ギタセレをご覧の皆様こんにちは!
島村楽器でアコースティックギターのバイヤーを務めております古川(ふるかわ)です。
本連載 「バイヤー古川の銘器探訪」 第3回となる今回は、前回 K.Yairiが生まれるまで でご紹介した工程の舞台である、岐阜県可児市のK.Yairiカスタムショップを実際に訪問してきました!
今回は特別にルシアー(製作家)小池健司さん、丹羽雪男さん、伊藤隆司さんの3名にお話を伺うという、貴重な機会をいただきました。
職人の皆様の熱い想い、そしてギターに込められた哲学に、心の底から震えた一日。その感動と興奮を、余すことなく皆様にお届けします!
ルシアーへのインタビュー開始
登場する3名のルシアー紹介
小池 健司(こいけ けんじ)さん

1960年代よりK.Yairiに在籍。木工仕上げからキャリアをスタートし、現在はカスタムショップの中心的存在として多彩なオーダーモデルを手掛ける。
和紙や天然素材を用いた独創的な装飾デザインなど、常に新しい表現を追求し続けるベテランルシアー。
丹羽 雪男(にわ ゆきお)さん

木材選定のスペシャリストとして知られ、カスタムオーダーを支える要。
一本一本の木材の特性を見極め、最適な響きを生み出すブレーシング設計と仕上げを得意とする。K.Yairiの音作りの根幹を支える存在。
伊藤 隆司(いとう たかし)さん

エレキギター製作を学んだ後、アコースティックの魅力に惹かれK.Yairiへ。柔軟な発想と確かな技術で、新しいサウンドとデザインを探求する気鋭のルシアー。
スタイリッシュな造形センスには国内外のファンも多い。
3名のルシアーについて詳しくはこちらからもご確認いただけます。
※K.Yairiカスタムショップのルシアーは、本来 小池健司氏・丹羽雪男氏・伊藤隆司氏・道前暁伸氏 の4名体制で製作にあたっています。本記事では取材の都合上、3名のみのインタビューとなっていますが、道前氏もカスタムショップを支える重要なルシアーのお一人です。
テーマ1:ギター職人への道、そのきっかけは?

まず、皆様がこの道に入られた、それぞれのきっかけを教えていただけますか?

きっかけですか。そうですね…気づいたらなっていた、という感じかな。
私の時代は、今の若い人のように「ギターが好きで、ギター製作の学校に入って職人になる」という流れとは少し違いました。
私はまず、木工に携わるところから始まりました。高校を卒業してすぐ就職するのではなく、「1年くらいどこかへ修行に行こう」と考え、木工の訓練所、今でいう専門学校のようなところで家具作りを習ったんです。

その学校の先輩方が先にヤイリギターで働いていましてね。「先輩がいるなら良い会社だろう」という、ある意味単純な理由で入社を決めました。
そうしたら、そこがギター工房だった、というわけです(笑)。まあ、同じ木工の世界ですから、すぐに馴染みましたよ。

僕は対照的かもしれません。中学生の頃からギターを弾くのが大好きで、漠然と将来はギターに関わる仕事がしたいと思っていました。
当時はエレキギターばかり弾いていたので、ESPの専門学校でエレキギターの製作を2年間学びました。卒業後、しばらくは少し寄り道もしたのですが(笑)、やはりギター作りの道に進みたいと考えた時、たまたま自宅の近くにヤイリギターの工房があることを知ったんです。
アコースティックギターの知識は全くと言っていいほどありませんでしたが、思い切って電話をしたら幸運にも採用していただけました。今ではすっかりアコギの魅力に夢中で、エレキを弾くことはほとんどなくなりましたね。
テーマ2:職人の世界の厳しさと、それを乗り越える「好き」の力

職人の世界は厳しいイメージがありますが、入社当時はどうでしたか?キャリア20年近くなる伊藤さんはいかがでしたか?

正直に言って、めちゃくちゃ厳しかったですね(笑)。「なんでこんなに遅くまで仕事をしているんだろう」と、最初の頃は驚きました。
でも、ギターを作ること自体が心から楽しかったので、不思議と嫌ではなかったんです。「ここでへこたれるのは嫌だな」という気持ちもあって。
慣れてくると、自分の任された仕事を少しでも早く終わらせて、空いた時間で他の工程を手伝わせてもらったり、先輩の技術を盗んだり、新しいことを試したり...
やりたいことが次々と自分の中から湧き出てきて、それに夢中になっているうちに、周りの厳しさは全く気にならなくなりました。

ヤイリギターでは、まず分業制からキャリアをスタートされると伺いました。
小池さんええ、基本は分業です。もう20年近くになりますかね。

分業の制度についてお伺いしたいのですが、例えば「ネック職人」を何年か続けた後、別の部署に移るようなジョブチェンジはあったのでしょうか?

職場チェンジはありましたね。職場チェンジをせずに、入社してから定年までずっと同じ工程を担当し続ける人も中にはいましたし、一人で一本をまるごと作れるようになるかは、結局「本人次第」。
学びたいという強い意欲があれば、時間はかかりますが、必ず道は開けます。

テーマ3:一本のギターが生まれるまで。製作の裏側

皆様のようなルシアーは、年間で大体何本くらいのギターを製作されるのでしょうか?

年間で言うと、だいたい12本くらいですね。ただ、一本ずつ完成させていくわけではありません。私は常に4本ほどのギターを同時進行で進めています。
あるギターの接着剤が固まるのを待つ間に、別のギターの削り出し作業を進める、といった具合です。そうしないと、年間12本というペースは維持できません。

お客様からのオーダーで、特に「これは手がかかるな」と感じるのはどのようなご要望ですか?

うーん、作業そのものよりも、「考える時間」の方が重要ですね。特に、何度かオーダーをいただいているお客様だと、その方のイメージや物語があるわけです。
その漠然としたイメージだけをいただき「あとは良い感じにしてください」と(笑)。
その方の想いを汲み取り、木材選びからインレイのデザイン、飾りの色合いまで、全てをゼロから考えて形にしていく。これが最も難しく、同時にやりがいのある仕事ですね。
テーマ4:音の哲学と木材との対話

ギターの「音の要」はどこにあるとお考えですか?

全て重要だね。サイド&バックに硬い材料を使えば音は高くなるし、柔らかい材料を使えばまた変わってきます。密度がぎゅっと詰まっている木ほど、比較的硬い傾向にありますしね。
全体を見て最適なバランス、理想の音色を追い求めて1本のギターに仕上げていく感じかな。

よく「トップ材とブレーシングが音のほとんどを決める」と言われますが、僕の感覚ではそれは全体の半分くらいですね。
サイド&バック材の硬さや密度、ネックの剛性、塗装の厚み、ブリッジの形状...ギターを構成する全ての要素が複雑に絡み合って、一本のギターの音が作られます。「要はここだ」と一つだけ挙げることはできません。全てが要なんです。

丹羽さんは「木材のスペシャリスト」と言われていますが、木材選定で一番大事にしていることや、見極めのポイントはどこでしょうか?

木材を選ぶ際は、まず第一に「見た目」を重視します。お客様が一目見て「良いな」と思えることが大切ですから。
その上で、材を触って「腰」があるかなど、音響特性を確かめていきます。昔は欠点とされていたベアクローのような杢も、今では個性として受け入れられるようになりましたね。

近年、木材の価格が非常に高騰している印象ですが、伊藤さんは買い付けに行かれる中で何か変化を感じますか?

痛感しています。昔と比べると、当然良いものは減っています。昔ならグレードがBやCだったものが、今ではAランクとして、当時のAランクよりも高い値段で売られている、という状況です。
だからこそ、我々の考え方も変わってきています。質の悪い伝統的な木材を無理に使うよりも、質の良い和材など、これまであまり使われてこなかった木材を積極的に活用する流れが生まれています。
結局は、その材料をどう活かすか、ですね。例えば柔らかい材料だったら、ブレイシングを少し硬めにしてあげるとか。作り手がその材料を上手に活かせる作り方をしてあげれば、どんな材料でも良い音は出せると思います。

私なんかは、同じスプルース材でも、その時に選んだ材の硬さなどに合わせて、ブレイシングの貼り方や削り方を毎回変えています。
毎度毎度、貴重な材料を使わせてもらうわけですから、それが結果として良いものになるように、と考えて作っています。
テーマ5:職人それぞれの個性とインスピレーションの源

皆様の作品には、それぞれの個性が強く表れているように感じます。デザインなどのインスピレーションはどこから得ているのですか?

本や雑誌など、色々なものからヒントを得ますね。最近では和紙を装飾に使ってみたりと、「まだ誰も使ったことがない素材を、どうすればギターに活かせるか」ということを常に考えています。

僕はギター以外の工芸品からも刺激を受けます。例えば、ナイフの柄などに使われる「スタビライズドウッド」を見た時に、「これはギターにも使えるんじゃないか」と考えたり。
常にアンテナを張っていて、寝る直前まで頭の中でデザインを考えていることもありますね。

テーマ6:終わりなき探求、そしてギターを愛する人々へ

最後に、これから皆様のギターを手に取ってくださるお客様へ一言お願いします。

60年間ギターを作り続けていますが、いまだに100%満足のいくものは作れていません。答えが出ないんです。でもそのギターを大切に使っていただけるお客様には常々ありがたいなと思っております。

求めてくださる方がいることは職人冥利に尽きますね。ギター作りは、だからこそ面白いし、続けてこられたのだと思います。同じものは二度と作れませんから。

僕は、完成したギターを送り出す時、いつも少し名残惜しい気持ちになります。まるで娘を嫁に出すような感覚です。
一本一本、そんな想いを込めて作っているので、それを分かってくれる方に弾いていただき、その人のギターとして育てていってほしいなと思います。
いかがでしたでしょうか?職人の皆様のお話を伺い、「一本のギターに込められた想い」の深さを感じました。
木と音を通じて人と人がつながる、その原点がヤイリギターにはあります。
私自身、改めて、作り手の想いをお客様へ届ける使命を強く感じました。今後も、こうした“音を生む現場”を丁寧に取材し、お伝えしていきたいと思います。
特別な一本と出会う場所「ルシアーズセレクション」始動!
職人の皆様の熱い想いに触れ、感動しきりの私ですが...実はこの素晴らしいギターたちを、もっと多くの皆様にお届けするための新たなプロジェクトが始動したんです!
その名も「ルシアーズセレクション(Luthier’s Selection)」!
国内外のルシアー(製作家)が魂を込めて手がける特別なオーダー品を、厳選された店舗でじっくりとご覧いただける新しい取り組みです。
ルシアーズセレクション展開店舗
まずは以下の6店舗からスタートします!お近くの方はぜひ足を運んでみてください!
※店舗によって展示モデルや在庫状況が異なる場合がございます。
当社オンラインストアにも随時掲載を進めてますので、ぜひこちらもご確認ください!
探訪を終えて
職人の皆様の魂が宿るK.Yairiギターの奥深さ、そしてそれを皆様にお届けしたいという私たちの想いが少しでも伝われば幸いです。
ぜひ、お近くのルシアーズセレクション展開店舗にて、その音色と物語に触れてみてくださいね!
次回も“心を震わせる銘器の世界”へご案内します。お楽しみに!
銘器探訪の管理人

古川 惠亮プロフィール
京都府出身。大阪での歌い手としての活動を経て、「音楽の楽しさを届ける側になりたい」との思いから、2004年に島村楽器へ入社。
ギターへの深い愛情と幅広い知識を武器に、アコースティックギターの販売で10年連続トップセールスを達成。
現在はバイヤーとして、米国のMartin社での買い付けをはじめ、Furch、K.Yairi、Takamineなどのブランド、ならびに国内外のルシアーと共に、数々のカスタムモデルの企画・仕様策定・デザインを手がける。
プライベートでは3児の父として、家族との時間を大切にしている。
目下の悩みは、子どもとのゲーム対戦でなかなか勝てないこと。







