別室 野原のギター部屋Vol.18は、2017年6月22日に掲載した”管理人がオススメする絶妙なバランス”をお送りします。
予め決められた曲を演奏しに行く時は良いとして、問題は即興で演奏するようなセッションに行く時。できる限り荷物を少なくしたい私は汎用性の高いローズ指板のStratocasterかES-335のどちらか1本を持って行くことが多いのですが、たまに「FenderとGibsonの良いところを併せ持つギターがあったら手っ取り早くて良いのに」と考えたりもします。今回の別室 野原のギター部屋はそんな時に活躍するであろう素敵なギターのお話です。
KAMINARI GUITARS × HISTORY KH-CYGNET
一見してMaestro Lyre Vibrolaが搭載されたGibson Firebird V(Non-Reverse)の様なこちらのギター、KAMINARI GUITARSとHISTORY、シンガーソングライターのMayuさんがプロデュースしたKH-CYGNET(シグネット)というモデルになります。新しいデザインのギターですがとても雰囲気があります。
GibsonのFirebird(Non-Reverse)はネックとボディにマホガニーを用いたセットネック構造ですが、KH-CYGNETはメイプル材のネック(ローズ指板)とアルダー材のボディをボルトで繋ぐ構造を採用しています。Gibson系のデザインをFender系の木材、構造で仕上げたモデルといった感じでしょうか。
- 輪郭のはっきりしたクリアなサウンドが特徴のメイプル材
- 低音から高音までのバランスが良く抜けの良いサウンドが特徴のアルダー材
- 金属製のネックプレートとボルト(ネジ)を用いたジョイント
これらがシグネットの主なサウンドキャラクターを決定付けている点となりますので、頭の片隅に入れながら以降を読んで頂ければと思います。
Tailpiece
KAMINARI GUITARSのロゴが印象的なテールピース部。今回新たに開発されたものとなります。GibsonのMaestro Lyre Vibrolaもそうですが、ブリッジからボディエンドの間に大きな金属があると表情が引き締まって見えます。
弦を横から通して留めるタイプのテールピースですが、実はユニークな仕様となっています。
KAMINARI GUITARSのロゴが刻印されている”お洒落プレート”を取り外すと中からテールピース本体が現れます。
削り出しで作られているこちらのテールピース、材質はアルミニウムとなっています。アルミのテールピースは亜鉛ダイカスト(ダイキャスト)製のものに比べて高音域側の鳴りが良いと言われています。
ボディトップの落とし込みに径の大きなビスで取り付けられています。質量の軽い(=振動し易い)テールピースをボディにしっかりと接地させ固定することで弦振動を余すことなく伝え、またボディ本体の振動も弦に伝えます。こうして十分に干渉し合った弦振動がピックアップを発電させ、最終的にコシのあるシグネット特有のサウンドを生みます。
Bridge
Tune-O-MaticスタイルのブリッジはGOTOH製で、Gibson ABR-1に近い形のものが採用されています。Nashville Tune-O-Maticスタイルよりも細身のこちらのブリッジ、各サドルがしっかりと組み込まれているため弦が切れてもサドルが脱落する心配がございません。
ブリッジの支柱もABR-1と同様にネジがそのままボディトップに差し込まれています。モダンなタイプのTune-O-Maticになりますと支柱の受けになる金属製のアンカーがボディトップに埋め込まれるため、ブリッジを介した弦振動の伝わり方、またボディ本体からの振動の伝わり方が変わります。前述のテールピースでしっかりとサウンドにコシを持たせつつブリッジは振動させる。シグネットのモダン過ぎないサウンドを作り出すポイントの一つになっているのではないでしょうか。
Pickup
ピックアップはDiMarzio Vintage Minibucker(フロント:DP240 6.11kΩ/ リア:DP241 8.25kΩ)を搭載しています。DiMarzio公式HPにある「曇りがなく明瞭な音色」という言葉通り高音域が綺麗に響きます。低音域に関しましても、弦振動が大きいネック側とタイトなブリッジ側で上手くピックアップの直流抵抗値を選んでいるため、どのポジションでも最適な量が出ているように感じます。最適な量の低音=「弾き手のピッキングニュアンスを邪魔しない」「華奢に感じさせない」と言ったところでしょうか。
こちらのピックアップにはセラミック・マグネットが使われていますので、もう少しヴィンテージ寄りのサウンドにしたい方はアルニコ・マグネットのミニハムに乗せ換えても面白いと思います。
Control
コントロールは1Vol+1Tone+3way SW(ピックアップセレクタースイッチ)となっています。コントロールノブはSombrero(ソンブレロ)タイプ、3wayのトグルスイッチはGibson等に見られるものより一回り小さいものを搭載しています。コントロール類が近い場所にレイアウトされているので操作がし易いです。Sombreroタイプのノブは同色のTop Hat Knob(メタルキャップ)に交換しても似合いそうですね。
neck joint
ヒール部はご覧の通り1弦側が滑らかにカットされています。月並みですがハイフレットでの演奏性も良好です。
Headstock
段差のあるオリジナルデザインのヘッドストック。2色で色分けしているところがお洒落です。また色の境目も丁寧に塗り分けされており高級感があります。1弦ペグの横の突起は予期せぬアクシデントからペグを保護し、反対側(ギターを構えて下側)の段差部分はクリップチューナーが取り付け易いようにとデザインされているそうです。
Machine Head
KLUSONタイプのGOTOH製ペグが装着されています。金属製のペグボタン(Tuner Tips)ではなく、より軽量なプラスティック製のペグボタンを搭載しているのが素敵です。ペグの質量(重さ)による音色の変化については前回の記事でも少し触れましたが、軽量なペグを取り付けることでヘッドがより振動し音に影響を与えます。
Review
「FenderとGibsonの良いところを併せ持つギターは」と聞かれた時、皆様はどんなギターを思い浮かべますでしょうか。
ハムバッカーを搭載したストラト、JBスタイルの”Tele-Gib”、メイプルネックのPaul Reed Smithなど様々なモデルが例に挙げられそうですが、それらのどれにも似ていないバランスで仕上げられているのが今回ご紹介したKAMINARI GUITARS × HISTORY KH-CYGNETで、私がこのモデルにハマっている理由でもあります。「Fender系に寄り過ぎず、Gibson系にも寄り過ぎない」絶妙なバランスです。
コードストロークからカッティング、アルペジオや伸びのあるソロ演奏などあらゆる演奏スタイルで使える艶のある音抜けの良いサウンドを、皆様もお試しになってみて下さい。
それでは今回はこの辺で。