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別室 野原のギター部屋 Vol.21 “Swing Low Sweet Bigsby”

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別室 野原のギター部屋Vol.21は、2018年1月24日に掲載した"Swing Low Sweet Bigsby"をお送りします。

すっかりご無沙汰しておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。ひっそり連載中の"島村楽器ミーナ町田店 別室 野原のギター部屋"も無事10回を迎えることができました。これもひとえに皆様のご愛顧とご支援によるものと深く感謝しております。

「たかが10回で大袈裟な」というお声も聞こえてきそうですが。

さて、そんな記念すべき10回目のブログは素敵なトレモロユニットのお話です。

Bigsby True Vibrato Tailpiece

1964 Gibson ES-335TDC Factory Bigsby and Factory Stop-tailpiece
1940年代のロサンゼルス、バイクショップ"Crocker Motorcycle Company"に勤める熟練のクラフトマンPaul Bigsby(ポール・ビグスビー)氏。ある日親交のあったMerle Travis(マール・トラヴィス)氏(Country & Westernのシンガー/ギタリスト )が「チューニングが安定しないヴィブラートを直して欲しい」とGibson L-10を持って来ます。「何でも直せますよ!」と答えたビグスビー氏は、マール氏の提案もあって新しいメカニズムを取り入れたヴィブラートをデザインします。このデバイスが後にスタンダードとなり、世界中殆どのギターメーカーがこれを搭載することとなります。

はい。そうなんです。

ビグスビー・ヴィブラート・ユニットは、楽器関係の技術者ではなく、音楽好きのバイク技術者がデザインし作製したユニットなのです。もうこの史実だけで格好良いと思ってしまうのは私だけでしょうか。ビグスビーは砂で作られた型にアルミを流し込むサンドキャストと呼ばれる製法で作られます。ブランドロゴとパテントNo.以外の部分が一段低くデザインされており、黒くペイントされています。トレモロアーム(Whammy Bar)とその下にあるアームブラケット(アームとスプリングの間にあるパーツ)、弦のボールエンドを掛けているシャフトが連動して動く"スプリング式サスペンション構造"を採用しています。

画像のビグスビー(B-7)はボディトップに固定するビスにボディエンド部と共通のPan head screwが使用されています。これは古いビグスビーに見られる特徴で、近年のものになるとボディトップ用に専用のビスが用意されます。

画像右は2016年に作られたHistoric Collection ES-335(Nashville Factory)に取り付けられているビグスビーです。ボディトップに固定するビスはRound dish small screwが使われており、ビスの頭がユニットに埋まっています。アームを上下することによってスプリングが伸縮を繰り返し、回転するシャフト(ヴィブラートシャフト)がヴィブラート(トレモロ効果)を生み出します。ストラトのトレモロユニット(Synchronized Tremolo)よりも可変域(=音程差)は狭くなりますが、その独特の掛かり具合は多くのプレイヤーを魅了してきました。

こちらは現行品のBigsby B-7。ヴィンテージと構造は同じになります。弦とスプリングを外してみると、アームブラケットに穴が開いているのが分かります。この穴の中には黒いSet screw(イモネジ)が入っており、アームブラケットとヴィブラートシャフトを固定しています。

手前の小さなパーツがイモネジです。アームブラケットを外すとヴィブラートシャフト側にもイモネジの受けとなる穴が開いているのが分かるかと思います。

アームバーとアームブラケットはナットで固定されており、間に小さなスプリングが入っています。ナットの締め具合でアームバーの滑らかさが調節できるのですが、バイク職人ならではの秀逸なデザインです。

気になるチューニングの安定性に関してですが、他の非ロック式トレモロユニットとさほど変わらないように思います。アームダウンをした後スプリングの力でアームバーが元の位置まで押し上げられますが、その際にほんの少しアームバーを持ち上げるとチューニングが戻ります。「アームバーを持ち上げる」よりも、「アームバーを持ち上げる方向に僅かに力を入れる」の方が表現として適切かもしれません。ヴィブラートシャフトをボディエンド側から見た画像です。シャフトに巻き付いている各弦の下に穴が開いているのが確認できます。これは弦(ボールエンド)を掛けるピンをシャフトに固定するためのものなのですが、古い時代のビグスビーにはあって近年のビグスビーにはありません。前述のボディトップのビスと合わせて知っておくと、年代物のギターを見る時に少し便利です。

こちらはMemphis Factory製のHistoric Series ES-335に搭載されているビグスビーです。ご覧の通りヴィブラートシャフトの穴はありません。VOSフィニッシュのギターに搭載されているため軽いエイジド加工が施されていますが、成型や研磨を含む加工技術が向上しているためユニット全体が綺麗に見えます。
ボディエンド側の様子。ストラップピンを露出させる形で4点のビスで固定されています。
ビグスビーが搭載されたギターの弦アースはストラップピンの上の位置にあります。通常ギブソンのギターなどはテールピースのスタッドアンカーの下にアース線がきていますので、ビグスビー(B-7など)に換装する際は画像の位置(Ground Wire)からコントロール部にロングドリルで穴を開け配線をし、一端をギター本体とビグスビーで挟み込む形で通電させます。

B-5やB-7、B-12などにはテンションバーがデザインされています。テンションバーは回転する仕組みとなっており、アーム使用時による弦の行き来がスムーズになるよう工夫されています。

Bigsbyの音について


恐らく皆様が一番気にされているのがストップテールピースからビグスビーに換装した際の音の変化ではないでしょうか。画像のES-335は2本とも製造年が同じ物でテールピース以外は同じ仕様になります。この2本を同じ設定で弾き比べますとビグスビーの方がよりブライトに聞こえます。生々しく輪郭が鳴るロックで粋な音とでも言いましょうか。一方のストップテールピースはタイトで艶のある音がします。以前レスポールのストップテールピースをビグスビーへコンバートした際にも同様の変化が見られましたので、ビグスビー特有のキャラクターと言って差し支えないと思います。

音の伸び(サステイン)に関しましては昔から短くなると言われていますが、気になる程の変化は無い様に感じます。慣れもあるとは思いますが、長年ビグスビー付きのギターを弾いてきましたが「あともう少し音が伸びてくれたら」と思った事はありません。弦を留めているパーツが変わっているわけですから音の伸び方にも変化はあって当然ですが、そこまでシビアに捉えなくても大丈夫かと個人的には思います。

さて、今回はビグスビーについて綴ってみましたがいかがでしたでしょうか。ビグスビー好きの管理人としてはまだまだ掘り下げて書きたいところですが、一先ずビグスビーがどのような物なのかはご理解頂けたかと思います。
最近ではギターのボディに加工することなく簡単にビグスビーを搭載することが出来るデバイスも発売されていますので、ご興味がある方はご自身の愛機に載せてみてはいかがでしょうか。

最後までご覧いただき、ありがとうございます。記事の内容や商品についてご質問がございましたら、お気軽にお問い合わせください。それでは今回はこの辺で。

ギター部屋の管理人


学生の頃よりバンド活動、レコーディングなど様々な場所での演奏とヴィンテージギターショップ巡りに明け暮れる。後にギタークラフトを学び島村楽器に入社。入社後は米国Gibson社、Fender社への買い付けなどを担当。現在は静岡パルコ店に勤務。甘いもの好き。

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