バイヤー古川の銘器探訪 Vol.7 “広島県・似島発、モダンで研ぎ澄まされたルシアー MUKAE GUITARS”

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バイヤー古川の銘器探訪 Vol.7 “広島県・似島発、モダンで研ぎ澄まされたルシアー MUKAE GUITARS”

記事中に掲載されている価格・税表記および仕様等は予告なく変更することがあります。

ギタセレをご覧のみなさま、こんにちは。
島村楽器でアコースティックギターのバイヤーを務めております、古川(ふるかわ)です。

この連載「銘器探訪」では、
単にスペックや価格をご紹介するのではなく、「誰が」「どんな考え方で」ギターを作っているのかという背景まで含めてお届けしたいと考えています。

今回足を運んだのは、広島湾に浮かぶ小さな島、似島(にのしま)

フェリーを降りて静かな港を抜け、坂道を少し上がった先に、
若きルシアー 向江 良太(むかえ りょうた)さん が主宰する工房 MUKAE GUITARS があります。

工房の扉を開けると、まず感じるのは「静けさ」と「整った空気」です。

作業台には必要な道具だけがあり、途中段階のギターが数本、淡々と佇んでいる。
装飾は控えめで、線の美しさとプロポーションが際立つギターたちです。

向江さんのギターは、一見とてもシンプルです。しかしそれは、単なる引き算ではなく、

音と構造に関係の薄いものを徹底的にそぎ落とし、残すべき要素を研ぎ澄ませた結果としてのシンプルさ

だと感じました。

高校時代にギター製作の道を志し、19歳で単身カナダへ。

マスタールシアー Sergei de Jonge(サーゲー・ディ・ヤング)氏 のもとで学んだ経験を土台にしながら、現在は似島の工房で、一年に6〜7本というペースで、自分なりの答えを探し続けています。

今回は実際に工房を訪問し、環境・プロフィール・設計思想・サウンドの狙いについて、じっくりお話をうかがいました。

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プロフィール:ルシアー 向江 良太(MUKAE GUITARS)

向江さん公式サイトはこちら

向江 良太(むかえ りょうた)
1992年 広島県生まれ。
父親の所有していたギターに触れたことをきっかけに、早くからギターに親しむ。

高校時代には「弾く」だけでなく「作る」ことへの興味が強くなり、進路としてギター製作を選ぶ。

高校卒業後、日本のギター製作専門学校にて一年間、木工や基本工程を学ぶ。

その後、カナダのマスタールシアーSergei de Jonge(サーゲー・ディ・ヤング) に弟子入り。約1年半のカナダ滞在のなかで、ギター製作における哲学・設計・技術を徹底的に学ぶ。

帰国後は2015年、広島県・似島に工房MUKAE GUITARS を設立。

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インタビュー:古川 × 向江 良太(前半)

高校生の頃に芽生えた、「弾く」から「作る」へのスイッチ

古川

「まず一番最初のところから伺いたいんですが……。
向江さんが“ギターを作る人になろう”と思ったのは、いつ頃だったんですか?」

向江氏

「きっかけは高校生の頃です。
大学や専門学校が集まる合同説明会に行ったときに、たまたま ESP さんが出展していて、そこで初めて『ギタークラフトの学校がある』と知りました。

その頃にはすでにギターを弾いていて、とにかくギターが好きだったので、“弾く”だけじゃなくて“作る”という道があると知って、すごく惹かれましたね。」

古川

「そこから、進路はもうギタークラフト一択に?」

向江氏

「はい。日本のギター製作専門学校に一年通いました。基礎的な技術や工具の扱い方はそこで学べたんですが、
正直『これで独立は無理だな』という感覚が強くて。

この世界は資格があるわけじゃないので、“どこで、誰から学んだか”が一つの信用になると思ったんです。

美容師さんのように、ちゃんと師匠について修業をしないとダメだろうなと。」

19歳、英語ほぼゼロでカナダへ。サーゲー・ディ・ヤングへのメール一本

古川

「そこで、いきなりカナダ行きを選ぶのがすごいですよね。」

向江氏

「今考えると、けっこう無謀ですよね(笑)。いろいろ調べていく中で、カナダのルシアー サーゲー・ディ・ヤング さんの記事を雑誌で見つけたんです。

ギターの雰囲気もとても良くて、日本にも入ってきていたので実物も見られた。『この人のもとで学べたらいいな』と思って、辞書を片手に英語でメールを書きました。」

古川

「内容としては、弟子入り志願のメールですよね。」

向江氏

「そうです。『日本でギター製作の学校に通っていて、将来ルシアーとして独立したい。そのために弟子入りさせてほしい』という内容を、かなり拙い英語で送りました。

当時はほとんど英語が話せませんでしたが、それでも『今動かないと、一生動けないかもしれない』という気持ちの方が勝ちましたね。」

古川

「返事はどうでしたか?」

向江氏

「ありがたいことに、ちゃんと返事をいただけました。ただ、いきなり弟子というわけにはいかなくて、『まずは 5週間で1本作るコース を受けてほしい』と言われました。

カナダは観光ビザでも半年滞在できますし、ワーホリも使える。19歳の自分でも現実的に動ける環境だったこともあって、“怖さ”より『今行くべきなんだろうな』という感覚が強かったです。」

試用期間の一本から、本格的な修業へ

古川

「その5週間コースは、どんな経験でしたか?」

向江氏

「一から十まで、一本のギターを完成させる工程をすべて教えてもらえるんですが、期間が限られているので、本来もっと時間をかけるべきフレンチポリッシュ の工程などは、どうしても駆け足になってしまう部分もありました。

コースが終わる頃に改めて『弟子として学ばせてほしい』とお願いしたところ、『いいよ』と言ってもらえて、そこから本格的な修業が始まりました。」

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フレンチポリッシュが教えてくれた、「塗装も音そのもの」という感覚

古川

「サーゲーさんの工房といえば、フレンチポリッシュのイメージが強いですが、そのあたりはいかがでしたか?」

向江氏

「そうですね。基本的に、すべてフレンチポリッシュでした。ごくまれなケースでラッカーを使うこともありましたが、本当に例外的です。

弟子入り後は、特に塗装周りを任せてもらうことが多くて、フレンチポリッシュの工程はかなりみっちり経験できました。」

古川

「フレンチポリッシュの魅力を、一言で言うと?」

向江氏

「やっぱり “伝達の良さ” だと思います。塗膜を極端に薄くできるので、トップの振動を邪魔しにくい。

最近は、ラッカーでも非常に薄く吹く製作家さんがいらっしゃって、0.06mmくらいの塗膜厚という話も聞きますが、フレンチポリッシュだとそれよりさらに薄い、0.02〜0.03mmくらいの世界になります。

数字だけ見ると誤差のようですが、実際に弾いてみると、反応の仕方や抜け方が確かに違うと感じますね。」

古川

「一方で、柔らかくて傷も付きやすい、という面もありますよね。」

向江氏

「そうですね。汗に反応しやすい体質の方だと痕が残りやすかったり、デメリットもあります。

それでも選び続けているのは、
“木の質感や表情がそのまま見える” というところが大きいです。

トップ一面で20分、サイド片面で20分、バックで20分、ネックも……と、
一セットだけで80分以上かかる作業を、何度も何度も重ねていきます。

効率だけを考えればまったく合理的ではないですが、音と手触りを含めた“最終的な体験”として、いまの自分にはこの方法がしっくり来ています。」

古川

「カナダにはトータルでどれくらい滞在されたんですか?」

向江氏

「トータルで 一年半くらい です。
最初は観光ビザで半年滞在して、一度日本に戻り、免許を取ったりお金を貯めたりしながらワーホリを申請して、
再び一年カナダに滞在しました。」

古川

「帰国後、すぐに独立というわけではなかったんですよね。」

向江氏

「はい。2014年ごろに帰国して、その夏から準備を始め、2015年の秋に開業届を出して MUKAE GUITARS をスタートしました。」

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似島の小さな工房と、「一本一本の違い」を生み出す道具たち

機材紹介:MUKAE GUITARSを支える道具と設備

ここで少し、向江さんの工房と、日々使っている道具のお話を挟ませてください。

似島の工房は、いわゆる“大工場”とはまったく違う、コンパクトで静かなスペースです。

大掛かりなNCルーターや量産ラインはなく、
必要最低限の電動工具と、多くの手工具・治具が整然と並んでいます。

印象的だったのは、どの道具も「出しっぱなし」ではなく、

  • すぐ手が届く位置にあるものは、今まさに使っているもの
  • 棚やラックに戻されているものは、次に出番を待っているもの
    という具合に、役割ごとにきちんと居場所が決まっていることでした。

この記事では、そのうちいくつかを写真でご紹介しながら、
「どんな場面で、どんな意図で使われているのか」を簡単に触れていきたいと思います。

卓上ボール盤
主に木材や金属に垂直で正確な穴を開けるための電動工具です。

アコースティックギター製作においては、ブリッジピンペグ(糸巻き)の取り付け穴、エンドピンジャック用の穴あけなど、高精度が求められる作業に活用されます。

テーブルソー
円形のノコ刃で主に木材を直線切断するための電動工具です。

アコースティックギター製作では、ボディの表板・裏板のブックマッチ(左右対称に剥ぎ合わせる)のための精密な切断や、その他の部材の正確な製材・切り出しに不可欠な機械です。 

バンドソー
主に厚い木材や複雑な曲線切断に使用される電動工具です。

アコースティックギター製作においては、ボディやネックの外形、内部の力木(ちからぎ)などの曲線部分の切り出しに活用されます。

ベルトサンダー
帯状のサンドペーパーを高速回転させて研磨・研削する電動工具です。

アコースティックギター製作では、ボディやネックの外形の成形、力木(ちからぎ)などの曲線・平面の削り出し、各パーツの面取りバリ取りなどの仕上げ作業に活用されます。

ルーター(またはトリマー
自作した治具(ジグ)と組み合わせ、万力でしっかり固定した状態で使用します。

主に木材の面取りや溝切りなどの加工に用いられます。 

アコースティックギター製作においては、この治具と組み合わせてバインディング(ボディ外周の縁飾り)用の溝を掘ったり、複雑なパーツの型抜き座ぐり加工、トラスロッドを埋め込むための溝掘りなどに活用されます。 

希少な木材のストック
数年から数十年シーズニング(自然乾燥)されたギター製作用の木材です。

主に、アコースティックギターの表板(トップ材)や裏板・側板(サイド・バック材)として使用される銘木です。 

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それではインタビューの続きをどうぞ!

インタビュー:古川 × 向江 良太(後半)

似島の工房で、一年に6〜7本。時間を「設計」に使うスタイル

古川

「今は、一年にどれくらいの本数を作っているのでしょう?」

向江氏

「年間で 6〜7本 くらいです。
自分でも『少ないな』と思うくらいなんですが、同時進行は2本、多くて3本までにしていて、設計の検討に時間を使ってしまうタイプなので、今はこのくらいのペースが限界ですね。」

古川

「一日のリズムも、かなり特徴的ですよね。」

向江氏

「工房は似島にあって、自宅は本土側なので、毎日船で通っています。
始発の船に乗って、だいたい 朝7時ごろには工房に到着するようにしています。

早い日は夕方5時の船で帰りますが、遅くなると最終の8時の船。
基本は週5日ですが、状況によっては一週間通しで作業することもあります。」

「箱作り」がすべての始まり。トップ厚とブレーシングの設計思想

古川

「ギターづくりの中で、“ここが一番の肝だ”と考えている工程はどこですか?」

向江氏

「やっぱり“箱作り”ですね。
トップとバック、それからボディ全体の作り方が、音に一番大きく影響すると思っています。

一本一本、トップ材の硬さやクセに合わせて、トップの厚み、ブレーシングの位置・高さを微妙に変えていて、
その設計を考える時間が、とにかく長いです。」

古川

「図面を前にして悩んでいる時間も長い?」

向江氏

「はい。『作業している時間』と同じくらい、『考えている時間』があります。

『このスプルースは硬いから、もう少し薄くしてレスポンスを上げよう』とか、
『トップを厚くするなら、その分ブレーシングを何ミリ下げよう』とか。

一回ごとの変化はすごく小さいんですけど、その小さな差を積み重ねていくことで、自分の中の“正解”を少しずつ更新していきたい、という感覚があります。」

あえてトップを厚く。厚めトップ × 低めブレーシングという選択

古川

「ここ数年、“トップをあえて厚くする”というテーマがあると伺いました。」

向江氏

「はい。この5年くらいは、『トップをどこまで厚くしていけるか』をずっと試しています。

サーゲーさんのところでは、スプルーストップは2.8mm前後が基準でした。

そこを起点にしながら、『もっと厚くしても成り立つのか』を少しずつ探っていって、厚いものだと3.5mmくらいまでトライしています。」

古川

「薄い方がレスポンスは良さそう、というイメージがありますが、厚くするメリットは?」

向江氏

「トップを厚くすると、一音一音の芯が太くなって、一本の中で1弦から6弦まで“均一にしっかり鳴る”感覚があります。そこがすごく好きなポイントです。

一方で、どうしてもレスポンスがわずかにゆったりします。

ほかの“厚いトップ”のギターを弾かせてもらっても、『すごく良いけれど、わずかに遅いな』と感じることがあって、そこで、ブレーシングの調整でなんとか補正できるのではないか、と考えるようになりました。」

古川

「そこで、ブレーシングを調整していくわけですね。」

向江氏

「はい。トップを厚くする代わりに、ブレーシングの高さを下げる方向でバランスを取っています。

“薄いトップ × 高いブレーシング”だと、トップ全体を見たときに剛性のばらつきが大きくて、『このエリアだけ極端に強い/このエリアだけ弱い』という差が出やすいように感じています。

厚めのトップに低めのブレーシングを合わせることで、トップ全体をできるだけフラットな剛性バランスにして、“面”として均一に働かせたい、というイメージです。」

古川

「トップの厚み自体も、今は均一ではないですよね。」

向江氏

「はい。初期はほぼ均一でしたが、それだと細かいコントロールに限界があって。

最近は、ブリッジ周辺をわずかに厚め、外周側を薄めにしたグラデーションをつけています。厚みのメリットを残しながら、レスポンスも少し改善したい、という狙いです。

速いレスポンスを一番に求めるフィンガーピッカーの方にとっては、僕の“厚いトップ”のギターは合わないかもしれませんが、ゆったりとした曲で、奥行きや余韻を大事にしたい方には、この“少しタメのある鳴り方”を気に入っていただけることが多いですね。」

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ブリッジプレートを「前へ」。トップを長期的に守る設計

古川

「構造面で、トップ厚以外に大きく変えたところはありますか?」

向江氏

「ブリッジプレートの大きさと位置ですね。

多くのギターでは、ブリッジの前後に少し出るくらいのプレートが多いですが、僕はブリッジの前側を大きく伸ばして、Xブレースの交点付近までブリッジプレートを広げるようにしています。

材には、日本産のカエデを使っています。硬くて安定した材を選んでいますね。」

古川

「トップの前傾を抑えるイメージでしょうか?」

向江氏

「そうです。海外のルシアーの方で、“厚めトップ × 低めブレース”という設計をされている方がいて、そのギターを弦を張った状態で横から見たときに、ブリッジ周りがほとんど前に倒れていなかったんです。

一般的なギターだと、弦を張るとブリッジが少し前に傾いて、サウンドホール後ろが盛り上がることが多いですが、長期的な形状変化をできるだけ抑えたいという考えから、“前方に大きく張り出したブリッジプレート”という発想になりました。」

古川

「実際の効果はどう感じていますか?」

向江氏

「かなり違います。出荷前にしばらく弦を張りっぱなしにして状態を観察しているんですが、この仕様にしてからは、トップ形状の変化が本当に少なくなりました。

前に倒れる力をプレート全体で受け止めることで、サウンドホール後ろ側も引っ張られにくくなって、シーソーのように動かないイメージですね。

“今いい音が出ること”と同じくらい、
“10年後、20年後も安心して弾けること”を大事にしたいので、トップを守るという意味でも大きな意味があると思っています。」

ネックと内部仕上げに込めた、「鳴り」と「安心感」のバランス

古川

「ネック周りはどのように考えていますか?」

向江氏

「ネックはすべてハンドシェイプで削っています。テンプレートをあてつつ、実際に握りながら感触を確かめて、少しずつ詰めていくやり方です。

この十年の中でも、自分の好みは少しずつ変化していて、最初はショルダーをかなり落とした、やや細身のシェイプでしたが、今はショルダーに少し肉を残し、全体にやや厚めのシェイプに落ち着いています。」

古川

「それは、音も含めた設計なんでしょうか?」

向江氏

「そうですね。ネックの厚みは、音にも影響する要素だと思っています。

薄いネックは軽快で速い反応が得やすい一方で、音も構造も少し“怖さ”を感じる部分があります。

僕は、“トラスロッドを頻繁に触らなくてもいいネック”を理想としていて、
少し厚めにすることで、音の落ち着きと構造的な安心感を両立させたいと考えています。」

古川

「内部の仕上げも、特徴的ですよね。」

向江氏

「はい。バックの内側を、あえて荒い番手で仕上げるというところですね。
これはサーゲーさんのやり方がベースにあります。

外側は塗装前にとても細かい番手でツルツルにしますが、内側まで同じようにすると、音が“キンキン”に反響しすぎることがあります。

そこで、#80〜#120程度のサンダー跡をうっすら残すようにしていて、
光に当てると円形の跡が見えるくらいの仕上げにしています。」

古川

「それで音のキャラクターはどう変わりますか?」

向江氏

「少しざらついた面にすることで、生鳴り感や肉厚なサスティンが出てくると感じています。

ローズ系の材であればそのままでも良いですが、マホガニーやサペリのような柔らかい材だと、そのままだと音を吸いすぎることもあるので、少し番手を上げて微調整することもあります。

材ごとの性格を、内部仕上げでほんの少しチューニングしてあげるイメージですね。」

今後のギター製作について

古川

「今後のビジョンとして、『こうしていきたい』というイメージはありますか?」

向江氏

「一番の課題は、本数をもう少しだけ増やしたいというところです。
ただ、本数を増やすために、同じ仕様のものを量産する形にはしたくないですね。

一本一本、階段を一段ずつ上るようなイメージで、“前作より少しでも良く”という気持ちで作っていきたいです。」

古川

「トップ厚やブレーシング、ブリッジプレートの仕様など、毎回少しずつ変えているわけですもんね。」

向江氏

「そうですね。変化量は本当に少しですが、その積み重ねで、自分の中の“正解”が少しずつ更新されていく感覚があります。

初期の頃に作った自分のギターと、今のギターを比べると、同じ人間が作っていても、音はまったく違うと思います。」

古川

「一方で、お客さま側からすると、『あの音が好きで頼んだのに、全然違ったらどうしよう』という不安もありますよね。」

向江氏

「そこは本当に怖いところです。
今のギターを気に入ってオーダーしてくださっているのに、出来上がった一本が『悪くはないけれど、ちょっと違う』と感じられてしまったら、本当に申し訳ない。

なので、大きく変えているつもりでも、一本一本の間では“連続性”を意識して設計しています。

やりたいことは大胆でも、変わり方は段階的に。そんなイメージです。」

古川

「最後に、向江さんのギターに興味を持ってくださっている方に、一言お願いします。」

向江氏

「ギターの好みは、本当に人それぞれだと思います。速いレスポンスを求める方もいれば、ゆったりした奥行きを大事にする方もいる。

僕のギターは、『こういう音しか出ない』という一本化されたものではなくて、『こういう表情も出せるし、別の表情も出せる』という広がりを持たせたいと思っています。

そのうえで、根っこの部分には一本の芯を通したい。

たくさんあるギターの中から、
『自分の音楽人生をこの一本と歩みたい』と思っていただけるようなギターを、一本一本、真剣に作っていきます。

もしどこかで MUKAE GUITARS に触れる機会があったら、ぜひ時間をかけて、いろいろな弾き方で試してみていただけたら嬉しいです。」

古川

「今日は、ギターの内部構造から人生の話まで、たくさんお話いただきありがとうございました。

一本一本、ここまで考えながら作っていること、そしてそれでも『まだもっと良くしたい』と考え続けている姿勢が、とても印象的でした。

完成してくる MUKAE GUITARS を、僕自身もこれから楽しみにしています。」

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向江ギターの入荷について

現在、MUKAE GUITARS(向江良太さん製作)のギターは、入荷に向けて準備を進めている段階です。

実物が入荷しましたら、本連載『銘器探訪』のページにて、1本ずつ丁寧にご紹介してまいります。

向江さんのギターにご興味をお持ちいただいている皆さまには、お待たせして恐縮ですが、続報を楽しみにしていただければ幸いです。

ルシアーズセレクションについて

島村楽器では、国内外のルシアーが手がけるワンオフ作品・少数製作モデルを集めた企画として、「ルシアーズセレクション(Luthier’s Selection)」を展開しています。

MUKAE GUITARS も、このラインナップを語るうえで欠かせないブランドのひとつです。

ルシアーズセレクション 展開店舗(初期拠点)

※店舗ごとに展示モデル・在庫状況は異なります。

最新情報や試奏のご希望につきましては、ギタセレの商品ページ、または各店までお問い合わせください。

ルシアーズセレクションでは、
カタログモデルでは出会えない一本とじっくり向き合っていただけるよう、落ち着いて座って試奏できる環境づくりにも取り組んでいます。

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最後のまとめ

(工房の庭から見える景色)

工房から港まで送っていただく道すがら、観光地というより「暮らしの延長」にある静かな景色が続いていました。

その穏やかな環境の中で、向江さんは、装飾や本数、効率だけにとらわれるのではなく、
「音と構造にとって意味のある要素を一つひとつ見極めて、丁寧に積み上げていく」
というスタンスでギターに向き合っているように感じました。

トップ厚・ブレーシング・ブリッジプレート・内部仕上げ・ネックプロファイル。どれも一つひとつを見れば小さな違いかもしれません。

けれど、その小さな違いを積み重ねた結果として生まれているのは、

シンプルでありながら、現代的に整理されたモダンなアコースティックサウンド

だと感じました。

工業製品のような均一さではなく、一本ごとの微妙な表情の違いを楽しみながら、
“自分の音楽人生を託せる一本”を探している方にこそ、MUKAE GUITARS は強くおすすめしたいブランドです。

もし店頭やイベントで MUKAE GUITARS を見かけたら、ぜひ時間に余裕を持って、
フィンガー、ストローク、アルペジオ……と、いろいろな弾き方で試してみてください。

最初の数分では伝わりきらない、
“あとから効いてくるタイプの良さ”が、きっと感じられるはずです。

気になる点や「こんな場面で使いたい」といったイメージがあれば、どうぞ遠慮なくスタッフにご相談ください。

みなさまの理想のサウンドに近づける一本を、一緒に探していければと思っています。

この「銘器探訪」が、
みなさまと MUKAE GUITARS との出会いのきっかけになれば嬉しく思います。
では、次回もどうぞお楽しみに。

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銘器探訪の管理人

古川 惠亮プロフィール

京都府出身。大阪での歌い手としての活動を経て、「音楽の楽しさを届ける側になりたい」との思いから、2004年に島村楽器へ入社。
ギターへの深い愛情と幅広い知識を武器に、アコースティックギターの販売で10年連続トップセールスを達成。

現在はバイヤーとして、米国のMartin社での買い付けをはじめ、Furch、K.Yairi、Takamineなどのブランド、ならびに国内外のルシアーと共に、数々のカスタムモデルの企画・仕様策定・デザインを手がける。

プライベートでは3児の父として、家族との時間を大切にしている。
目下の悩みは、子どもとのゲーム対戦でなかなか勝てないこと。

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