PRSが理想とするトーンウッド“Chaltecoco”|バイヤー平林が綴る PRSという美学Vol.16【Paul Reed Smith】

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PRSが理想とするトーンウッド“Chaltecoco”|バイヤー平林が綴る PRSという美学Vol.16【Paul Reed Smith】

記事中に掲載されている価格・税表記および仕様等は予告なく変更することがあります。

いつも島村楽器をご利用いただき、誠にありがとうございます。
バイヤーの平林です。

第16回目は、先日入荷したUSAファクトリーオーダーPrivate Stock「Paul’s Guitar」をご紹介いたします。

本機は、2025年初頭にメリーランド州スティーヴンスヴィルのPRS USAファクトリーを訪問し、ポール・リード・スミス氏のために製作されたレッドカラーのPaul’s Guitarと同一マテリアル構成をベースにオーダーした特別な1本です。

まずは、こちらの素晴らしいギターの全貌をご覧くださいませ。

 Private Stock #12115 Paul’s Guitar / Faded Indigo 

続いて、ボディバック全体もご覧ください。

Paul Reed Smith氏のために制作された“最新のPaul’s Guitar”

少し前になりますが、2024年11月に渋谷で開催されたPRS AGSイベントに参加された方は、ポール所有の赤いギターのサウンドを覚えていらっしゃいますでしょうか。

ポール・リード・スミス氏ご本人のために制作された最新仕様のPaul’s Guitarで、イベント当日はポール氏のご厚意で実機を実際にプレイさせていただく機会に恵まれ、サウンドとフィールを詳細にチェックすることができました。

「CUSTOM BUILT FOR PAUL REED SMITH」とヘッド裏に記載された特別なモデルで、今までのPRSから進化したそのサウンドに驚きを覚えました。

PRSファクトリーを訪問した際、この記憶を元に同様の木材構成を再現し、ブリッジをトレモロタイプに変更してオーダーした結果、芸術性とサウンドが極めて高い次元で融合した「PRSの今」を体現するマスターピースが完成しました。

Product Overview

Chaltecoco – “PRSが理想とする”トーンウッド

ネック材にはポール・リード・スミス氏が近年最も注目し「PRSギターにとって理想的なネック材」と公言するChaltecoco(シャルテココ)を採用しました。もちろん、上述のPaul Reed Smith氏のために制作された“Paul’s Guitar”に使用されています。

Chaltecocoはギター業界ではあまり馴染みがない木材ですが、ペルナンブーコと原産地が異なる似た特徴を持ったマテリアルです。赤褐色~オレンジブラウンのやや濃い色合いを持ち、適度なしなやかさと弾力があり、ペルナンブーコと比較してやや硬質です。

また、ワシントン条約(CITESの)厳しい規制を受けていないことも大きなメリットです。

そのサウンドキャラクターは下記のような要素を併せ持ちます。

  • ペルナンブーコを思わせる繊細でリッチな倍音構造
  • ネック全体が共鳴するような高いレスポンス
  • 優れた剛性と反発力によるタイトで濁りのないハイミッド

ピッキングに対する追従性が非常に高く、繊細なタッチでも情報量の多いサウンドを返してくれるため、ダイナミクスコントロールを多用するプレイヤーには特に魅力的なネック材です。

サテンフィニッシュに仕上げることで木材の質感をダイレクトに感じることができ、手に吸い付くようなフィット感と、弦振動を活かすバイブレーションを堪能することができます。

Charcoal Phoenix Limited Editionを開発する際にも、ポール本人のギターが活躍しています。

ファクトリー内でCharcoal Phoenixをプレイする機会に恵まれましたが、ステインするとマホガニーネックに近い見た目で、弦振動がネックに吸収され過ぎず、音楽的なサウンドでロングサスティーンが実現しています。

軽快さとレスポンスの良さを感じられ、クリーンからハイゲインまで幅広いジャンルでその真価を発揮する印象です。

ポール・リード・スミス氏に直接シャルテココ材に関して色々と質問してみましたが、簡単にいえばペルナンブーコ材のファミリーで、PRSにマッチしたとても素晴らしいサウンドが得られるマテリアルとのことです。

G社=マホガニー・ネック、F社=メイプル・ネックというイメージが定着しているが、PRS=シャルテココというほど、ポールが求めるトーンにベストマッチしたネック材ということを非常に熱く話していました。

The Vaultには今回、片手で数えられる程度のシャルテココ材があったため、Paul’s Guitarのネック材に使用しました。

以下は私のシャルテココに対する主観です。

プレミアムウッドの最高峰であるハカランダ・ネックのサウンドはもちろん素晴らしいですが、重心が低いトーンのため、音楽の方向性によってはマッチしない場合や、万人に好かれるサウンドではないかもしれません。

また輸出入の規制が厳しく、価格も非常に高価です。対してシャルテココ・ネックは近年のPRSが求めるトラッドな方向性にマッチするだけでなく、PRSらしいモダンさとロングサスティーンも得られる理想的なマテリアルとも言えます。流通のしやすさやコスト面でもハカランダ材やペルナンブーコと比較して優位性があります。

何よりポール・リード・スミス氏でなければシャルテココ・ネック・ギターの可能性を見出し、ここまで高い完成度で具現化することは難しかったのではないでしょうか。

シャルテココ・ネックはPRSの哲学と最新のクラフトマンシップが融合した、PRSの新たなスタンダードになり得る存在です。PRSの革新性と伝統のバランスを象徴するマテリアルとして、今後さらに注目されることを願っています。

Paul’s Guitarの魅力

現代のギター製作者の中でも傑出した存在といえる、PRS Guitars創業者「ポール・リード・スミス」氏の名を冠した“Paul’s Guitar”は、長年の研究で培った設計思想とサウンド志向を1本に凝縮した、ポール氏本人の理想形とも言えるシグネチャーモデルです。

専用設計“TCI”ピックアップとコイルタップ&EQコントロールにより、太くハリのあるハムバッカーサウンドから、抜けの良いシングルコイル的トーンまで幅広くカバーし、クリーン~クランチ領域での表現力が非常に高いのが特徴です。

高い演奏性を兼ね備え、PRSならではのチューニングとピッチの安定感に加え、Customシリーズに対して厚みのあるメイプルトップ&マホガニーバック・ボディを基本に、深みのあるフィニッシュが生み出す“特別な1本”としてのルックスも大きな魅力です。

創業者の名前を冠したこのモデルは「プレイヤーにこそ」ぜひお試しいただきたいギターです。

East Coast Curly Maple × Faded Indigo Color

本機のボディトップにはThe Vaultでセレクトした、深く立体感のある杢と細かなフレックが共存するイーストコースト・カーリー・メイプルを採用しています。

フレックと杢のうねりがFaded Indigoカラーによって一層際立ち、見る角度によって多様な表情を魅せる大変魅力的なマテリアルです。

East CoastとWest Coast Mapleの違いですが「East Coast Maple(東海岸メイプル)」と「West Coast Maple(西海岸メイプル)」と言った場合、主に以下のような特徴がございます。

①East Coast Maple
北米東部(カナダ〜アメリカ北東部)に多いハードメイプル系が中心で、密度が高く、硬く重めの個体が多いとされています。
②West Coast Maple
北米西海岸〜太平洋岸北西部でよく使われるソフトメイプル系が中心で、比較的軽量で、やや柔らかめの個体が多い傾向とされています。

強度と硬質さを兼ね備えたカーリーメイプルは、アタックの輪郭とブライトさを与えつつ、張りのあるトーンを生み出しており、ポール氏が好むマテリアルと言えます。





Faded Indigoの色彩と相まって、視覚的にも音響的にも高い完成度を誇る一本です。


Private Stockチームによる繊細かつ精密なサンディングとPS専用のニトロセルロース・サテンフィニッシュの組み合わせにより、絹のように滑らかな質感と、ピッキングニュアンスに即座に反応する高いレスポンスを実現しています。

バック:フィギュアド・サウスアメリカン・マホガニー

ボディバックには、こちらもファクトリー内でセレクトした非常に貴重なフィギュアド・サウスアメリカン・マホガニー(南米産マホガニー)を採用しました。

いわゆるホンジュラス系マホガニーと同じように、明瞭な中低域とクリアな高域成分を持ち、ミッドレンジに芯のある存在感を与えてくれます。トップのカーリーメイプルがもたらす明瞭さと非常にバランスよくマッチし、クリーンから歪みまで幅広く対応できる懐の深さを獲得しています。

サイドから見ると複雑な杢がご覧いただけます。

バックプレートも同材にて作成しています。ウッドパネルは厚みが異なり、後から作成して取り付けということができないため、PSならではのオプションといえます。

The Vaultで撮影した画像ですが、この時点で素晴らしい表情のマテリアルです。こういったマテリアルと出会えることが、ファクトリーオーダーの醍醐味です。

こちらがサウスアメリカン・マホガニーの保管庫です。厚みによって使用可能なモデルが限定されます。

こちらが、アフリカンマホガニーの保管庫です。サウスアメリカン・マホガニーに対して、バランスに優れた軽量なマホガニーで、ストック量は約2倍です。

Ziricote Fingerboard

フィンガーボードとヘッドストック・ヴェニアには、サップ入りのZiricoteを採用しています。

40th Anniversary Dragon Limited Editionにも使用されるなど、近年PRSが好んで使用しているZiricoteですが、オイル分を多く含む滑らかなタッチと、黒とブラウンが入り混じる唯一無二のコントラストで、マーブル状の独特な木目によって、視覚的な個性と演奏上の快適さを同時にもたらします。

ジリコテ特有の高い密度は音像のクリアさ・高域の煌めき・透明感のあるサステインを生み出し、本機の「精緻で密度の高いハイミッドレンジ」を支える重要なファクターとなっています。サイドポジションにはBlue Luminlayを採用し、暗所やステージ上での視認性も抜群です。

“PS Eagle & Birds” Paua Heart & Azurite Web Stone

フィンガーボードインレイには Paua Heart Birds & Azurite Web Stone Outline を組み合わせています。

Faded Indigoのクールなブルー系フィニッシュと、Paua独特の虹色の輝き、Azulite Webが共鳴し、統一感のある美観を生み出しています。立体的な彫りと石材とのコンビネーションにより、見る角度によって光が複雑に反射し、Private Stockチームの芸術性とクラフトマンシップが存分に感じられる仕様です。

今回、ネック材を中心としたサウンドを存分に堪能いただくため、装飾はシンプルな仕様にしていますが、ネックヒールにのみ“Cooper’s Hawk”インレイをワンポイント採用しました。

TCI Pickups ・ Min-SW&EQ Control

ピックアップには、PRSの最新思想が反映されたTCI Treble / TCI Bassを搭載しました。

フルサイズのハムバッカーながら、十分な低域とクリスピーな中高音域をアウトプットする、ポール・リード・スミス氏が最も好むキャラクターのサウンドです。プレイヤーの表現を素直に引き出しつつ、ニュアンスを豊かに描き出してくれるPRSらしいピックアップです。

他メーカーでリプレイスメントピックアップはございませんが、PRSの思想を反映させた唯一無二のピックアップです。

コントロールは、3-Way、1Volume、1Control(TONE or EQ)、2Mini-SW(EQ SW切り替え)です。

EQミニ・トグル・スイッチをオン(上のポジション)にするとハイパス・フィルターが機能し、ミッド〜ローを手元で調整することにより、低音域がシェルビングされて高音域がよりクリアで音楽的なトーンを創出します。ハムバッカーとしての厚みあるトーンから、ノイズレスかつシングル的な抜けの良いサウンドまで、PRSらしい“滑らかで音楽的”なトーンシフトが可能です。

一般的なコントロールとは一線を画す、PRSらしい音作りの考え方です。

ハードウェア:Gold / Nickel & Gen III Tremolo

Gen IIIトレモロとロッキングペグの組み合わせにより、優れたチューニング安定性と、トレモロ使用時の幅広い音楽表現を可能にしました。

PRS Phase III Set-Screw Locking Tuning Pegs を採用しました。ペグボタンはオールドスタイルです。

Phase III ペグは弦振動をロスしないように、ネジ止めされています。こういった細かな箇所に拘り、妥協することなくオリジナルパーツを製作することで、PRSギターのサウンドが構築されていきます。

トラッドなトーンを追求するため、Bone Nutをセレクトしました。

PSのヘッド裏にはシリアルナンバー、PS通しナンバー、日付、創業者のポール・リード・スミス氏とPSディレクターのポール・マイルズ氏のダブルサインが入ります。

ハードケースには、PRS専用のブラウンペイズリー・トーレックスを採用。シックなカラーとクラシカルなデザインが相まって、ギター本体の上質さをより一層際立たせてくれます。ケースを開けるたびに、所有する喜びと特別感を味わえます。

Specs

Private Stock #12115
Serial Number: 25 414461

Specifications:
Model: Paul’s Guitar
Neck wood: Chaltecoco
Fingerboard wood: Ziricote
Top wood: Curly Maple
Back wood: South American Mahogany
Headstock veneer wood: Ziricote
Neck Carve: Pattern
Side dots: Blue Luminlay
Color / Stain: Faded Indigo
Fingerboard inlays: Paua Heart birds with Azurite Web stone outlines
Headstock veneer inlay: Paua Heart Private Stock Eagle with Azurite Web stone outline
Heel inlay: Paua Heart Coopers Hawk with Azurite Web stone outline
Finish type: Satin Nitro
Pickups: Treble: TCI Bass: TCI
Electronics: Two volume and two control with 3-way toggle and two mini switches
Hardware: Gold / Nickel PRS Gen III tremolo bridge, PRS Phase III set-screw locking tuning pegs with faux bone buttons, South American Mahogany backplates, a bone nut, and a Ziricote
truss rod cover
Set up: PRS Signature .010
Case type: Private Stock Brown Paisley
Specials: Satin Nitro finish, Curly Maple top, South American Mahogany back, Chaltecoco neck, Ziricote fingerboard & headstock

創業者Paul Reed Smith氏、Private StockディレクターPaul Miles氏と現地で入念なミーティングを行いオーダーした至極の1本を、ぜひお楽しみくださいませ。

長文にお付き合いいただき、誠にありがとうございます。
本記事が皆様のギターライフが豊かになる一助になれば幸いです。

平林 大一プロフィール

埼玉県出身。現在は静岡県に移り住んで15年が経過。
趣味は釣りとワインで、自然の中でリラックスする時間や美味しいワインを楽しむのが大好き。

2024年現在、PRS USAファクトリーでのオーダーやGIBSONナッシュビルでのバイヤー業務、国内外のギター・ベース、アンプやペダルのオーダーに携わっている。

所有楽器はPRS Private StockやAMPをはじめ、Fender 1963 Stratocaster、Gibson CS LP、Ken Smith BSR5、Vintage Ibanez & Maxonなど多岐に渡る。

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