いつも島村楽器をご利用いただき誠にありがとうございます。
静岡パルコ店、店長兼バイヤーの平林です。
第11回目は、先日入荷したUSAファクトリーオーダーPrivate Stockをご紹介いたします。
本機は2024年初頭にメリーランド州のPRS USA本社兼ファクトリーを訪問し、使用する全てのウッドマテリアルをセレクトしてオーダーした1本になります。
PRS Private Stock #11332 SantanaⅡ Figured Koa Neck/Antique
Natural
まずは、こちらの素晴らしいギターの全貌をご覧くださいませ。

続いて、ボディバック全体もご覧ください。

本機はコア・ネックの魅⼒を最大限引き出すことをポイントにオーダーいたしました。
KOA WOODの魅⼒

コア・ウッド(KOA WOOD)は、ハワイ諸島原産の広葉樹であるコアから得られる希少な⽊材です。
温暖な気候とハワイ特有の⽕⼭性⼟壌に育まれたコア・ウッドは、独特の美しい杢⽬と優れた⾳響特性を兼ね備え、楽器や家具のマテリアルとして⾼く評価されています。
また、限られた地域にのみ⽣育するため⾮常に希少であり、近年その価値がさらに⾼まっています。
この「神が宿る⽊」と呼ばれる神聖な⽊材は、古代ハワイでは「聖なる⽊」として尊ばれ、王族が好み家屋の柱などに使⽤されてきました。
ハワイの⼈々にとって、⼤地や⾃然の神々とつながる存在として霊的な⼒を宿すと信じられるコア・ウッドは、楽器に特別な⼒をもたらします。
ギターに使用した場合のコア・ウッドの特徴は以下の3点です。
- 優れた⾳響特性
コア・ウッドは硬質な⽊材でありながら適度なしなやかさを持ち、豊かな中⾼⾳域と伸びやかなサスティーンを⽣み出します。
明るくタイトなトーンウッドですが、経年とともに深みのある暖かい⾳⾊へと変化し、プレイヤーのスタイルに馴染んでいくのが特徴です。 - 美しい杢⽬と光沢
コア・ウッドは⽊材ごとに異なる独特の杢(フィギュア)が現れることで知られ、フレイムやカーリーを持つ個体は特に⾼級とされています。
また、時間が経つほどに⻩⾦⾊から深い琥珀⾊へと変化し、⾵格を増していきます。 - 希少性と持続可能性
コアはハワイ州で管理されており、伐採には厳しい制限が設けられています。
特に楽器製作⽤に適した⽊材は成⻑に数⼗年以上を要するため、流通量は限られています。
多くがアコースティックギターやウクレレ⽤の薄い板に製材されるため、ギターに使⽤可能な厚みを持ったマテリアルは特に希少です。
コア・ウッドは、その⾳響特性・美しさ・希少性から、多くのプレイヤーやコレクターにとって特別な存在であり、希少価値が⾼くプレミアムなモデルとして扱われます。

その中でも美しい杢が特徴的なフィギュアド・コアは、⾼標⾼地域で取れるマテリアルです。
標⾼の⾼い場所では気温が低く、⽊の成⻑が遅いため、年輪が詰まり、密度が⾼くなることで優れた⾳響特性や強度を持つ⽊材が育ちます。
また、寒暖差や⾵などの環境要因がフィギュアド杢の形成に影響を与え、⾃然の⼒によって複雑で美しい模様が偶発的に⽣じます。
PRS Factory「The Vault」でのウッドセレクト

本機をオーダーする際の様子をお伝えいたします。
まずは、PRS専⽤の⽊材保管庫「The Vault」の内部をご覧ください。

世界屈指と⾔えるPrivate Stockプログラム専⽤の保管庫「The Vault」
ボディトップ⽤のコア・ブックマッチ・マテリアルは、ラック右上2段分がストックされています。

次にネック材ですが、 PRSは⾓付きヘッドなので⼀般的なデタッチャブル・ジョイントに対して厚みのあるマテリアルが必要です。

2024年の訪問時、コアネック⽤のストックは24フレットモデルに使⽤可能な2本を含め、わずか3本のみという希少なものでした。
オーダーシートには記載されておらず、事前にオファーを出し、現地で選定できた場合にのみ使⽤が許される特別なマテリアルです。
今回は幸運にも使⽤できる機会に恵まれたため、コアネックのポテンシャルを最も引き出せるスペックにてオーダーしました。

こちらが選定したコアネック材ですが、美しいフィギュアド杢が際⽴つ極上のマテリアルです。
PRS社の40年の歴史の中で、わずか20本程度しか製作されていないのがコア・ネックです。
2本のうち1本は今回ご紹介するSANTANAとは別モデルでオーダーしましたが、2024年11⽉の⼊荷当⽇に即座にご成約いただきました。

マテリアルのセレクトにはPrivate Stock DirectorであるPaul Miles⽒にもアドバイスをいただくことで、素材のポテンシャルを最⼤限に引き出しています。

フィンガーボードに使⽤するコアウッドも、理想的なサウンドのマテリアルを数⼗枚から吟味しています。
Private Stock Gradeですので全てが最上級ですが、他のマテリアルと組み合わせた際のサウンドや、完成時のルックスをイメージしながらセレクトします。

バック材には、上画像の特別な物語を持つプエルトリカン・マホガニーを使⽤します。
この⽊材はハリケーン・マリアによって倒れた希少な⽊をPRSが買い取り、製材した際に偶然にも美しいフィギュアド模様が⼊っていたものです。
その結果、現在のPRSのストック分のみという限定で再⼊荷がないため、極めて希少です。

プエルトリカン・マホガニーはホンジュラスマホガニーと同種で、⼀般的なマホガニー材よりも硬質です。
⽊材そのものが持つ明瞭かつ深みのあるトーンがコア材と絶妙なバランスで調和します。

最後にインレイの種類やマテリアルを決めます。
インレイ⼀つでギターの表情が⼤きく変わるため慎重に決定していきます。

2024年の訪問時に新⾊としてオファーをいただいた「Raspberry Lemon」をカーリー・メイプルにステインし、イーグル&バードインレイと組み合わせて使⽤します。
上述のマッチングがどういったギターとして仕上がったのか、詳細を⾒ていきます。
オーダーの様⼦をレポートしたPRS Factory Visit 2024に関する記事はこちらのリンクからどうぞ。
Product Overview

本機はトップ⾯を全てコアウッドで統⼀したSANTANAⅡです。
ポール・リード・スミス⽒が自らギターを製作していた1970年代〜80年代初頭。
その中でも特に重要な存在だったのがカルロス・サンタナ⽒との出会いです。
彼との出会いがポール⽒のギター作りの⽅向性を決める⼤きなきっかけとなり、洗練された演奏性とサウンドを追求して誕⽣したのがサンタナ・モデルです。
2024年にPRSファクトリーを訪問する⾶⾏機内で偶然SANTANA⽒のドキュメントムービーを拝⾒し、⽣い⽴ちやウッドストック等の映像でSANTANA⽒のルーツを辿りながらPRSの素晴らしいサウンドとルックスを堪能したことが、オーダーのきっかけとなりました。

バックはアンティーク・ナチュラルカラーでステインしています。
マテリアルによって⽊地の⾊味が異なるため、統⼀感のあるルックスに仕上げるのは決して簡単なことではありません。
さらに、ボディは光沢のあるグロス・フィニッシュ、ネックは演奏性を考慮して艶消しのサテン・フィニッシュを指定しています。
細かい部分ではありますが、PRSの卓越したステイン技術と優れたセンスが感じられるポイントではないでしょうか。

ボディトップにはセレクトしたダイナミックな杢⽬が特徴のフィギュアド・コアを⽤い、Natural Smoked Burst カラーが暖かみのある⻩⾦⾊のフレイム杢を⼀層際⽴たせます。

ダブル・カッタウェイの美しいボディトップのアーチ形状と、贅沢に削り出したファットなボディ厚による豊潤さと透明感のあるトーンが特徴的です。ギターらしさは感じさせながら、ヴァイオリンの様な⽴体感や瑞々しさのあるサウンドです。

SANTANAⅡ特有のパーフリング・スタイルをベースに、ボディエンド付近でスプリットした曲線を描いた美麗なデザインが特徴的です。
SANTANAのアーチに合わせたクラシックな雰囲気を持ちながらも、モダンな美しさを兼ね備えており、他のモデルにはない優れた存在感を放ちます。

パーフリング・マテリアルはPauaをセレクトしました。
Pauaはニュージーランドのアワビの⼀種で、パウア・シェルは⻘、緑、紫、ピンク、ゴールドといった虹⾊に輝きます。
コアウッドはシェルとのマッチングが⾮常に良いため1/32″のパーフリングをボディトップに施します。
1/16″の太いパーフリングも選択可能ですが、個⼈的には1/32″の繊細さがPRSにはマッチすると感じます。

SANTANAモデルのボディ厚はMcCartyよりもさらに厚く、PRSのラインナップの中ではSINGLECUTやホロウボディを除き、最も厚みのあるシェイプです。

良い意味でダーティーかつワイルドで、奥⾏きと⽴体感がある杢⽬に惹き込まれます。
光の当たり⽅や⾒る⾓度によって様々な表情を⾒せることで、プレイヤーとオーディエンスを楽しませてくれます。

本モデルで最も拘ったコアウッドのネックです。
コア・ネックは、PRS の中でも極めて希少な仕様で、そのサウンドとルックスの両⾯において独⾃の特性を持ちます。
サウンド⾯では、滑らかで⽢いトーンと、適度なブライトさとナチュラルなコンプレッションを備えたクリアな⾼⾳域が特徴です。
さらに豊かな倍⾳成分とスムーズなアタック特性により、クリーントーンでは広がりのある表現⼒、ゲインを上げた際には粒⽴ちの良いリードトーンを実現します。
Satin Nitroフィニッシュによるナチュラルな⼿触りを活かした仕上げが施されており、演奏時のフィーリングにも優れています。

PRSのネック材で最も⼈気が⾼くレアウッドとして名⾼いハカランダですが、そのハカランダ・ネックよりもはるかに少ない、歴代で20本程度しか製作されていないのがコア・ネックです。
本機に使⽤したマテリアルは、ゴールデン・ブラウンの美しい⽊肌に、フィギュアド杢の複雑な模様が現れており、経年変化によって⾊味が深まり、ヴィンテージライクな⾵合いへと変化することも期待できます。
コア・ネックはサウンド、ルックス両⾯において優れているだけでなく、PRS歴代のラインナップにおいても極めて希少な存在と⾔えます。

⾊鮮やかなカラーリングだけでなく、エキゾチック・ウッドを使⽤したモデルにはPRS独⾃の哲学と探求⼼が⾊濃く反映されています。
他メーカーが採⽤しないような多様なトーンウッドを積極的に試みることでPRSはその個性を⼀層深め、他に類を⾒ないサウンドを確⽴することに成功しています。

エッジ部分にはフィギュアド・コア特有の美しい杢⽬を活かしたナチュラル・バインディングが施されており、⽊材本来の質感を存分に楽しめます。

楽器の枠を超えた芸術的な美しさと、洗練された⾼級感を兼ね備えた⼀本に仕上がっています。

フィンガーボードにもフィギュアド・コアを使⽤することでピッキング・レスポンスに優れた跳ね返りの良いサウンドを実現しており、ネック材との共鳴も最⼤限に⾼めています。

サイド・ドットにはステージでの視認性を⾼めるためにグリーン・ルミインレイが採⽤されており、ステージ等の暗い環境でもプレイヤーにとって有益です。
コレクタブルな価値を持ちながら、実際の演奏においても機能的な要素を兼ね備えたギターです。

また、フィンガーボードにはPaua Heartをアウトラインに使⽤した”Old” birdsインレイが施されており、新⾊ラズベリーレモンにステインされたカーリーメイプルのセンターが加わることで視覚的な華やかさを演出しています

SANTANAオリジナルのヘッドストックにはPrivate Stockイーグルが燦然と輝きを放ちます。

SANTANAⅡのトラスロッドカバーにはボロンという梵字のモチーフが⼊ります。
サンタナ⽒の⾳楽の深い精神性や哲学を具現化しており、⾳楽が単なる⾳の楽しさを超えて、内⾯的な探求や癒しの⼿段であることを⽰しています。

最新のウィング・ペグボタンを採⽤することでギターの繊細さや華やかさが⼀層引き⽴ち、クリアで瑞々しいサウンド、絡み合うハーモニクスや豊かなサスティーンを最⼤限に体感できます。
ペグボタンにはブラックカラーもラインナップされていますが、ピックアップ・リングとのマッチングを考慮しています。

ピックアップにはSANTANAをマウントしていますが、オールド・ボビン・タイプのアンカバード・ゼブラという特別なスペックです。
Alnico マグネットを使⽤した⾃社製ピックアップは直流抵抗値でBass 7.37k、 Treble 9.68kとバランスが取れており、マテリアルの特性と奥底に秘めたポテンシャルを余すことなくアウトプットしてくれます。

ランプシェイド・ノブには、コアウッドとの調和を考えアンバーをセレクトしました。
このノブは創⽴20周年にあたる2005年に採⽤され始めましたが、指のかかりが良く操作性が⾼いPRSオリジナルパーツです。

ボディ・バックに使⽤したプエルトリカン・マホガニーは、2017年9⽉にドミニカ国とプエルトリコを襲った⼤型ハリケーン・マリアで倒れた⽊材です。
こちらはホンジュラスマホガニーと同種の⽊材で、⼀般的なマホガニー材より硬質です。
⽊材⾃体が持つ明瞭で深みのあるトーンがコア材との絶妙な調和を⽣み出し、クリアでありながらも⾳に温かみと奥⾏きが加わります。
アンサンブルでもその特性が際⽴ち、表現⼒豊かなサウンドを実現します。

サイドからは凄まじい杢をご覧いただけます。
今まで数多くのマホガニー材を⾒てきましたが、これほど硬質で杢が強烈に出たマホガニー材は初めてです。

PSのヘッド裏にはシリアルナンバー、PS通しナンバー、⽇付、創業者のポール・リード・スミス⽒とPSディレクターのポール・マイルズ⽒のダブルサインが⼊ります。
改めて感じますが、このクオリティと価格のギターを10,000本以上も製作し、販売し続けていることは驚異的です。

ハードケースはPRS専⽤のブラウンペイズリー・トーレックス仕様で、プレミアム感を⼀層引き⽴てます。
このケースを⽬にするたび、中を開ける瞬間が幸せなひとときであることを感じさせてくれます。

Private Stockディレクター「Paul Miles ⽒」と現地で⼊念なミーティングを⾏いオーダーした⾄極の1本、ぜひお楽しみくださいませ。

【SPECS】
Private Stock #11332
Serial Number: 24-39225
Specifications:
Model: Santana II
Neck wood: Koa
Fingerboard wood: Koa
Top wood: Koa
Back wood: Puerto Rican Mahogany
Headstock veneer wood: Koa
Neck carve: Santana Retro
Side dots: Dark Green Luminlay
Color / Stain: Antique Natural
Fingerboard inlays: “Paua Heart” “Old” birds with Raspberry Lemon stained Curly Maple centers
Headstock veneer inlays: “Paua Heart Private Stock” “Eagle” with Raspberry Lemon stained
Curly Maple center
Finish type: High Gloss Nitro
Pickups:Treble: Santana,Bass: Santana
Electronics: One volume, one tone control with a 3-way toggle
Hardware: Gold PRS Gen III tremolo bridge, PRS Phase III set-screw locking tuning pegs, Match
backwood plate, and an Koa truss rod cover with “Paua Heart” “OTM” symbol inlay
Set up: PRS Signature .010
Case type: Private Stock Brown Paisley
Specials: High Gloss Nitro finish, Koa top, Koa neck, fingerboard, and headstock veneer, “Paua
Heart” “Old” birds inlays with Raspberry Lemon stained Curly Maple centers, 11.5″ radius, Gold
hardware, and features zebra PRS Santana pickups.
The woods on this guitar were selected by the customer from the PRS Private Stock Vault.
【付属品】
Private Stock Brown Paisley Case
Private Stock 認定証
保証書、トレモロアーム、レンチ等類
⻑⽂にお付き合いいただき、誠にありがとうございます。
本記事が皆様のギターライフが豊かになる⼀助になれば幸いです。

平林 大一プロフィール
埼玉県出身。現在は静岡県に移り住んで15年が経過。
趣味は釣りとワインで、自然の中でリラックスする時間や美味しいワインを楽しむのが大好き。
2024年現在、PRS USAファクトリーでのオーダーやGIBSONナッシュビルでのバイヤー業務、国内外のギター・ベース、アンプやペダルのオーダーに携わっている。
所有楽器はPRS Private StockやAMPをはじめ、Fender 1963 Stratocaster、Gibson CS LP、Ken Smith BSR5、Vintage Ibanez & Maxonなど多岐に渡る。