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別室 野原のギター部屋 Vol.52 ”1964 SG Standard Reissue”

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別室 野原のギター部屋 Vol.52 ”1964 SG Standard Reissue”

記事中に掲載されている価格・税表記および仕様等は予告なく変更することがあります。

皆様こんにちは。島村楽器別室 野原のギター部屋管理人の野原です。

ギターを弾き始めた当初はレスポールやストラトキャスター、ES-335、1958フライングV、次いでバードランドに憧れており、今回ご紹介するギターは「嫌いではないけれど、特別好きというわけでもない」モデルでした。何となく1960年代にデザインされたモデル全般への興味が薄かったような。それが今では1950年代のモデルと同じか、場合によってはそれ以上に夢中になっているのだから面白いものです。何か明確なきっかけあったわけではないのですが、ギターを弾いているうちに自然とその魅力に気付き虜になっていました。

Gibson Custom Shop 1964 SG Standard Reissue w/Maestro Vibrola VOS

1952年に誕生したレスポール・モデルが大きく仕様変更したのは1961年のこと。従来よりも薄いボディ厚、ベベルドコンター、トレモロ・ユニット(スウィング・アウェイ・プル・サイドウェイ・アーム)の標準装備など、今までのレスポールのイメージを一新する変更でした。1963年の途中にはレス・ポール氏との契約が切れたため、翌年の1964年にモデル名(総称)がSG(Solid Guitarの略)へと変更されました。

今回ご紹介するのはギブソン・カスタムショップが1964年当時のSGを忠実に再現したモデルです。前述の通りSGシェイプが世の中に出たのが1961年ですのでこの年をSGのデビューイヤーとすることが多いですが、「レスポール」という名前が外れた1964年も意味のある大切な年です。

1964年製のSGを使用したギタリストと言えばビートルズのジョージ・ハリスンやクリーム時代のエリック・クラプトンが有名ですが、1962~1963頃のレスポールSGを使用したミック・テイラー(ローリング・ストーンズ)、1961/1962年製を愛用したデュアン・オールマンやディッキー・ベッツ(オールマン・ブラザーズ・バンド)、そのレプリカ(Gibson Custom Shop Dickey Betts SG “Artist Proof #4″)を使用するデレク・トラックス(敬称略)など、この時期のSGは錚々たるギタリストたちが手にしています。

1960年までのレスポールよりも幅の広いヘッドストック。こちらも1961年の大幅な仕様変更時に採用されたものです。2弦、5弦チューナー(ペグ)ポストよりも上部に入れられたクラウンインレイは1966年(~1967年途中)まで、外周の白い部分の幅が広いトラスロッドカバーは1964年(~1965年途中)までの仕様になります。トップコートのニトロセルロースラッカーによるインレイの色味が素敵です。

年代に準じたシングルライン・ダブルリング(1列刻印2コブ)チューナーを搭載。ギアカバーの刻印は1964年の途中から2列刻印に切り替わって行きます。チューナーボタンのリングは1960年から出始めた仕様ですので、このチューナー一つとっても1960年代前半らしい雰囲気を楽しむことができます。

指板はレスポール・スタンダード時代から同じ仕様のものが継続されています。音質には影響しませんが、なかなか良い色味のローズウッドではないでしょうか。トラペゾイド・インレイが映えます。

べっ甲柄のサイド・ポジション・マーカーが入れられたセル・バインディング。若い方はご存じないかもしれませんが、ヒストリックコレクションが発売された当初は今よりも少々厚みのあるバインディングで、サイド・ポジション・マーカーはブラックでした。僅かな厚みの違いですが、遠目から見た時の印象は結構変わりました。

ちなみに厚みの薄いシンバインディングとべっ甲柄のマーカーが採用されたのは2001年で、今回のモデルには搭載されていませんがオリジナルのギブソンサウンドに欠かせないアルミニウムテールピースの採用もこの年からでした。リイシューの仕様遍歴については以前の特集記事(別室 野原のギター部屋 Vol.5)をご覧ください。

最終フレットまで露出するダブル・カッタウェイ仕様というだけでハイフレットへのアプローチが容易に行えますが、更にネック側に向かってボディ厚が薄くなるようテーパーがつけられています。SG本体の軽さ(今回の個体は約3.0kg)も相まってとにかく弾き易いです。

黒/白/黒/白/黒の5プライ構造のピックガード。1961~1963年のレス・ポール(SG)は5点のピックガード・スクリューで取り付けられていましたが、1964年(1963年の途中)からブリッジ・ピックアップ・リングの横に1点追加されました。

ピックアップは登場以来高い人気を誇るカスタムバッカー。2つのボビンの巻き数が不揃いになるアンマッチド・ターン構造、比較的磁力の弱いアルニコⅢマグネットを採用したオリジナルPAF(PATENT APPLIED FOR)を再現したピックアップです。

カスタムバッカーが初めて搭載されたのは2011年に発売されたEric Clapton 1960 Les Paul ”Beano”で、2013年からヒストリックコレクションに採用されます。2018年までは僅かにポッティング(ロウ付け)をしていましたが、2019年から完全にアンポッテッドになりました。※オリジナルPAFはアンポッテッド

ロウ付けをすることでピックアップ内部の隙間が満たされハウリングを抑制しますが、同時に微弱な信号まで抑え込まれてしまうため音がマスキングされます。弾き手のダイナミクスを忠実にアウトプットするPAFやナンバードPAFのサウンドに少しでも近づけたいのであれば、アンポッテッド仕様のピックアップはマストだと思います。

年代に準じたナイロンサドルのABR-1ブリッジ。1964年当時のものと比較すると現行品の方がサドルの透明度が高いです。ブラスサドルに比べ耳障りが優しい響きですが、しっかりと明瞭なサウンドです。電気的に作るウーマントーンは別として、クリームのライブ音源を聞いて「音がこもっている」と感じる方はあまりいらっしゃらないと思いますが。

テイルピースには美しいデザインが施されたマエストロ・ヴァイブローラを搭載しています。今日ではストップバー・テールピースのSGを見ても違和感を覚えないどころか標準的なイメージさえありますが、ヴィブラート・ユニットを搭載した姿が本来のものとなります。

プレートに刻印されたGibsonロゴに寄ってみましょう。Trini Lopezのテールピース”CUSTOM MADE”プレートなどでも見受けられる特徴的なジグザグ・フォントが採用されています。

マエストロ・ヴァイブローラは湾曲させた薄い鉄板をしならせることで音程に変化を与えます。その見た目から軽く柔らかいアーミングを想像される方がいらっしゃるかもしれませんが、一般的なシンクロナイズド・トレモロとさほど変わりません。マエストロ以前に搭載されていたサイドウェイ・ヴァイブローラに比べるとシンプルな構造ですが、とても良く考えられたデザインです。

アームバー先端に取り付けられたキャップは握り易さ(操作し易さ)を考慮した滑らかな曲線でデザインされています。アームバー自体はスクリューで取り付けられており、ボディトップに対して水平方向に360度回ります。

アームバーを後方に回した様子。ピックガード上にアームバーがあるとストロークした手が当たってしまうため、ここら辺に留めておく方が多いと思います。ビグスビーもそうですが、個人的にこのヴィジュアルが好きです。

コントロール・ノブは年代に準じたメタル・インサートのトップ・ハット型が取り付けられています。ブラックのプラスティック・パーツとマエストロ・ヴァイブローラが本体の表情をグッと引き締めています。

SGのチェリー・カラーはアニリンダイが使用されています。アニリンとは原油を原料に作られる合成染料で、アニリンを原料とする染料(ダイ)をアニリンダイと呼びます。ギブソンではこれを調合して色を作り、フィラー(目止め)に添加して木材に塗布します。スプレーのみの着色では得られない奥行きのあるチェリーレッドが美しいです。

アニリンダイは経年変化でフェイドしやすい特徴を持っていますので、この個体も更に渋みのあるルックスに変化していくことと思います。弾き込みによるネックグリップ部の退色など、この先が非常に楽しみです。

さて、今回はGibson Custom Shop 1964 SG Standard Reissueをご紹介いたしましたが、いかがでしたでしょうか。意外にも私の連載でチェリーレッドのSGを取り上げたのは今回が初めてだったようです。以前ご紹介したペルハムブルーのSGも素敵でしたが、やはりチェリーレッドも格好良いですね。長年多くの方が手にしてきた王道カラーに間違いはないなと改めて思いました。レスポールよりもやや腰高で軽快なドライブサウンドも抜群です。

今回の記事に登場しました1964 SG Standard Reissueの詳細につきましては、この下にご用意させて頂きました商品ページをご覧ください。お近くの店舗での試奏も承っておりますので、ご希望の方は展示店の島村楽器 新宿PePe店までお気軽にご連絡ください。それでは今回はこの辺で。

ギター部屋の管理人

野原 陽介プロフィール

学生の頃よりバンド活動、レコーディングなど様々な場所での演奏とヴィンテージギターショップ巡りに明け暮れる。
のちにギタークラフトを学び、島村楽器に入社。
入社後は米国Gibson社、Fender社への買い付けなどを担当。
甘いもの好き。

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