皆様こんにちは。島村楽器別室 野原のギター部屋管理人の野原です。
これまで数々のギターをピックアップしてきましたが、意外にもこのギターを取り上げるのは初めてのようです。20年以上前は「一部のファンに支持される通好みのモデル」といった印象がありましたが、ここ数年でその魅力が広く浸透したように感じます。
同じピックアップでも「チューン-O-マチック・ブリッジ(ABR-1)に比べてピッチが良くない」などと言われることもあったモデルですが、それ以上に「この仕様ならではのサウンド」が魅力的なんです。
Gibson Custom Shop 1954 Les Paul Goldtop Reissue VOS

1952年に発売されたレスポール・モデルはレスが発明したトラピーズ・ブリッジ・テールピースが搭載されていました。バーの上を弦が通る設計のパーツでしたが、ネックのジョイント角度が浅かったためか弦の下を通して出荷され、結果弦のテンションが不足しブリッジが動いてしまったり、ブリッジ・ミュートできないなど演奏面で問題が生じてしまいました。
この問題を受けて当時の社長であるテッド・マッカーティは翌年の1953年1月に画像のスタッド・バー・ブリッジ・テールピース(ラップアラウンド・ブリッジ)の特許を申請し、同年の途中からラップアラウンド・ブリッジを搭載したレスポール・モデルを出荷します。
ブリッジの変更に伴いネックの仕込み角度も1度から3度(※仕込み角度は個体差あり)に変更したこのレスポール・モデルは1955年の途中まで生産され、次第にチューン-O-マチック・ブリッジ(ABR-1)に入れ変わっていきます。
今回ピックアップしたのは1954年当時のレスポール・モデルを再現したモデルで、テネシー州ナッシュヴィルにあるギブソン・カスタムショップで生産された一本です。モデル名を”1954″にしたのは一年を通してこの仕様を生産したのが1954年だったからだと思われます。

レスポール・モデル(スタンダード)は発売当初よりボディ・トップにメイプル材、ボディ・バックとネック及びヘッドにはマホガニー材を使用しています。
ボディ・トップに施されたゴールド・カラーはレス本人のリクエストで、ブラス・パウダー(銅と亜鉛)をクリア・ラッカーに混ぜて吹き付けています。
ネックやヘッド、ボディ・バックまでゴールドにフィニッシュされた個体(オール・ゴールド)も少数出荷されましたが、ボディ・トップのみゴールドでフィニッシュした”ゴールド・トップ”が一般的です。

1954年当時同様、後年のレスポールよりも低い位置に入れられたヘッドストックのブランド・ロゴ。幾度となくアップデートされてきた”Les Paul MODEL”のシルクスクリーンもあわせて、丁寧に再現されています。Early 50sの雰囲気が素敵です。

チューナー(ペグ)は年代に準じたシングル・リング。ボタンの色味や透明度も良い感じに再現されています。画像には写っていませんが、ヘッド裏のシリアル・ナンバー(スタンプ)は1953年から入れられるようになりました。

1950年代のレスポールは指板エンドより長いネックの中子(テノン)がネック側ピックアップの下まで深く差し込まれています。この構造をディープ・ジョイント(ロング・ネック・テノン)と呼び、接着にはハイドグルー(膠/ニカワ)が使用されます。あわせて指板の接着もニカワです。
ニカワの主成分はゼラチン(タンパク質)で、純度の高いものは食用や医療用、精製度の低いものをニカワとして工業用に用いられてきました。接着剤としては5,000年以上も前から利用されているようです。
湯煎して液体状にしたニカワで接着を行い、自然硬化させます。木材同士を非常に強固に接着させる特性を持っており、固まると接着面の層が薄くなると言われていますので、音への影響も容易に想像できます。
一般的な化学物質からできた接着剤に比べ手間はかかりますが、今回のモデルを含む2014年(ネックジョイントのみであれば2013年)以降のリイシュー(復刻)モデルにはニカワが使用されています。
1950年代のサウンドを再現するためには欠かせないポイントの一つですが、わざわざ目に見えない接着剤にまでこだわって再現するあたりにリイシューに対するギブソンの本気度や熱意が伺えます。

ピックアップ・セレクター・スイッチ・プレートをはじめ、プラスティック・パーツはトゥルー・ヒストリック(2015~2018年)が発売されたタイミングでアップデートされたものが使用されています。オリジナルに搭載されていた貴重なヴィンテージ・パーツを徹底的に解析しただけあり、リアルなり仕上がりとなっています。
ゴールド・トップやオール・ゴールドのレスポールはボディのアーチの形状が分かりやすく、ならではの楽しみ方ができます。

ピックガードもオリジナルと同様にマルチ・プライ構造で製作されています。すでに見慣れてしまった当たり前のシェイプですが、改めて見ると良いデザインです。レスポール専用の新しいデザインながら、それまでのES-175やES-125などに見るギブソンらしいピックガードの雰囲気も持ち合わせています。

ピックアップはウォルター・フラーが開発したP-90。エナメルでコーティングされた42AWGの銅線が約1万ターン巻かれたシングルコイル・ピックアップで、直流抵抗値は7~8kΩほど。ボビンの下にはアルニコ3マグネットが2つマウントされています。
シングルコイル・ピックアップと言われるとハムバッキング・ピックアップよりも非力なイメージを持たれるかもしれませんが、P-90の直流抵抗値はハムバッキング・ピックアップと変わりません。
ハムバッキング・ピックアップを開発したセス・ラヴァ―もP-90のサウンドは気に入っており、ハムノイズだけを解消したかったとインタヴューで語っていましたので、後のハムバッキング・ピックアップ(PAF)が片側5,000ターンで設計されたことにも納得です。
※PAF:5,000ターンのボビン×2=10,000ターン/直流抵抗値約7~8kΩ

各弦の下に見える「-」のスクリューがポールピースで、2弦と3弦、4弦と5弦の間に見える若干小さい「+」のスクリューがピックアップをギター本体に固定しています。
乳白色のピックアップ・カバーはレスポール・モデル(スタンダード)が初めてで、その見た目からソープ・バーと言われています。

コントロール・ノブも1954年当時に取り付けられていた円筒形のスピード・ノブを再現しています。発売当初のスピード・ノブはやや背の高いもの(5/8″)でしたが、1953年には画像のサイズ(1/2″)になります。
ちなみに、ハムバッキング・ピックアップのレスポールで目にするトップ・ハット型のコントロール・ノブは1955年の途中から出荷されはじめます。

ブリッジは前述の通りスタッド・バー・ブリッジ・テールピース(ラップアラウンド・ブリッジ)を搭載しています。パーツ一つで弦を乗せる役割と留める役割を担っているため弦振動がボディに伝わりやすく、チューン-O-マチックのレスポールよりも音が太く感じられます。
音の立ち上がりが良く(早く)、出音から芯のある太い音が鳴り、音の伸びが良い(どこかで弦振動がロスして減衰している感じが少ない)というのが私の感想なのですが、何となく伝わりますでしょうか。以前Zinky(アンプ)で鳴らしたオリジナルの1954は音の芯が強くて太いテレキャスターを弾いているような感じでしたが、こちらのリイシューを弾いていてその感覚を思い出しました。

弦をネック側から通しますのでボールエンドもネック側で留まります。”ラップアラウンド”ブリッジの名前の通りブリッジの一部を弦で巻いた状態になりますので、ABR-1ブリッジなどに比べて弦とブリッジの接触面積が大きくなります。

オクターブ調整は1弦側と6弦側に取り付けられた小さなイントネーション調整用スクリュー(イモネジ)で行います。中心の穴は六角形で、調整の際には小さな六角レンチを使用します。この小さなスクリューがスタッドに接触し、締め込み具合によってテールピースが前後に動く仕組みとなっています。

以前は上面に起伏がついたコンペンセイテッド・テールピースや各弦のイントネーション調整が可能なバダス・タイプのブリッジに交換するプレイヤーを見かけましたが、最近はオリジナルのまま使用されている方がほとんどの様な気がします。正確なイントネーションを優先するのであれば間違いなくバダス・タイプですが、”1954らしいサウンド”を十分に堪能するのであればラップアラウンド・ブリッジ一択だと思います。

さて、いかがでしたでしょうか。
レスポールと言えばハムバッキング・ピックアップを思い浮かべる方が多いと思いますがラップアラウンド・ブリッジのレスポールには昔から根強いファンがいる印象を持っています。実際に1950年代のレスポールを複数本所有される愛好家の中にも、ラップアラウンド・ブリッジのレスポールをベストに挙げる方もいらっしゃいます。
確かに右手と左手で作った弾き手の表現(ダイナミクス)がダイレクトにアンプから出てくる特有の感覚はこのモデルならではで、とても魅力的です。ギブソン愛好家のみならず、普段デタッチャブルネックのギターを愛用されている方にも一度はお試し頂きたいモデルです。
今回ご紹介させて頂きましたこちらの個体は掲載前にご成約となりました。掲載のご了承をくださいましたオーナー様に改めて御礼申し上げます。
1954 Les Paul Goldtop Reissueは当店でも大変人気のあるモデルですので、また素敵な個体を皆様にご紹介できるよう頑張りたいと思います。
それでは今回はこの辺で。