皆様こんにちは。島村楽器別室 野原のギター部屋管理人の野原です。
ヴィンテージが好きな友人たちと話をしていると「オリジナルのレスポールは何年が好き?」といった話題になることがあります。
1957年と1959年辺りは好きな個体が多かったような記憶がありますが、それらと同じぐらい好きなのがラップアラウンド・バー・テールピース(ラップアラウンド・ブリッジ)のレスポール(1953~1955年)です。
p-90ピックアップとの相性の良さは改めて言うまでもありませんが、今回ご紹介するオリジナルには無い仕様も抜群なんです。

Gibson Custom Shop Japan Limited Run 1954 Les Paul Standard All Ebony Wraparound 2 Humbuckers VOS

オリジナルの1954レスポール・モデルをエボニー・カラーにリフィニッシュし、P-90ピックアップからハムバッキング・ピックアップにコンバートしたような仕様の1954レスポール・リイシューです。日本限定のオーダー・モデルで、カラーこそ異なりますが、数々の名演を残した伝説的なレスポールとほぼ同じ仕様です。

既にご存知の方も多いと思いますが、1954年当時のギブソン・ロゴは後年(1958年以降)のものに比べ低い位置に入れられていました。カタログ・モデル(通常生産)の1954レスポール・リイシューでは再現されていませんが、こちらのモデルのオーダー・シートには”Low Logo & Silk”の記載がされており、画像のようなリアルな仕上がりとなっています。

先日のMurphy Lab 1957 Les Paul Standard All Ebonyと同様にイエローのインクでシリアル・ナンバーが入れられています。あの有名な1954年製のレスポールはロトマチック・チューナー(ペグ)に交換されていますが、こちらは年代に準じたシングル・リングが搭載されています。

ディーラー向けのスペックシートを見ますと、ネックの項目には”58 True HIST-Do Not Machine Roll”と記載されています。近年の58ネックは昔のヒストリックよりも幾分スリムな印象ですので、苦手意識のある方でも難なく持って頂けると思います。

前述の通り1954年当時のレスポール・モデル(スタンダード)にはP-90ピックアップが搭載されていましたが、こちらのモデルにはハムバッキング・ピックアップ(カスタムバッカー/アンポッテッド)が搭載されています。セス・ラヴァ―、ウォルター・フラー両氏によって開発されたハムバッキング・ピックアップが登場するのは1957年になりますので、後年に交換された個体をトレースしたものになります。
熱心なファンであればもうお分かりだと思いますが、深みのあるチョコレート・ブラウンにフィニッシュされたあのレスポールです。
シグネイチャー・モデルでは無いため名前は伏せますが、かのギタリストがそのレスポールに出会ったのはStrings and Thingsというギターショップ。ショップによると改造は前オーナーに依頼されて施したもので、リフィニッシュとピックアップ交換の他にはネックを若干薄くリシェイプし、チューナーをロトマチックに交換したそうです。
※かのギタリストの伝記には「ギターはすでにリフィニッシュされていたが、彼は黒に近い非常に濃い茶色でもう一度リフィニッシュすることにした」と書かれており、ショップの証言との食い違いが見られる

ブリッジ/テールピースは1954年当時の仕様に準じたラップアラウンド・ブリッジです。1955年の途中からチューン-O-マチック・ブリッジ(ABR-1)が登場し弦ごとのイントネーション調整がより正確に行えるようになりましたが、それでもラップアラウンド・ブリッジは根強い人気を誇ります。
弦を巻き付けるように留めている1つのパーツが2本の太いボルトでボディに固定されているため、チューン-O-マチック・ブリッジに比べ弦振動がボディにより伝わると言われます。ラップアラウンド・ブリッジは当時のレスポール・スペシャルやジュニアにも採用されていますが、確かに音の張りやコシの強さなど通ずるものがあります。

ラップアラウンド・ブリッジの側面、スタッド・ボルト付近に取り付けられたスクリュー(イモネジ)はイントネーションを調整するもので、締め込むとブリッジが後方(ボディ・エンド側)に、緩めると前方(ネック側)に動きます。

ボディ・エンド側から。イントネーション調整用スクリューこそ付いていますが、ABR-1が登場した後もスクリューを省いてテールピースとして流用されるパーツなので、形状は見慣れたものだと思います。

コントロール・ノブはバレル・ノブ(スピード・ノブ)。1955年の途中にハット・ノブが登場するまで使用されていたものです。ラップアラウンド・ブリッジとともに1954年らしさを感じさせます。

コントロール・キャビティにはブラウン・カラーのパネルが取り付けられています。※トグル・スイッチ・キャビティのカバーも同色のものが付属します
1958年にレスポール・モデル(スタンダード)がチェリー・サンバースト・カラーに変更されるとブラックのカバーが採用されますが、ゴールド・カラーの時代にはブラウンのカバーが取り付けられていました。

通常ハムバッキング・ピックアップのレスポールにはABR-1ブリッジが搭載されていますので見慣れないとやや違和感を覚えるルックスかもしれませんが、この「イレギュラー感」に凄みを含んだ魅力を感じます。

今回は特別な仕様の1954レスポール・リイシューをピックアップしてみましたが、いかがでしたでしょうか。
チューブレス・トラスロッド、ハイドグルー(膠)接着、アンポッテッドのハムバッキング・ピックアップ(カスタムバッカー)など、近年のリイシューはヴィンテージ愛好家からも高い評価を受けています。
過去にもハムバッキング・ピックアップ仕様の1954レスポール・リイシューは少数生産されましたが、「1954年製のコンバージョン」というテイストを楽しむ点では、よりオリジナルに近い仕様の今回のモデルは魅力的ではないでしょうか。
国内外の著名なギタリストが愛用したくなる気持ちが分かるようなグッド・サウンドの一本ですので、皆様もぜひチェックしてみて下さい。それでは今回はこの辺で。
