信州ギター祭り2025 主要ブランド制作ブログ公開中!

別室 野原のギター部屋 Vol.39 “Gibson Custom Shopの塗装と仕上げについて”

  • ブックマーク
別室 野原のギター部屋 Vol.39 “Gibson Custom Shopの塗装と仕上げについて”

記事中に掲載されている価格・税表記および仕様等は予告なく変更することがあります。

皆様こんにちは。島村楽器別室 野原のギター部屋管理人の野原です。

「カスタムショップの1959レスポールを買おう」と思い立って楽器店に来てみたものの、同じモデルでも塗装がヒビ割れて傷だらけの物もあれば、ヒビ割れこそ無いけれど金属パーツが曇っている物もある。「中古品かな」と思って値札を見ると「新品」の文字が。「隣の綺麗な1959レスポールは新品だと分かるけれど…新古品だろうか」

この連載をご覧になって下さっている方の中には既にご存知の方もいらっしゃるとは思いますが、ギブソン・カスタムショップ製品には複数の塗装と仕上げが用意されています。

今回は店頭でもご質問頂く機会の多いギブソン・カスタムショップ製品の塗装や仕上げについて解説してみたいと思います。

現存するヴィンテージ・ギターのコンディションは様々で、過ごしてきた環境や使用状況が塗装やハードウェアに良く表れます。

ツアーに持ち出されて弾き込まれた結果無数のウェザーチェック(塗装のヒビ割れ)や傷が入った個体、気の知れた友人達との月に二回の演奏に持ち出されていた程良く年季の入った個体、購入したものの演奏する時間が取れず、何十年もの間ベッドの下に仕舞われ続けてきた新品の様なコンディションの個体など、ひとつとして同じものはありません。

そんな現存するヴィンテージ・ギターの姿や出荷当時の姿を忠実に再現するために、ギブソン・カスタムショップは「Gloss(グロス)」「VOS(Vintage Original Spec)」「Murphy Lab(マーフィー・ラボ)」と呼ばれる3つの仕様(仕上げ)を用意しました。

GLOSS(グロス)

Gloss(グロス)とは光沢、艶、輝きという意味で、文字通り塗装やパーツ類に傷や曇りが一切ない仕上げとなります。画像の「1959 Les Paul Standard Reissue Gloss Factory Burst」であれば、正に1959年に生産されたレスポール・スタンダードの工場出荷時の状態を再現したものなります。「Factory Burst」はカラー名で、褪色や変色の無い新品時のバーストを再現したカラーになります。

「グロス=一番綺麗な仕上げ」と覚えておけば問題ないかと思います。

グロスからは少し話が逸れますが、1958~1959年(1960年の一部を含む)に生産されたレスポール・スタンダードは、画像の様な赤味のあるサンバースト一色のみが生産されていました。※カスタムオーダー品(カスタムカラー)を除く

イエロー層の上に赤い染料系の塗料で塗装を行うのですが、微量の青系や黒を混ぜた中間色をリム部分に使用し深みを出していました。この鮮やかで美しい色が出る塗料は褪(退)色しやすい側面を持っており、特に早く褪色が進んだのが赤の色味成分でした。

現存する1958~1959年(1960年の一部を含む)のレスポールの色味が全て異なる要因の一つがこの褪色であり、加えて微量に混ぜられた青系や黒の塗料の配分、トップコート(ラッカー)やボディ・トップに使用されたメイプル材自体の色焼け具合などが影響しています。

フェイデッド・チェリーやティーバースト、ハニーバースト、レモン・ドロップなどの呼び名は経年変化後のそれぞれの姿(バーストの色味)に対して後年に付けられたもので、リイシューではそれらをカラー・バリエーションとして用意しています。

話が逸れたついでに、商品名の見方も記しておきます。
それぞれの意味が分かると、より商品が見やすく(理解し易く)なると思います。

(例1)2023 Gibson Custom Shop 1959 Les Paul Standard Reissue Gloss Factory Burst

  • 2023=製造年
  • Gibson Custom Shop=製造工場(部門)
  • 1959=再現しているモデルの年式
  • Les Paul Standard=モデル名
  • Reissue=「再発行」「再発売」の意味
  • Gloss=仕上げ(仕様)
  • Factory Burst=カラー名

(例2)2023 Gibson Custom Shop M2M Murphy Lab 1959 Les Paul Standard Reissue Light Aged Green Lemon Fade

  • 2023=製造年
  • Gibson Custom Shop=製造工場(部門)
  • M2M(Made to Measure)=1本単位のオーダー・プログラム(=カタログ外のオーダー品)
  • Murphy Lab=マーフィー・ラボ・コレクション(シリーズ)
  • 1959=再現しているモデルの年式
  • Les Paul Standard=モデル名
  • Reissue=「再発行」「再発売」の意味
  • Light Aged=仕上げ(仕様)
  • Green Lemon Fade=カラー名

その他、PSL(Pre Sold Limited)=5本~のオーダー・プログラムや、日本市場向けに作られたモデルにはJapan Limitedという表記もございます。

VOS(Vintage Original Spec)

グロスに比べ塗装面の光沢が鈍く、ハードウェアー類が少し曇っているのがお分かりになりますでしょうか。「安定した状況下で長らく展示されていたギター」「さほど弾かれることなくケースにしまってあったギター」というのが、VOS(Vintage Original Spec)の基本コンセプトになります。このため、弾き傷や打痕、ウェザーチェック(塗装の割れ)はありません。

1959 Les Paul Standard Reissue VOSであれば「新品のまま65年の月日を経た1959年製のレスポール・スタンダードを忠実に再現」といったところでしょうか。

2006年にVOSが発売されるまではCustom Authentic(2004年発売)という仕様が生産されており、仕上げの内容はVOSとほぼ同じものでしたがここ数年のVOSよりも更に塗装面の光沢が鈍く、ハードウェアー類の曇り方も強いものでした。

「ここ数年のVOSは、以前のVOSやCustom Authenticよりもややグロスに近い仕上げ」になっているのが特徴です。

ヒストリック・コレクションの仕様遍歴につきましては、別室 野原のギター部屋 Vol.5 “Gibson Historic Collection Les Paul Reissueの仕様遍歴と60th Anniversary 前編”をご覧ください。

Murphy Lab(マーフィー・ラボ)

ギブソン・カスタムショップのエイジド製品を、新たな領域に引き上げるプロジェクトとして立ち上げられたマーフィー・ラボ。

カスタムショップ内に設立されたマーフィー・ラボを率いるのは、ヒストリック・コレクションの黎明期を支え、エイジングのパイオニアとして知られるマスター・アルティザンのトム・マーフィー氏です。ヴィンテージのエキスパートであり、ヒストリック・レスポールの初代ペインター(フィニッシュ担当)としても有名です。

マーフィー・ラボにはトム・マーフィー氏自らが任命した7名のアルティザンが所属しており、全てのエイジド製品の特別なラッカー・プロセスと、エイジング作業がここで行われます。

現存する1950~1960年代のヴィンテージ・ギターには「ウェザーチェック」と呼ばれる塗装のひび割れが見受けられます。これは経年で生じるものですが、マーフィー・ラボでは当時のニトロセルロースラッカーを科学的に解析し、新たに開発されたラッカー処理技術とトム・マーフィー氏のエイジング・テクニックを組み合わせ、意図的に生じさせています。

前述の通り、現存するヴィンテージ・ギターのコンディションは過ごしてきた環境や使用状況により様々です。それらを4つに大別し、リアルに再現しているのがマーフィー・ラボ・コレクションの特徴となります。

Ultra Light Aged(ウルトラ・ライト・エイジド)
マーフィー・ラボ・コレクションでは最も程度の良いヴィンテージを再現したもの。ウェザーチェックは入っていますが使用による傷は極々僅かで、ハードウェアには軽度の曇りが見受けられるライトエイジド・ハードウェアを採用。ヴィンテージのコンディションで例えると、ニア・ミント・コンディション辺りになるでしょうか。

Light Aged(ライト・エイジド)
ウルトラ・ライト・エイジドより高密度なウェザーチェックが施されています。ライトエイジド・ハードウェアを採用し、主に室内で弾かれてきたギターの経時変化、演奏による摩耗、傷を再現しています。ヴィンテージのコンディションで例えると、エクセレント~エクセレント・プラス・コンディションでしょうか。

Heavy Aged(ヘビー・エイジド)
ツアー、ギグによるハードなプレイにより、ネックやボディのフィニッシュが剥がれた状態やベルトのバックル傷を再現。ハードウェアはウルトラ・ライト・エイジドやライト・エイジドのものより更にエイジングを強めたヘビーエイジド・ハードウェアを採用しています。

Ultra Heavy Aged(ウルトラ・ヘビー・エイジド)
プロギタリストのメインギターとして、ツアー、ギグで酷使されて、剥がれたフィニッシュから木部が露出した状態を再現する最大レべルのエイジング。ハードウェアはマーフィー・ラボによるヘビーエイジド・ハードウェアを採用。

塗装と仕上げによる音の違い

前述の通り、1950~1960年代のヴィンテージ・ギターの塗装にはひび割れ(ウェザーチェック)が生じていることがほとんどです。これは湿度や温度の変化で木材が伸縮した際、塗膜が耐え切れずに割れてしまうというのが一般的な見解です。

「塗装をしているのに湿気が影響するのか?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、ニトロセルロース・ラッカーは湿気(水分)を通します。湿気や熱、シンナーなどに弱い一方、透明度が高く硬いため、研磨することで美しい光沢が得られる塗料です。

「マーフィー・ラボではヴィンテージ・ギブソンと同じ性質のラッカーを用意し、同じ原理でウェザーチェックを入れている」とトム・マーフィー氏が発言していることから、硬い性質の塗料を使用していることが分かります。

VOSとグロスで使用されるラッカーはケミカルを添加し、ある程度木の動きに追従できるようにして割れが生じにくいようにしていますので、やや柔らかい塗料だということが分かります。

グロスとVOS、マーフィー・ラボは塗装や仕上げが異なるだけでギター本体に違いはありませんので、それぞれの音を比較する際にポイントとなるのがこの塗料の硬さになります。

高硬度のラッカーはギターの振動、鳴りを妨げにくいことから、クリスピーでレスポンスがよく、立ち上がりの早いサウンドになると言われていますが、マーフィー・ラボのサウンドがこれにあたります。それと比較し、グロスとVOSのサウンドは僅かにまろやかに聞こえます。

1本だけ鳴らしても違いを聞き分けるのは難しいと思いますので、ぜひ同じリイシューモデル、同じアンプ、同じケーブルでマーフィー・ラボとVOS、またはグロスを弾き比べて頂ければと思います。

今回はギブソン・カスタムショップ製品の塗装や仕上げについて解説してみましたが、いかがでしたでしょうか。

私はヴィンテージ(主に1950~1960年代製)が好きなので、昔から「自然にウェザーチェックが入るような硬い塗料を使わないかな」と呑気に考えていました。しかし企業側の目線で考えると意図しない塗装のヒビ割れや剥がれはリスクもありますので、エイジド加工を施したマーフィー・ラボであってもリリースするのには相当な覚悟が必要だった思います。

実際に最初期のマーフィー・ラボの中には現在のそれではあまり見かけない割れ方をした個体もありましたが、それでも良いプロダクトだと思いますし、何より熱心なファンが長年望んでいた方向に選択肢を増やしたギブソンというブランドを改めて好きになりました。

楽しくも悩ましい大切なギター選び、この記事が少しでもご参考になりましたら幸いです。

ギター部屋の管理人

野原 陽介プロフィール

学生の頃よりバンド活動、レコーディングなど様々な場所での演奏とヴィンテージギターショップ巡りに明け暮れる。
のちにギタークラフトを学び、島村楽器に入社。
入社後は米国Gibson社、Fender社への買い付けなどを担当。
甘いもの好き。

Gibson Customshop ストックリストへ
信州ギター祭り2025 主要ブランド制作ブログ公開中!
  • ブックマーク