別室 野原のギター部屋 Vol.50 “ヴィンテージギターを手にした理由”

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別室 野原のギター部屋 Vol.50 “ヴィンテージギターを手にした理由”

記事中に掲載されている価格・税表記および仕様等は予告なく変更することがあります。

皆様こんにちは。島村楽器別室 野原のギター部屋管理人の野原です。

日頃店頭に立っていますとお客様から様々なご質問をいただきます。その中で意外と多いのが「ヴィンテージギターって良いんですか?」というご質問。

今回は私がヴィンテージギターと呼ばれるものをどう捉えているのか、また、手した理由やそれらを復刻した現行モデルについて色々綴ってみようと思います。いつも以上にとりとめのない文章になりますが、ご興味がありましたらご覧ください。

ヴィンテージギターの定義

ヴィンテージにカテゴライズされるギターは製造から年月の経った古いものがほとんどですが、明確な基準や定義はございません。楽器の仕様や製造方法、その時代の生産方針などで括られた共通の認識のようなものはありますが、最終的には人や店の認識の仕方で決められます。

私が学生の頃は1960年代までをヴィンテージと認識し、その中で1964年までと1965年以降で評価を分けて考える雰囲気がありました。これは生産方針や仕様の変化と市場の人気(評価)を踏まえてのものでしたが、最近では単純に製造から何年経ったかで括られることも多いようです。

今の私の感覚では1970年代までをヴィンテージ、1980年代以降を中古とするのが自然に思えますが、もしも私が2000年に生まれていたら1980年代もヴィンテージとして認識していたかもしれません。

ヴィンテージギターを手にした理由と経緯

現在私が所有しているヴィンテージギターは2本のGibson ES-335TDCで、ともに1964年に作られたものになります。一本はプロフィール画像で抱えているストップ・テールピース仕様(1965年出荷)、もう一本は以前の記事にも載せたファクトリー・ビグスビー仕様です。

クリームのフェアウェル・コンサートや1996年のハイド・パークでES-335を抱えるエリック・クラプトン氏(1964 ES-335TDC)、ブラック・クロウズのリッチ・ロビンソン氏(1963 ES-335TDC Factory Bigsby)のサウンドに影響を受けてES-335を手にしたのですが、初めて購入したのはヒストリック・コレクションの1963 ES-335 Reissueでした。

楽器として申し分のないギターでしたが、現在のリイシューに比べるとオリジナルの再現度は低く、いくらセッティングや音作りをつめても音源のような音が出ませんでした。そこからオリジナルのハードウェアをビンテージに替え、’57クラシック・ピックアップを著名な職人にリワインドして頂いたり、最終的に初期のステッカー・ナンバー・ピックアップ(ナンバードPAF)にしましたが欲しい音色に辿り着けず、ヴィンテージのES-335を探すこととなります。

1958〜1960年代のES-335を何本も試すと分かるのですが、製造時期によって音の傾向が見えてきます。1950年代のES-335はミドルが芳醇に鳴るややソリッド寄りのサウンド、1960年代前半は立ち上がりが良いトレブルの効いたサウンド、1960年代後半は徐々に響きの広さがナローになる印象を受けました。

音で選んだ結果2本とも1964年製になったわけですが、私の頭の中で鳴っているES-335の音色も1963年製と1964年製の個体によるものでしたので妙に納得したのを覚えています。

ヴィンテージとリイシューの音

全般的にヴィンテージ・ギターは立ち上がりが早く派手な音がします。言葉にするのが難しいのですが、広くオープンに鳴り(開放感のある音)、音の解像度が高いため僅かなピッキングの違いや本体の特性がそのままアンプから出るイメージです。

一方所有していたヒストリック・コレクションのES-335は鳴りがナローで艶っぽいサウンド、つまりはコンプレッサーやリミッターを用いて整えたような綺麗な音に聞こえました。

1964年製とその頃を再現した1963リイシューであればほぼ同じ仕様のギターになるわけですが、なぜ違うサウンドだったのか。私なりに考えてみました。

【木材について】
1964年製の指板にはインディアン・ローズウッドよりも硬いブラジリアン・ローズウッド(ハカランダ)が使用されています。板状の両木材を叩くと分かるのですが、インディアン・ローズウッドは中音域に深みのある音、ハカランダは金属的な硬い音がします。

そうであれば「ヴィンテージ(~1960年代の一部)特有の音はハカランダ指板によるところが大きいのでは?」とお考えの方もいらっしゃるかもしれませんが、私のイメージはそれほど大きくありません。

所有していたヒストリック・コレクションの指板にはハカランダに似た特性や硬さを持つマダガスカル・ローズウッドが使用されていました。それでも前述の様な音の違いがありましたので、仮にハカランダ指板だったとしても出音の高音域が少し立つぐらいで大きく印象が変わることは無いと思います。

ボディとセンターブロックの大部分に使用されているメイプルはどうでしょうか。当時寒冷地方で育ち目の詰まった硬質なイースタンメイプルを使用していたことから「ヴィンテージのメイプルは硬い」と言われています。確かにその通りですが、現在使用されているメイプルも楽器材として十分に硬いですので、その違いについては「個体差(=キャラクターの違い)の範囲」で語っても差し支えないような気がします。

次にネックに使用されているマホガニーですが、私はローズウッドやメイプルよりも重要視しています。これはギブソンの他のモデルにも言える事ですが、詰まっていないマホガニーを使用した個体は、音の解像度が低く、芯のぼやけたコシの弱いサウンドになる傾向にあります。

ヴィンテージのマホガニーは目の詰まった硬いものが多く、低音弦の明瞭さや音の跳ね返り方が違います。ナット交換の際に接着面のマホガニーを削ると、その硬さの違いをより実感することが出来ます。ただし、含水率の減少やセルロースの結晶化によってヴィンテージの木部は強度を増していますので、現行品のマホガニーが特別柔らかいと決めつけるのも少し違うような気がします。

YouTubeにマット・マーフィー氏が1960年製のES-345を演奏する1963年当時映像があるのですが、興味深いことに幾分現行品に近い音色に聞こえます。もしこれが気のせいでなければ、現行品も時間の経過とともにヴィンテージのようなテイストが現れてくるのかもしれません。

【ハードウェアについて】
ヒストリック・コレクションの金属パーツをヴィンテージに交換していて気付いたのですが、基本的にヴィンテージのパーツは雑味も含めてジューシーに鳴る傾向にあります。そこからパーツによって特有の帯域が出るのですが、対して現行品は密度のある綺麗な音に聞こえることが多いです。「当時とは不純物の割合が違うから」という意見を聞くことがありますが、製造過程での温度や時間など様々な要因が重なってのことと思います。

【トラスロッドと膠接着について】
今でこそヴィンテージと同じトラスロッドを使用していますが、以前はチューブを被せた径の細いものを使用していました。また木材同士を非常に強固に接着させる特性を持ち、固まると接着面の層が薄くなる膠(ニカワ)も使用されていませんでしたので、この点だけ見ても鳴り方が異なってしまうことは容易に想像つくと思います。

【塗装について】
所有していたヒストリック・コレクションはグロス仕様のものでしたが、ヴィンテージに比べて柔らかい塗料が使われていました。これは木部が伸縮した際にも塗装が割れないようにするためですが、当然のことながら音にも影響します。以前トム・マーフィー氏が「マーフィー・ラボの塗料はヴィンテージと同じ(=硬質な)ものなので、ブライトでクリスピーなサウンドだ」と仰ってましたが、まさにヴィンテージにあって当時のヒストリック・コレクションに無いポイントがこれになります。

ヴィンテージのピックアップと電装系パーツ

ヴィンテージのサウンドを語る上で欠かせないのがピックアップです。通常1964年製のES-335にはステッカー・ナンバー・ピックアップ(ナンバードPAF)が搭載されていますが、ファクトリー・ビグスビー仕様のES-335のネック側にはPAF(パテント・アプライド・フォー)ピックアップが搭載されていました。いずれもひたすら素直でHi-Fi(=高忠実度、高再現性)な特性を持っていますので、弾き手のニュアンスやギターのキャラクターがそのままアンプから出てくるイメージです。

ヒストリック・コレクションに搭載されるピックアップはこれらを再現したもので、’57クラシックからバーストバッカー、そしてカスタムバッカーへとアップデートされてきました。当然のことながらアップデートの度PAFに近づいてきましたが、それでもまだ足りないと感じるのが音の解像度と高音域、レンジの広さ、低いレベルでオーバードライブしやすい特性です。

ギターは物理ですので構成する何かが少しでも違えば全く同じ音になることはありません。故にPAFの再現も非常に難しいものと認識していますが、素材以外で私が重要視しているのがワイヤーのテンション(=ワイヤーの隙間)です。

ハムバッキング・ピックアップは片側のボビンに約5,000ターン、2つの合計で約10,000ターンほどのワイヤーが巻かれています。PAFのボビンは時間の経過とともに収縮と変形をしますので、巻きたての新品時に比べワイヤーのテンションは下がり、線と線の間の隙間が大きくなります。オリジナルPAFの修理(リワインド)を行ってきたピックアップ・ビルダー数人に話を伺うと、当時のPAFには巻きムラや特有のパターン(巻き方)があるそうですので、その隙間の広がり方も単純なものでは無いと想像できます。

接近した線の間には線間容量(キャパシタンス)が発生し、その容量は線と線の距離(隙間)が大きくなるほど小さくなりますので、製造から時間の経過したPAFは交流成分の高域周波数の漏れが少ないハイの伸びたトーンになります(※The Beauty of the ‘Burst / リットーミュージック P205参照)。もしもリイシューのピックアップでこのワイヤーの緩みを再現できれば、高音域のみならず、音の解像度やレンジの広さについてもかなり近しい雰囲気になるのではないかと思っています。

ピックアップで発生した電気信号はポットやキャパシタ(コンデンサ)、セレクター・スイッチなどの電装系パーツを通ります。電気伝導体にはそれぞれ抵抗率があり、電気信号の削れ方もそのパーツによって異なるため、ピックアップから先の電装系パーツ(配線材を含む)はフィルターとして考えています。「ヴィンテージ(オリジナル)のポットを新しくしたら音が変わった」という記述や意見を見聞きしたことがあると思いますが、これも素材や製法によって電気信号の削れ方が変わったためと考えるのが自然です。

弦振動はボディやネック、搭載されているハードウェアなど全ての振動に影響を受けます。その弦振動をもってピックアップが発電し、電気信号は電装系パーツというフィルターを通ってアウトプット・ジャックに到達します。前述の「ギターは物理ですので構成する何かが少しでも違えば全く同じ音になることはありません」と私が言い切る根拠がこれであり、当時のヒストリック・コレクションに限界を感じヴィンテージを手にした明確な理由になります。

新しいギブソンで遊びたい

ここまで色々なことを綴ってきましたが、ここに書いたこと、全部ギブソンのスタッフの方は知っています。

何となくその国民気質から「日本の愛好家の方がギブソンのスタッフよりも良く知っているだろう」とイメージされている方もいらっしゃるかもしれませんが、全くそんなことは無くて。特にギブソン製品開発責任者のマット・ケーラーさんと食事をした際は、その造詣の深さに驚かされました。お互いに談笑しながら愛用するヴィンテージ・ギブソンの写真をシェアしたりもしたのですが、正に「gibson geek and vintage enthusiast」でした。

膠接着やチューブレス・トラスロッド、ヘッドストックのギブソン・ロゴのリファイン、マーフィー・ラボのフィニッシュなど近年のギブソンはヴィンテージ愛好家が歓迎するようなアップデートを次々と行っていますが、「なるほど。こういう方が製品開発責任者だから最近のギブソンは面白いのか」と妙に納得したのを覚えています。

所有していたヒストリック・コレクションのES-335はネックにトラブルがあったため手放してしまいましたが、とても気に入っていたのでタイミングを見てリイシューを買い直そうとここ数年考えています。所有する1964年製のネックは2本ともAuthentic ’61 Skinny C-Shapeに近いので、1961ネックの1964 ES-335リイシューか1961 ES-345が理想です。現在カタログに無いのでM2MかPSLあたりになりそうですが。

フィニッシュはマーフィー・ラボでピックアップはカスタムバッカー・アンダーワウンド。好みに調整しながら弾き込んで、もっとヴィンテージ寄りの音の解像度と高音域、レンジの広さが欲しくなったらピックアップとキャパシターを交換しましょうか。1962年近辺のステッカー・ナンバー・ピックアップ(ナンバードPAF)がベストですが、高騰し過ぎて気軽に買えないので、これを機に色々試してみるのも楽しいかもしれません。キャパシターはお気に入りの1950年代のCornell Dubilierを。

更に雑味を含めたジューシーな感じが欲しかったらヴィンテージのハードウェアを搭載したり、コンディションの良い古いポットやセレクター・スイッチ、ジャックに交換してみるかもしれませんが、近年のリイシューは再現性が高いのでピックアップとキャパシターだけ交換したらある程度満足してしまうような気もします。

以前ご紹介したレスポールもそうですが、「どこまでヴィンテージに寄せるか」を考えながらリイシューに手を加え、自分だけの1本に仕上げるのが好きなので、いつかこのES-335かES-345のリイシューは実現してみたいです。きっとヴィンテージとも異なる魅力的なサウンドが鳴るはずですので。

ギター部屋の管理人

野原 陽介プロフィール

学生の頃よりバンド活動、レコーディングなど様々な場所での演奏とヴィンテージギターショップ巡りに明け暮れる。
のちにギタークラフトを学び、島村楽器に入社。
入社後は米国Gibson社、Fender社への買い付けなどを担当。
甘いもの好き。

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