の3つの組み合わせで見分けます。
例えば同じブルー系統の2カラーで比較してみます。

Faded Whale Blueは、

1.ボディトップは深いブルー、ボデイバックはブラック
2.ナチュラルバインディング有り
3.PUマウントリングはアイボリー

となっており、

Cobalt Smoked Burstは、

1.ボディトップはブルーからブラックのバースト、ボデイバックは濃いブルー
2.ブルーカラーのバインディング
3.PUマウントリングはアイボリー

といった組み合わせになっています。

ちなみに生産完了になったRoyal Blueは、PUマウントリングがブラックで、ナチュラルバインディングが無い仕様でした。

人気カラーでも生産完了になる可能性があり、早い場合はでは一年未満でもディスコンとなりますので、お気に入りのカラーがあれば手に入れていただくことをお勧めします。

まれに上の画像のようにCustom Color(CC)というワンオフカラーが製作される場合もあります。

カラーフェイド

カラーのフェイド(褪色)に関してですが「フェイドしないようにして欲しい」というニーズも多くあり、PRS社に声も届いているようで、専用塗料を業者が作成してくれたことで改善を図られています。

ギターに限った話ではありませんが、経年変化でのカラーフェイドへの対策は、紫外線や蛍光灯等の光に当てないことで全てではありませんが防止が可能です。
明るいブルー系・ピンクや明るい赤・淡いバイオレット・⻩色といったカラーは紫外線により比較的フェイドしやすい傾向にあります。

経年変化で元のカラーが判別し難い場合、ピックアップキャビティー内にカラー名の略称がアルファベットで記載されているのでそこで確認ができます。
ちなみにPRSでは、同じカラーでも塗料が変わると略称が変更されます。
例:Blue Matteo→BT、BM

塗装

PRSの塗装プロセスは非常に高度で、その塗装は「Dipped in Glass」と称される独特の光沢と美しさを持ち、まるでガラスの液体に浸したような美しい仕上がりになります。

PRSはウレタン、V12、ラッカー等、年代によって塗装が変わります。
一部の年代ではPRSの塗装が経年変化で白濁することもありますが、これは製品を追求しアップデートしていくなかで生じた結果です。

以前はアンダーコートとトップコートを別の業者から仕入れていましたが、現在はPRS専用の塗料を一つの業者から仕入れることが可能になりました。

こちらは推測ですが、上述の問題改善とサウンドの向上を図るため、2019年~2022年初頭までは下地にCAB(合成樹脂の一種)、トップコートにNITROラッカーを使用したNOC/Nitro Over Celluloseに変更しました。

2024年現在は、アンダーコート、トップコートともにNITROラッカーを採用したフィニッシュとなり、サウンドが飛躍的に向上したことと、白濁問題も実質改善されたと考えて良いのではないでしょうか。

諸説ありますが、1985年以降でUSAレギュラーモデルにラッカー塗装が使用されたのは初めてです。
※一部、初期DGT、SCシリーズ等はございます。

塗装のグロス(艶あり)とサテン(艶消し)を比較した場合、強度はグロスの方が高く、サウンドもクリアです。
サテンフィニッシュは特有の質感とオープンな鳴りをお楽しみいただけます。

モデルの違いによる変化

ボディシェイプは大きく分けるとダブルカットとシングルカットがあり、モデルによってボディトップのアーチの深さやボディの厚みが変わります。

ボディトップのアーチはS2→CE→Coreの順で深くなり、トップ材に使用されるメイプルの厚みも異なります。

カットされる前のマテリアルで比較してみます。

Core用のボディトップ材(左)と、CE用のボディトップ材(右)の厚みの違いです。

S2用のボディトップ材(左)と、CE用のボディトップ材(右)の厚みの違いです。
こちらはわずかにCE用の方が厚いのが分かります。

ボディの厚みは下の画像の通り、

Singlecut→McCarty→Custom

の順で薄くなります。
※PSではCustomのSinglecut Thicknessという異なる厚みでのオーダーが可能です。

同じ素材であればボディが「厚く、重い」ほど弦振動を長く保持するため、サスティーンが向上します。
さらに、リッチな音色で低音が豊かになり、音量が増加する傾向があります。

反対に「薄く、重量が軽い」とタイトな低域で明瞭なサウンドが得られることと、取り回しが良いため長時間の演奏でも疲れづらいといった特徴があります。

レギュラーモデルでは、

Bolt-On→Custom 24→Custom 22→McCarty(594)→Singlecut

と右に進むにつれてサウンドがファットになります。

フレット数とスケール

スケールとフレット数はモデルによって異なります。
下に主要モデルのスケールとフレット数を記載いたします。

・Custom 24,CE 24,S2 Custom 24:25 inch ,24F
・McCarty 594,McCarty Singlecut 594:24.594 inch ,22F
・McCarty,Modern Eagle,Custom 22,Vela:25 inch ,22F
・Santana:24.594 inch,24F
・Silver Sky,Fiore,NF53:25.5 inch ,22F
・Mark Holcomb Signature:25.5 inch ,24F

フレット数の違いによる、サウンドとプレイアビリティ

24Fと22Fギターの違いは、サウンドとプレイアビリティにあります。

サウンドの違いは、

<24Fモデル>
・ベースピックアップ(フロントPU)の位置が少しブリッジ側に寄るため、22フレットモデルよりも明るくクリアなトーン
・高音域でのクリアなサウンドが特徴で、テクニカルなプレイにも向いている
・24Fのバードインレイは、Screech Owl(コノハズク)がモチーフ

<22Fモデル>
・ベースピックアップの位置が2フレット分指板寄りになることで、ウォームで丸みを帯びたトーンに
・中低域の豊かなトーンが特徴で、クラシカルなサウンドが特徴

となります。

プレイアビリティの違いは、

<24Fモデル>
・より広い音域をカバーできるため、高音域での演奏が可能
・Customでは、22Fモデルと比較してネックヒール形状が小ぶりなため、特にソロやリードパートでの高音域の使用が多いギタリストにとって魅力的

<22Fモデル>
・フレット数が少ないため、24Fモデルと比較してネック全体が短く感じられる
・ネックの端までのアクセスが容易で、高音域への移行がスムーズかつネックヒールが大きいため、リッチなトーンが生み出される

となります。

スケールの違いによる、サウンドとプレイアビリティ

次にスケールの違いですが、演奏性やトーンに顕著な影響を与えます。

ギターのスケール(スケール長)は「ナットからブリッジまでの弦の振動長」を指し、PRSが浸透させたといっても過言ではない「25インチ」スケールは、絶妙なテンション感とサウンドです。

演奏性の違いでは、
弦の張力はスケールが長くなると同じチューニング下では弦の張力が高くなり、よりタイトで反応の良いフィールを提供します。

スケールが短くなると、弦の張力が低くなり、ベンディングやフィンガリングが容易です。
また同じフレット数であれば、長いスケールではフレット間隔が広がります。

トーンの違いでは、
スケールが長くなると、よりクリアでブライトなトーンを生み出し、高音域のレスポンスが良く、シャープで解像度の高いサウンドが特徴です。

スケールが短くなると、よりウォームでリッチなトーンを提供し、ミッドレンジが充実したファットなサウンドを生成します。

フレット数とスケールは、各モデルに合わせて最適化されているため、PSオーダーでも変更が不可となりました。

ネックシェイプも22Fモデルが肉厚な傾向がありますので、試奏してどのモデルが自分に合っているかを確かめてみてください。

トーンウッドとグレード

PRSでのグレードと種類分け

Regular→10Top→Artist(現在は廃止中)→Wood Library→Private Stock

という順でグレードが上がることが一般的な認識ですが、実際はさらに細分化されています。

2019年時点ではボディトップに使用するメイプル材にLow Grade→Medium Grade→High Grade→Artist/PS Gradeと色を付けて細かく管理していました。

2024年にファクトリーを訪問した際はPSグレードは色付けせずにThe Vault(PS専用木材保管庫)で管理しており、日々変化しています。

そして、メイプル材の中でもPRSでは「East Coast Maple」、「West Coast Maple」と区別して使用しています。
East Coast MapleとWest Coast Mapleは地域ごとに異なる特徴がありますので、その違いをご紹介します。

まずは、実物で比較してみましょう。

-East Coast Maple-

-West Coast Maple-

考え方としてはアメリカ合衆国をミシシッピ川で東西に分けるとイメージしやすいかと思います。

東側のEast Coast Mapleは冬の寒さが厳しい地域に多く分布するシュガーメープルが中心で、硬度が高く、明るくクリアなトーンが特徴です。
野生的な見た目が特徴的で、1950年代のレガシー・ギターに使用されていることでも知られています。

一方、西海岸の温和な気候でよく育つWest Coast Mapleはビッグリーフメープルが中心で、East Coast Mapleに比べてやや柔らかく、ウォームで豊かなトーンが特徴です。
フレイムやキルト等のフィギュアド杢を持つことが多く、美しい見た目が特徴的です。

優劣ということではなく、均等で整った杢が良いのか、不均一でワイルドな杢が良いのか、それぞれの特性や好みに応じた選択をお楽しみください。

ブックマッチ、フリッチマッチ、ワンピース

ブックマッチとは、木材の板を中央で割って開き、まるで本を開いたかのように対称に配置する方法です。
これにより木目が鏡像のように反転し、均整の取れた美しい模様が得られるため、PRSは多くの場合でブックマッチを採用しています。

こちらがブックマッチ用のマテリアルです。

フリッチマッチ(Fletch Match)とは、同じ木材の板を連続して使用し、順番に並べる方法です。
全体の統一感を維持しながらも、木材の個性的な特徴を活かしたデザインに適していますが、PRSはブックマッチを基本にしています。

上の画像ように、PS以外でまれにワンピースのトップ材が使用されることがあります。

Bolt-Onシリーズのボディ材は多くが2P〜3Pで形成されますが、ソリッドカラーの場合は外観からは分からないことが多いですが、ネックポケットやピックアップキャビティ内から判断できる場合もございます。

トーンウッドの種類と硬さや重さによるサウンドの変化

トーンウッドとは楽器、特にギターやバイオリンなどの弦楽器に使用される音響特性に優れた木材のことです。
種類や質により楽器の音色、共鳴、サステイン、音量に大きく影響を与えます。

硬く重い木材(ローズウッド、エボニー等)は、明瞭で重心が低いサウンドを生み出すことが多いです。
これは硬い木材が弦振動を効率的に伝え、明瞭な音色を提供するためです。

クリアでタイトなトーン、高域が明瞭でローエンドがしっかりとしたサウンドが特徴的です。

軽く柔らかい木材(マホガニー、シダー等)はミッドレンジが豊かで、暖かく芳醇なサウンドを生み出します。
柔らかい木材は弦振動を吸収し、柔らかく豊かな音色を提供します。
耳に優しい音色です。

PRSでは異なるトーンウッドを組み合わせることで理想とするサウンドを具現化していきます。
また、PSオーダー時はタップトーンでも木材を確認して、素材本来が持つ響きをチェックします。

Grain=杢目の種類

木材の杢(もく)は木の成長過程や環境によって形成される木材内部に現れる自然な模様やパターンのことで、木材の美しさや価値を高める要素の一つです。
年輪を表す木目≠杢目ということがポイントです。

木材の杢は自然に形成されるため一つとして同じものは存在せず、美しい杢を持つ木材は通常よりも高価になります。

PSオーダーの際は目視で上下左右や角度を変えながら、杢の深さ、奥行き、立体感、カットした際にどうなるかを確認します。

例を挙げると、Figured Maple=杢(模様)が入ったメイプルという意味です。

下記で代表的な杢の種類をご説明します。

フレイム(炎杢):炎のような波状の模様

キルテッド(キルト杢):玉模様

バール(瘤杢):瘤にできる複雑で渦巻いた模様

スポルテッド:菌によって生成される黒いラインやパターン

サップウッド

こちらは杢ではありませんが、芯材(Heartwood)と辺材(Sapwood) のコントラストを見事に組み合わせたPSです。
芯材は赤みがかった濃い色、辺材は中央の白色部です。
カット前の丸太時は、中央が芯材、外側が辺材です。

バール/スポルテッド→キルト杢→フレイム杢→プレーン

全てではありませんが、上記の順で木材は硬質かつ重くなる傾向があります。

Fleck=フレック

木の「フレック(Fleck)」とは木材の表面に見られる小さな斑点や模様のことを指します。
これは木材の成長過程や年輪の構造、樹脂の沈着などによって形成されるシミのようなものです。

フレックは主に美観に関わる要素であり、木材の魅力を増す要素とされているため、トラッドなフィーリングを感じるモデルとのマッチングが非常に良いです。

木取りの違いによるルックスとサウンドの変化

Quarter Sawn、Flat Sawn

木材を使った楽器作りにおいて、木目の選び方は見た目だけでなく、サウンドにも大きな影響を与えます。

ここではQuarter Sawn柾目(まさめ)、Flat Sawn=板目(いため)の違いについて説明します。

こちらは柾目のネック材です。

続いてボディトップ材です。

柾目は木材を幹に対して垂直にカットした際に見られる木目のパターンです。

均一で直線的な木目が特徴で、環境変化によるねじれにも強く、シンプルかつ上品な見た目を持ちます。
非常に安定した音響特性を持ち、クリアで明瞭な音色を提供します。

次に板目のネック材です。

ボディトップ材です。

板目は木材を幹の外側に向かって平行にカットした際に見られる木目のパターンです。

板目の木材は、木目が交差するために硬さと柔軟性のバランスが取れています。
サウンドはオープンで豊かな音色を生み出します。

端的に言えば、柾目は詰まったサウンド、板目はオープンな鳴りが得られます。

ちなみに今まで仕入れた経験では、Silver Skyのメイプルネックは殆どが板目です。

板目と柾目、それぞれの特徴を理解し、目的に応じて最適な木材を選ぶことで、見た目だけでなくサウンドも好みに近づくことができます。

ピックアップの役割とサウンドへの影響

PRSは各モデルに合わせて最適なピックアップを自社生産(SEはOEM)し、マウントしています。
それらのマグネットの種類と直流抵抗値を参考にすれば、自身の好みのサウンドの方向性なのか、ある程度イメージいただけると思います。

やや乱暴な言い方ですが、直流抵抗値が高いほど出力が高くハイゲイン、低いほどローゲインです。
アルニコマグネットはトラッドなサウンドで、セラミックマグネットはモダンでハイパワーなサウンドにマッチさせる場合が多いです。

ギターのピックアップ(以下、PU)は、弦の振動を電気信号に変換します。
これにより、ギター本来の音色をアンプ等に伝えることができます。

また種類によって、それぞれ異なるサウンドキャラクターを持ちます。
例えばシングルコイルはクリアでシャープな音、ハムバッカーは太くノイズレスなサウンドを提供するといった具合です。

その他PUの設計によって、上記の通り意図的に特定の周波数帯域が強調されたり、減衰されたりするものもあります。
これにより、ギターの音色に独自のキャラクターが加わります。

高出力のPUは、より強力な信号を生成し、アンプをより早く歪ませることができます。
これにより、音の特性が変化します。

ここからが重要なことだと私は考えていますが、PUはギターのボディやネックの材質、構造、弦の種類など、ギター本来の音色の特性を完全に変えることはできません。それらの要素が提供する基本的なトーンをキャプチャし、増幅する役割です。

要するに「そのギターが本来持っていないサウンドはPUで付加することはできない」ということですので、アンプに接続しない時点でのギターそのものが持つサウンドが大切だと考えています。
なので選ばれる際はぜひ「生鳴り」もご確認くださいませ。

ポール氏は「PUはマイクなので、好きなものに自由に交換して楽しんで良い」というスタンスです。
あらかじめ各シリーズ・モデルに適した方向性のPUが搭載はされますが、フルオリジナルに特別なこだわりがない場合は、ご購入後に交換してカスタムするのも一つの手段です。

PRSピックアップに関しては、また別の機会に詳しくお伝えいたします。

個体選定、Private Stockオーダーサポート

在庫とタイミング次第ではございますが、皆様のご要望に合わせてPRSギターをお探しするお手伝いやPrivate Stockオーダーのサポートをさせていただきます。
ご相談がございましたら、島村楽器静岡パルコ店 平林までお問い合わせくださいませ。

数あるPRSギターの中から最愛の1本をお選びするということに関して、私の考えをお伝えさせていただきました。

ここまで長文にお付き合いいただき、誠にありがとうございます。
重ねてにはなりますが皆様が最愛の1本に出逢えることを願っています。

平林 大一プロフィール

埼玉県出身。現在は静岡県に移り住んで15年が経過。
趣味は釣りとワインで、自然の中でリラックスする時間や美味しいワインを楽しむのが大好き。

2024年現在、PRS USAファクトリーでのオーダーやGIBSONナッシュビルでのバイヤー業務、国内外のギター・ベース、アンプやペダルのオーダーに携わっている。

所有楽器はPRS Private StockやAMPをはじめ、Fender 1963 Stratocaster、Gibson CS LP、Ken Smith BSR5、Vintage Ibanez & Maxonなど多岐に渡る。

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