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別室 野原のギター部屋 Vol.11 “Vintage Milk Bottle”

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別室 野原のギター部屋Vol.11は、2017年5月3日に掲載した"Vintage Milk Bottle"をお送りします。

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こちらはTrue Historic(トゥルー・ヒストリック)などのヴィンテージ・リイシューに搭載されているKLUSONタイプのペグ。刻印のフォントやシャフトの長さなど僅かな相違点はありますが、50年代のKLUSONの特徴でもある透明度のあるペグボタン(Tuner Tips)がとても良い雰囲気です。以前の純正ペグは透明度の低いペグボタンでしたので、熱心なLes Paulファンはサードパーティー製のレプリカに交換したりもしていました。

さて今回の別室 野原のギター部屋ですが、主役はKLUSONペグではなく先程から皆様が気になっていらっしゃる後ろのギターについて。ピントが合っていないにも関わらず非常に良い雰囲気を醸し出しています。

Gibson Historic Select 1957 Les Paul Gold Top


深みのあるGoldが印象的なこちらの一本は、以前当店でご用意させて頂きましたHistoric Select(ヒストリック・セレクト)のLes Paul model(1957年型)で、オーナーのご厚意で特別に紹介させて頂けることになりました。今では定番となりました1950年代のLes Paulに付属していたBrown Hardshell Caseもしっかりと復刻されています。

Historic Selectは現Gibson社のヴィンテージ・リイシューの最高峰、True Historicをベースに特別な仕様をより厳選した材で製作されるオーダーモデルとなります。画像では少々見難いですが、ピックアップカバーの形状や適度なくすみ具合など以前のリイシュー(~Historic Collection)よりもリアルな仕上がりとなっています。

オリジナル(ヴィンテージ)同様にボディ・バインディングとバック材のマホガニーの間からトップ材のメイプルが見えます。各素材の色味のコントラストがとても雰囲気があります。一時期のリイシューは塗装の経年変化(やけ)を再現するためバインディングが強い飴色に仕上げられていましたが、最近は自然な色味で仕上げられています。

裏からブラス・パウダー(真鍮の粉)が吹き付けられたコントロールノブ。こちらも形状や色味などリクリエイトされたTrue Historicのものになります。それまでのHistoric Collectionのものに比べ、ノブ上部からスカート部(目盛りが施された部分)に向けてのライン(カーブ)がきつくなったため操作感も変わりました。これは好みになりますが、ヴィンテージのコントロールノブは指が深くかかるのでボリューム操作が幾分し易いように思います。1956~1960年代中期のGibsonを愛用している方には馴染み深い「あの感じ」です。

1950年代のトグルスイッチキャップは形状にバラつきがあり、更には経年変化によって色味にも差が生じます。そんな当時のトグルスイッチキャップの個性を楽しむために、True Historic、Historic Selectのトグルスイッチキャップには色味の異なるTtpe1, Type2の2種類が用意されておりランダムにパッケージされています。近年のGibson社の拘りと遊び心?が伺えます。

各パーツ類についてですが、True Historicを発売するにあたって1950年代の貴重なオリジナルパーツを裁断!し素材や構造の再分析を行ったそうで、1プライ(一層)ではなく数プライ(積層)構造だった事が判明したプラスチックパーツ類も画像の通り忠実に再現されています。Historic Collectionに搭載されていた白いプラスティックパーツは少々赤味のあるものでしたが、True Historicではオリジナルに近い色味のものへとアップデートされています。ちなみにですが、現在1950年代のLes Paul用ピックガードは十数万円で、スイッチプレートやジャックプレートは数万円で取引されています...

Historic SelectのLes Paulがいかに気合の入ったモデルかお分かり頂けたと思いますが、本日ご紹介させて頂いているこのギターには更に素敵なアレンジが施されています。

Grover 102 "Milk Bottle"


ご存知の通り現在発売されているヴィンテージ・リイシューのLes Paulは1950年代に発売されていた当時の仕様を再現しているため出荷時にはKLUSONタイプのペグが搭載されていますが、こちらの一本は画像の通りGrover社のペグが取り付けられています。これはご購入後に当社の工房で取り付けられたものなのですが、この画像をご覧になって取り付けられたペグがどの様なものかお分かりになりますでしょうか。

実はこのペグ、現行品のGrover 102ではなく1960年代〜1970年代初頭まで生産された当時のGrover 102になります。1960年代~1970年代のGibsonプレイヤーが更なるチューニングの精度を求めて純正のKLUSONペグからGrover 102に交換し使用していたのは有名な話ですが、なぜオーナー様は現行品のGrover 102ではなく、わざわざ手間をかけてまで当時のGroverを用意されたのか、私からご説明差し上げたいと思います。

オーナー様に多大な影響を与えたギタリストの一人にDuane Allmanという人がいます。数々の伝説的なパフォーマンスを世に残したことで有名なギタリストなのですが、そのDuane Allmanが生前愛用していた1957年製のLes Paul Gold Topに搭載されていたペグが今回のペグと同じ型のものでした。シャフト部のハウジング形状がミルクのボトルに似ていることから"Milk Bottle"の愛称で呼ばれているこのペグですが、現行品には無い一番の特徴が背面のバブル・バックに施された"Patent Pend"の刻印となります。この刻印があるだけでギター自体の雰囲気がより当時のLes Paulらしいものになります。

当時のペグを搭載することで変わるのは"Patent Pend"の刻印による見た目だけではなく、音も変化します。別室 野原のギター部屋Vol.2でも触れましたが、エレキギターは本体の鳴りも弦振動に作用し、その弦振動がピックアップを発電させアンプから音となって現れますので、ヘッド部に取り付けられたペグの重量も音に関係してきます。

「1960年代~1970年代のペグに使われている素材と現在に使われている素材は全く同じものでは無いはず=ペグ自体の重量が異なる=音が違う」というところまでは何となく想像ができるかと思います。両者の成分を分析した事が無いので確実なことは言えませんが、現行品よりも当時の物の方が僅かに軽い理由の一つとして少なからず素材(成分)の違いもあると思います。ではそれ以外の理由は何なのか。それは現行品(Grover 102V)と当時の物(Milk Bottle)とでのサイズの違いです。

この記事を執筆するにあたってどうしても確かめたかった事の一つだったのですが、実際にノギスを用いて計測してみるとペグボタンの横幅が-0.65mm、ペグボタンの厚みが-0.8mm、ペグポストの径が-0.2mmなど、計測した全ての部分が平均して0.4mm程当時の物の方が小い事が分かりました。「年代物のGroverは小さい」という話は本当でした。

ペグをKLUSONよりも重量のあるGroverに交換すると押し出しの強い音(より艶っぽい音)になると言われています。これは重量のあるペグを取り付けることでヘッド部の振動が少なくなるからだと考えられていますが、現行品のGroverよりも軽い当時の物を搭載することでも僅かに違いが生じます。この僅かな違いがどれ程のものかは弾き手によるところですが、当時のGroverならではの音になることは確かです。

NashvilleのGibsonファクトリーで厳選した木材を用いて製作されるHistoric Select。それだけで大変魅力のあるギターですが、更に厳選したパーツを搭載することによってよりオーナー様が理想とするLes Paulに見た目、音質共に近づく事ができたのではないかと思います。過去にGroverが搭載されている1958年製のGold Topを弾く機会がありましたが、仕上がったオーナー様のギターを検品していて「こんな感じのキャラクターだったな」とそのギターのことを思い出しました。

この記事を読まれてご自身のギターをより当時の雰囲気へとモディファイしてみたくなった方がいらっしゃいましたら、お気軽にご相談ください。

それでは今回はこの辺で。

ギター部屋の管理人


学生の頃よりバンド活動、レコーディングなど様々な場所での演奏とヴィンテージギターショップ巡りに明け暮れる。後にギタークラフトを学び島村楽器に入社。入社後は米国Gibson社、Fender社への買い付けなどを担当。甘いもの好き。

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