皆様こんにちは。島村楽器別室 野原のギター部屋管理人の野原です。
1952年に発売されたレスポール・モデルは1961年にSGシェイプに変更され、1963年の途中にレス・ポール氏との契約が切れたため、翌年の1964年にモデル名がSG(Solid Guitarの略)へと変更されました。
1966年に発売されたスタジオ・アルバム「Blues Breakers with Eric Clapton」などをきっかけに高まるレスポール需要に応えるべく、ギブソン社はレス・ポール氏と再度契約をし、1968年にレスポール・スタンダードが再販されます。
再販された1968年のレスポール・スタンダードはP-90ピックアップを搭載したゴールドトップ・カラーで、ネックのジョイント角は5~7度、ヘッド角は1965年以降の仕様に準じた14度でしたが、2ピースのメイプル・トップ、1ピースのマホガニー・バックなど1950年代に通ずる部分もありました。
翌1969年半ばにはヘッドストックのサイズが大きくなり、ボディ・トップのメイプルは3ピース、ネックはボリュート付きの3ピース・マホガニー・ネックになります。ネックの一部(テノン)がネック側ピックアップ・キャビティ中央付近まで届くディープ・ジョイントが廃止され、シリアルナンバーの下に「made in USA」と記載されるのもこの頃です。
そして同じ1969年、ピックアップがP-90からP-90サイズのハムバッキング・ピックアップ(ミニ・ハムバッカー)へと変更され、モデル名もレスポール・デラックスへと改名されました。
1978 Gibson Les Paul Deluxe Wine Red

今回ご紹介するのは1978年に製造されたレスポール・デラックスです。前述の通りレスポール・デラックスは1969年に登場したモデルで、1985年まで生産されました。
1969年と言えばギブソンの親会社であったCMI(シカゴ・ミュージカル・インストゥルメンツ)が権利をECL(後のノーリン・コーポレーション)へ売却した年。ノーリン・コーポレーションがギブソンを所有していたのが1986年頃までの期間ですので、まさにレスポール・デラックスはノーリン・エラを代表する機種の一つと言えます。

ラージ・ヘッドストックと一口に言っても年代や時期によってアウトライン(シェイプ)が異なります。
1969年の変更直後はそれまでのヘッドストックにそのまま幅を持たせたような印象でしたが、1970年代の中期辺りから上部のラインが徐々に変わり、左右の頂点が際立つデザインになります。中央のコブ2つが小さくなったようにも見えますが、いかがでしょうか。

ヘッドストックに入れられた「Gibson」ロゴは年代によって形状が異なります。
1948~1969年やその年代のリイシュー(画像参照)では”b”と”o”の上部が開いていますが、1969~1984年では閉じています。本機は1978年製になりますので、例に漏れずclosed “b” and “o”と呼ばれるロゴが取り付けられています。

発売から数年は黒白黒の3プライ構造のトラスロッドカバーでしたが、1975年頃から画像の2プライへと移行します。1964年までの仕様に比べると外周の白い部分が狭く見えます。「Deluxe」のフォントがお洒落です。


チューナー(ペグ)・ボタンだけ見るとクルーソン社(1925年創業、1981年倒産)製のものに見えますが、搭載されているのはヘッドストック表面からナット(ブッシュ・ナット)で固定するシャーラー社(1945年設立)製のものになります。それまでのクルーソンに比べるとギアカバーの丸みが少ないデザインです。

ヘッドストックとネックグリップの間にはVolute(ボリュート)と呼ばれる盛り上がりがあります。
これは衝撃で折れやすいネックとヘッドストックの間の強度を高めるために設けられたもので、1969年の終わり頃から採用されました。ボリュートが廃止されるのが1982年頃ですので「レスポール・デラックス=ボリュート・ネック」というイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。

1974年、ギブソン社は主要エレクトリック・モデルのネック材を3ピースのメイプルへと変更(~1981年頃まで)します。メイプル材への変更理由は強度の向上と製造コストの削減のため。様々な文献を読むと「良質なマホガニーよりも安価で入手が容易だった」と書かれていることが多いです。
メイプルはマホガニーよりも硬いため音の立ち上がりが良く、サウンドは硬質でブライトな印象になります。

ポジション・マーカーはスタンダードから引き続きトラペゾイド・インレイを使用しています。1950年代のものに比べると柄が派手に見えます。ノスタルジックな雰囲気の50sも良いですが、高級感のある見た目がワインレッド・カラーの本体に良く合っています。

1950年代のレスポール・スタンダードのサイド・ポジション・マーカーはべっ甲柄でしたが、ややサイズの小さいブラックのドットが使用されています。1975年頃から使用されているバインディングは近年のギブソンUSAでも見られる厚みのあるものですので、ネックを正面から見た際に少しモダンな印象を受けます。
この個体はフレットの端にバインディングの山が残っていますので、オリジナル・フレットとなります。
※ギブソンのギターでバインディングの上にフレットが被さっている個体は、過去にフレット交換された個体になります

厚みのあるバインディングが採用されてからは指板エンド両端の角が丸みを帯びます(丸まり方に個体差あり)。デラックスはピックアップ・マウントリング(エスカッション)のデザインが丸みを帯びていますので、雰囲気がマッチしていて好きなポイントです。



古い時代のレスポールのピックガード、ジャック・プレート、トグルスイッチ・プレートは金型で樹脂を打ち抜いて作っていましたが、後にモールド成形に変わります。打ち抜きによるプラスティック・パーツはエッジがシャープですが、モールド成形のエッジには丸みがあり滑らかです。
ヴィンテージやリイシューのピックガードと比べて頂くと分かり易いのですが、今回のデラックスもモールド成形によるものとなります。

コントロール・ノブは年代に準じたメタル・インサートのトップ・ハット型が取り付けられています。経年変化でやや深みのあるカラーになっており、大変趣きがあります。「Volume」と「Tone」の文字も綺麗に残っています。

ピックアップはミニハムバッカーが搭載されています。ミニハムバッカーというと1963年に発売されたファイアバードを思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれませんが、レスポール・デラックスとファイヤーバードのピックアップは同じものではございません。
レスポール・デラックスはP-90サイズのミニハムバッカーで、アジャスタブル・ポールピースが取り付けられたコイル(ボビン)と、メタルバーが取り付けられたコイルから成るハムバッキング・ピックアップとなります。マグネットはバータイプのものが一枚コイルの下に配置されています。スラッグ・ポールピースとメタルバーの違いこそありますが、基本的に一般的なハムバッキング・ピックアップを小さくしたような設計です。
一方のファイアバードはP-90とはサイズの異なるピックアップで、バーマグネットの周りに巻いたコイル2つから成る構造で、双方のコイルは逆向きになるように配置されています。
レスポール・デラックスのミニハムバッカーは一般的なサイズのハムバッキング・ピックアップに通ずるサスティンなどはありますが、より明るく歯切れが良いサウンド(軽快なサウンド)で、ファイアバードのミニハムバッカーは更に音がタイトに聞こえます。アンプの出力を上げてもトーンの明確さが際立つサウンドで、芯の力強さも感じられます。
結果論にはなりますが、ボディトップに硬いメイプル材を用いたレスポールとボディ材にマホガニーを使用したファイアバードの特性にそれぞれ良く合うピックアップだと思います。

同時期のハムバッキング・ピックアップと同じように、裏には「PAT NO 2737842」と刻印されています。
一般的なハムバッキング・ピックアップは高さ調整スクリューを回すとピックアップ・マウントリング(エスカッション)に対してピックアップ自体の高さが上下しますが、レスポール・デラックスのミニハムバッカーはマウントリングとピックアップの高さが固定されています。高さ調整スクリュー周りの雰囲気が一般的なハムバッキング・ピックアップと異なっているのがお分かりになりますでしょうか。

受けとなるボディ側には画像の様なプレートが取り付けられており、高さ調整スクリューを回すとピックアップ・マウントリングごとキャビティ内を上下します。それまでのハムバッキング・ピックアップに比べると特異な構造に見えますが、なぜギブソンはこのような仕組みを採用したのでしょうか。
これは飽くまで推測なので確証はありませんが、生産の効率化とコスト削減のためだと考えています。
前述の通り1968年に再販されたレスポール・スタンダードはP-90ピックアップを搭載していましたが、多くのギタリストが望んでいたレスポールは1958~1960年に製造されていたハムバッキング・ピックアップを搭載していたものでした。
世の中の需要に応えるにしても、従来のハムバッキング・ピックアップを搭載するとなるとボディのピックアップ・キャビティのサイズを変更せざるを得ません。一本だけならともかく、生産ライン上での仕様変更はコスト(時間、労力など)がかかりますので、P-90のピックアップカバーをピックアップ・マウントリングとして流用したミニハムバッカーを新たに用意したのだと思います。

ブリッジは1970年代中期から採用されているナッシュヴィル・チューン・オー・マチック。それまでのABR-1は弦が切れるとブリッジサドルやサドルスクリューが脱落しやすい構造でしたが改善されています。イントネーションの調整範囲を広げるために従来のものよりも幅広な設計となっているのも特徴です。

ボディ・トップのメイプルは1969年半ばに変更された3ピース仕様。画像では少し分かりづらいかもしれませんがストップバー・テールピースの両端に継ぎ目が見えます。

1969年の後半頃からボディ・バックのマホガニーが薄いメイプル材を間に挟んだ三層構造(通称パンケーキ・ボディ)になりますが、1977年に1ピースのマホガニーへと戻されます。今回の個体は1978年製なので1ピース・マホガニー・バックになります。


コントロール・キャビティ・カバーを外すと2本のスクリューで留められた錫(すず)製のカバーが現れます。
コントロール・キャビティ・シールド・カバーなどと呼ばれるこのカバーは、空間の中に溢れている外来ノイズがパーツや配線材などに侵入しないように取り付けられたものです。基本的にはキャビティに施す導電塗料や銅箔などと同じ考え方です。

先ほどのシールド・カバーを外すと金属製のプレートにマウントされたコントロール類が現れます。このプレートはグラウンディング・プレートと呼ばれるもので、オリジナル(1950年代)では各ポットを繋いでいたグラウンド・ワイヤー(配線材)と同じ役割を担っています。
わざわざポットの背中同士を配線材ではんだ付けしなくて良い(=作業効率の向上)上に、コントロール・キャビティ・シールド・カバーを取り付ければパーツ類が金属製の箱に収まる形になる(=外来ノイズが侵入しにくくなる)という非常に考えられた設計です。

1969年にギブソンを買収したノーリン・コーポレーションは生産の効率化とコスト削減を掲げギブソンという会社を推進させます。1969年当時のアメリカの製造業は第二次世界大戦後の大量生産体制の最盛期ですので、企業としては当然の動きです。もちろん、それまでのギブソンでも楽器を量産するために様々な工夫が行われてきましたが、より生産の効率化とコスト削減が強く製品に表れたのがノーリン期になります。
世間で言われている通り、なかなか一筋縄では行かない手強い個体も散見するノーリン期ですが、生産されていた全ての個体がそうだったわけではありません。今回のレスポール・デラックスは弊社のルシアー駒木がアメリカで買い付けてきたものなのですが、「どんなに魅力的なヴィンテージギターでも楽器として使えないものは絶対に買わない」と言い切るだけあって、非常に弾き易い良い個体でした。
私が学生の頃は「レスポール=1950年代のヴィンテージかそれに準じたリイシュー、または1968年製」といった風潮で、デラックスを含むノーリン期のレスポールはあまり評価されていませんでしたが、現在ではネック側ピックアップの解像度の高さ、アンサンブルの中でも埋もれづらいサウンドなどデラックスならではの魅力がしっかりと評価されているように感じます。弾いていてとても楽しいモデルですので、機会がございましたら一度お試しになってみてはいかがでしょうか。
最後に本個体をご購入くださいましたオーナー様、特集記事への掲載をご快諾いただき誠にありがとうございます。
末長くご愛用いただけましたら幸いです。









