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別室 野原のギター部屋 Vol.33 “セミ・アコースティック最上級モデルの魅力”

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別室 野原のギター部屋 Vol.33 “セミ・アコースティック最上級モデルの魅力”

記事中に掲載されている価格・税表記および仕様等は予告なく変更することがあります。

皆様こんにちは。この連載のプロフィール画像の影響からか、何となく「ES-335の人」としてイメージが定着しつつある管理人の野原です。

ストラトキャスターやレスポール、コリーナのフライングVなど様々なギターを満遍なく使用しているつもりですが、言われてみるとES-335を持ち出す頻度は高いかもしれません。どのような内容のセッションになるか分からない場合でも「とりあえずES-335を持って行けば困ることはない」ので。

そんなセミアコを既に所有している私ですが、今回ご紹介するギターが展示されているとつい足を止めて眺めてしまいます。「もうセミアコは十分でしょ。次は54のゴールドトップ辺りじゃないですか?」などと言われたりもしますが、やはりES-335とは別物なんです。

なぜこのギターに惹かれるのかは記事の最後に述べるとして、早速皆様にご紹介したいと思います。

Gibson Custom Shop PSL Murphy Lab 1959 ES-355 Ultra Light Aged

ES-355T(D-SV)はギブソンのセミ・アコースティック最上級のモデルで、ES-335が発売された1958年に10本のみ作られ、翌1959年から本格的に生産が開始されました(正式なリリースは1959年)。今回ご紹介するモデルは1959年のES-355を再現した1959 ES-355 Reissueをベースに、日本ディーラーによってオーダーされたカタログ外モデル(PSL/Pre Sold Limited)となります。

ウルトラライト・エイジド仕上げはケースで保管されていた状態の良いコンディションのヴィンテージを再現したもので、最小限に抑えたウェザーチェックと、やや曇りのあるハードウェアを組み合わせています。写真では確認するのが難しいですが、自然な表情のウェザーチェックが楽器全体を覆っています。

ヘッドストックにはスプリット・ダイヤモンド・インレイが入れられており、ヘッドの外周には積層バインディングが施されています。ゴールドのハードウェアも相まって、最上級モデルらしい豪華な見た目です。

このヘッドストックのデザインで皆様が一番見慣れているのがレスポール・カスタムではないでしょうか。レスポール・カスタムもレスポール・シリーズの最上級モデルですので、このデザイン=シリーズ高級機種と捉えても差し支えないと思います。

その他にも、後述のエボニー指板+ラージ・ブロック・ポジションマーカー、ヘッドとボディの積層バインディング、ゴールドのハードウェアなどが共通の仕様となっています。

参考までに、1960年当時のセミ・アコースティックの販売価格は以下の通りです。

ModelPrice
ES-355TD-SV(Stereo with Varitone)$600.00
ES-355TD(Monaural, No Varitone)$550.00
ES-345TD$365.00
ES-335TD$279.50

ES-355はES-335の約2倍の販売価格となっています。
当時の価格を見ると、近年のES-355の価格設定がとても親切に思えてきます。

チューニング・ペグは年代に準じてグローバー社の物を搭載しています。クルーソンに比べ重量があるため、やや押し出しが強く伸びのあるサウンドになる傾向です。エイジングの具合も絶妙で良い感じです。

指板はエボニーを使用しています。前述の通りレスポール・カスタムと同様にラージ・ブロック・ポジションマークが入れられています。カスタムオーダー品などを除けばES-335やES-345の1フレットにインレイは入りませんが、ES-355は1フレットにもインレイが入ります。

Murphy Lab Collectonにはヴィンテージギターの滑らかな握り心地を再現するロールドバインディングが採用されています。ネックを握り込んで演奏しても指板エッジが手に当たっている感じが少ないので、とても弾きやすいです。

指板サイドのポジションマークの上側が白っぽく見えると思いますが、この部分がロールドバインディング処理が行われている部分です。処理する工程でトップコートのラッカーが削られるため、セル・バインディングの地の色が露出します。

ネック・ディメンションは1964 ES-335(.825″/.965″)を採用したPSL仕様です。

ボディバインディングは7層の積層バインディングが採用されています。ES-335は1層、ES-345はボディ・トップ側のみ3層のバインディングが施されており、セミ・アコースティックにおいては高級機種になるほど層が多くなります。
※ES-335とES-345の比較につきましては、別室 野原のギター部屋 Vol.16 “1960-61年製のES-345TDSVと1964年製のES-335TD”をご覧ください。

ピックガードはべっ甲柄で5層のバインディングが施されています。L-5などの高級アーチ・トップにも同様の物が使用されているため、高級感がより一層増します。この様な細工の一つ一つに老舗メーカーのセンスを感じます。

通常の1959 ES-355リイシューですとABR-1ブリッジ横まで伸びたロング・ピックガードが標準仕様となりますが、こちらは1961年頃から採用されるショート・ピックガード仕様にアレンジされています。

1959 ES-355 Reissueにはカスタム・バッカーが搭載されていますが、こちらのPSLにはアンダーワウンド・カスタムバッカーが搭載されています。通常よりもコイルの巻き数を減らし、やや出力を抑えたデザインとなっているのが特徴です。

より煌びやかで明瞭なサウンドであるため、ニュアンスが出し易く感じます。

ブリッジはサドルの脱落防止ワイヤーが無いヒストリック・ノンワイヤーABR-1を搭載。オフィシャルのアナウンスこそありませんが、ABR-1をはじめとするパーツ類は幾度となくアップデートされており、数年前と比べてもとても良い形状になったと思います。

ES-335やES-345ではオプションの扱いだったビグスビーのヴィブラート・ユニットがES-355では出荷時の標準仕様になります。

1961年頃からスウィング・アウェイ・プル・サイドウェイ・アーム、1963年頃からはマエストロ・ヴァイブローラが装着されたものが出荷され始めますが、しばらくはビグスビー付きの出荷も続いていました。

コントロール・ノブは1959年当時に装着されていたトップ・ハット型。ノブ上面の形状、目盛りの色味など良い雰囲気です。

出荷時のトグル・スイッチ・チップは白いものが装着されていますが、1959年当時のスイッチクラフト社で使われていたカタリン素材のレプリカも付属します。

“f”ホールから見えますのはバンブルビー・キャパシターのレプリカになります。スペックシートにもPaper-in-Oil Capacitorsと記載されている通り、中身にも拘ったものが搭載されています。

前出の価格表にも記載した通り、当時ES-355には2モデルが用意されていました。一つはヴァリトーン・スイッチを搭載したステレオ・アウトプット仕様のES-355TD-SV、もう一つが今回のモデルと同じヴァリトーン・スイッチ非搭載、モノラル・アウトプット仕様のES-355TDです。

ヴァリトーン・スイッチはスイッチの基板にハンダづけされた個別の6種類のキャパシターを伴うノッチフィルターが装備されており、ポジション1はトゥルーバイパス、ポジション2-6は1,000pF、3,000pF、0.01μF、0.03μF、0.22μFのキャパシターが使用されています。

これにより多彩なサウンドが出せるのが特徴なのですが、ヴァリトーン・スイッチを通過する分電気信号のロスがあるため、今回ご紹介しているような非搭載のモデルを好まれる方もいらっしゃいます。

ES-335のような音痩せの少ないストレートなサウンドを狙うのであれば間違いなく今回の仕様がベストですが、ヴァリトーン・スイッチという「フィルター」を通したサウンドもまた雰囲気があって素敵です。

今回は日本ディーラーによってオーダーされたPSL Murphy Lab 1959 ES-355をご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか

オーティス・ラッシュやフレディ・キング、BBキングなどのレジェンド達が愛用していたES-355。商業的に成功した証として、より豪華なES-355を手にしたのではないかと想像してみたりもします。そのマインドや時代背景も含めてES-355にはロマンを感じます。

また、そんなES-355を肩から下げてパフォーマンスする現代のギタリストも好きで、オアシスやノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズのライブ映像を見た日には、必ずと言って良いほど国内外のES-355を隅々まで検索しています。相変わらずギター欲が止まりません。

今回ご紹介したES-355は先日ご成約となりましたが、比較的仕様の近いMurphy Lab ES-355が静岡パルコ店にございましたので、ご興味のある方は商品ページをご覧ください。それでは今回はこの辺で。

ギター部屋の管理人

野原 陽介プロフィール

学生の頃よりバンド活動、レコーディングなど様々な場所での演奏とヴィンテージギターショップ巡りに明け暮れる。
のちにギタークラフトを学び、島村楽器に入社。
入社後は米国Gibson社、Fender社への買い付けなどを担当。
甘いもの好き。

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