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【コラム】現行ギブソンUSA レスポールはヴィンテージ好きから見てどうなのか?【Gibson Les Paul】

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皆様こんにちは。「島村楽器別室 野原のギター部屋」管理人の野原です。
先日ギタセレ担当者からこんな件名のメールが送られてきました。

「ギタセレ特集記事作成依頼」

メールを開いてみると「現行ギブソンUSA(レギュラーライン)のレスポールはヴィンテージ好きから見てどうなのか?」をテーマに記事を書いてほしいと書かれていました。

なるほど、確かに今までもお客様に意見を求められたりしていましたので記事にすると面白いかもしれません。

というわけで今回はヴィンテージギター好きの私がUSAのレスポールをどう思っているのか、忖度なしで書いてみたいと思います。
どうぞ最後までお付き合いください。

Gibson(USA)Les Paul Standard ’50s

Gibson USA と Gibson Custom Shop

まずはじめに、ギタリストから「レギュラーライン」と呼ばれることの多いギブソンUSAと、ギブソン・カスタムショップ(特に需要のあるリイシュー・モデル)のコンセプトや特徴に触れてみましょう。

ギブソンUSAは「ギブソン社製品を一人でも多くの方に所有していただくこと」を目的とし生産される製品になります。
現代の技術を駆使し、高品位な製品をバラつきなく、より多く生産する事が主となります。

モデルにもよりますが、近年にデザインされた新しいパーツなども取り入れられる製品です。

一方のギブソン・カスタムショップで作られるリイシュー・モデルは、特定の年代、特定の個体を忠実に再現するために多大なコストや時間をかけて生産されます。

再現の対象となる年代は1950年代や1960年代のものが多く、現在と比較して手間のかかる当時の工法を研究し、取り入れるため、必然的に生産本数は限られてきます。

ギブソンUSAとカスタムショップの違いを端的に言うのであれば「1本に対して掛けられるコストが違う」ということになります。
また、両者のコンセプトが明確に違うため、それぞれを別の工場で生産しています。何となくイメージが付きましたでしょうか。

Gibson Les Paul Standard ’50s(USA)とGibson Custom Shop 1958 Les Paul Standard Reissue


(左)Gibson(USA)Les Paul Standard ’50s
(右)Gibson Custom Shop 1958 Les Paul Standard Ultra Light Aged

私が以前執筆しました記事(別室 野原のギター部屋Vol.19)でも触れましたが、お客様に「USA(レギュラーライン)とヒストリックコレクション(リイシュー)のレスポールって何が違うの?」と尋ねられた際、私は「同じレスポールの形をしていますが、別物のギターだと思った方が考えやすいと思います」とお答えします。
前述の通り、USAとリイシューとではコンセプトや生産方法が異なるためです。

では実際に何が違うのか。いくつか分かりやすい箇所をピックアップしてみたいと思います。
※画像は上がUSA、下がリイシュー(カスタムショップ)となります

ヘッドストック



「Gibson」ロゴや中央に入れられた「Les Paul MODEL」の形状、ヘッドストックのアウトラインなど細かな違いはございますが、一見してレスポールだと分かるオリジナルのデザインを踏襲しています。

USAのトラスロッド・カバーにはモデル名が印字されており、リイシューに比べ外周の白い部分の幅が狭い作りになっています。
(トラスロッド・カバーについて詳しく知りたい方は別室 野原のギター部屋Vol.8をご覧ください)

ヘッドストックでの一番大きな違いはヘッド・トップ(表面)にあります。


ヘッドトップの黒い部分の厚みが異なるのがお分かりになりますでしょうか。

USAは黒いプラスティック板を、ヴィンテージやリイシューはホリーウッドという木の突板をヘッドストックの表面に貼っています。
このため、USAは不意にヘッドストックのエッジを何かにぶつけてしまっても傷口は黒く目立ちにくいですが、リイシューは黒い塗装が剥離し木部が露出するので目に付きやすいです。

ペグ(マシンヘッド)



USA、カスタムショップともにプラスティック・ボタン(ツマミ)のペグが取り付けられていますが、USAはペグ・ポストの周りに六角ナットが見えます。
ヴィンテージやリイシューはペグ1つに対して裏から2本のビスで固定していますが、USAは更に表から締め込んで固定する構造のペグを採用しています。

ネック周辺





まずバインディングですが、USAとリイシューでは厚みが異なります。
リイシューの方が厚みが薄いのですが、更に指板エッジを滑らかに削り込むロールドバインディングを採用しているため、より薄く見えます。



ネック・プロファイルはUSAがVintage 50s、リイシューがAuthentic '59 Medium C-Shapeと異なりますが、ともに中庸な太さと形状ですので、どちらも多くの方にストレスなくグリップしていただけるネックだと思います。
※通常1958リイシューのネックはChunky C-Shapeですが、こちらの個体はAuthentic '59 Medium C-Shape+Historic Medium-Jumboフレットの1959スペックが採用されています。

見た目には分かりませんが、埋め込まれているトラスロッドもUSAはチューブを被せたやや径の細いもの、リイシューはチューブレスの径が太いものが採用されています。

指板の接着やネック・ジョイントの接着に使用している接着剤はUSAがボンド、リイシューが膠(ニカワ)となります。

ネック・ジョイント



ネックとボディを接着する際、ボディに差し込むネックの部分をテノンと呼びます。
リイシューはフロント・ピックアップ・キャビティまで届くロング・テノンを採用しており、USAはそれよりも短い構造となっています。

こうして文章にしますとUSAの強度を心配される方もいらっしゃるかもしれませんが、通常使用における楽器の強度としてはしっかり確保されていますので、ご安心ください。

ピックアップ



Les Paul Standard ’50s(USA)にはバーストバッカー1&2、1959 Les Paul Standard Reissue(カスタムショップ)にはカスタムバッカーが搭載されています。

両者とも1950年代のハムバッカー(通称PAF)を再現したアンマッチド・ターン構造(2つのボビンに巻かれたコイルの巻き数が不揃い)のピックアップで、カスタムバッカー登場以前はバーストバッカー(や、'57クラシック)がヒストリック・コレクション(カスタムショップ)に搭載されていました。

バーストバッカーはマグネットにAlnicoⅡを使用したピックアップで、両ボビンの巻き数の差は比較的小さいです。
対してカスタムバッカーはマグネットにAlnicoⅢを使用しており、両ボビンの巻き数の差はバーストバッカーよりも大きくなっております。

プラスティックパーツ



プラスティック・パーツも同じように見えますが、材質、色味、製法が異なります。
1950年代のレスポールのピックガードやジャックプレートは数プライの樹脂で構成されているため、リイシューはこれを忠実に再現しています。



このリイシューのパーツは2015年に発売されたトゥルーヒストリック・シリーズで刷新されたもので、製作にあたり1950年代当時のオリジナル・パーツのシェイプやサイズをデジタル・データ化し、更には全パーツを切断して、その断面から使われていた材質の成分構成から当時の製造工程までも分析されました。

コントロール



2Vol、2Tone、1トグルスイッチという点では共通していますが、ポット、キャビティの形状や配線材、キャパシタ(コンデンサ)、取り付け方法などが異なります。
USAは金属のプレートとその中央に端子が設けられていて、キャパシタにはオレンジ・ドロップが使用されています。

リイシューは1950年と同じ形状にルーティングされたキャビティに直接ポットが取り付けられています。
キャパシタはバンブルビーを再現したペーパー・イン・オイル・タイプ、配線材や配線の取り回しなどもオリジナル(1950年代)を再現しています。


その他にも、ナット材、フレット、指板のインレイ、ボディ形状、アーチ形状、ブリッジ、テールピース、ピックアップカバーなど、まだまだ両者にはたくさんの相違点がございます。
私がそれぞれを「別のギター」として捉えている理由がお分かり頂けたと思います。

音の違い


USAもリイシューも間違いなくギブソンのレスポールらしい音色ですが、前述の通りそれぞれコンセプトが異なるモデルのため、音に関しても違ったキャラクターを持っています。

あくまで主観にはなりますが、1950年代~1960年代前半のギブソンのエレクトリック・ギターには共通したイメージを持っています。

・音の立ち上がりが良い
・各弦の解像度が高い
・高域が鳴る

抽象的な表現になってしまいますが、最近のギターを10割の力でピッキングした時の音が8割の力で更にHi-Fiに出るイメージです。
厳密に言えば当時とは材やパーツの質などが異なるため全く同じ音にはなりませんが、これをサウンド面でも再現しているのがカスタムショップで作られるリイシューになります。

解像度が高く高域が鳴るように作られているため多少はノイズも出やすいですが、言い換えれば、多少のノイズも許容できる設計でないと当時のような高解像度のサウンドが得られないということです。

一方のUSAは、リイシューよりも中(~低)域に寄って鳴るイメージがあり、出力も強く感じます。
ドライブサウンドではより音の厚みやまとまりが聞いて取れるので、同時に艶っぽさを感じられる方も多いのではないでしょうか。

現在のギターらしくノイズも少ないため、ある意味では極端なセッティングの音作りなども行いやすいと思います。

で、結局現行ギブソンUSA レスポールはヴィンテージ好きから見てどうなのか?


結論から申し上げますと、とても良くできたギターだと思いますし、レスポールだけでなくUSA(レギュラー)のギブソン製品が好きです。

私が初めて憧れのヴィンテージ・ギブソンを弾かせていただいたのは高校生の頃だったでしょうか。
弾いた時の印象は「とにかく弾き辛い」でした。

こう書きますと「当時は現在のような加工精度がなかったから弾き辛いのでは?」と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、むしろ楽器としての完成度は高く、セッティングも素晴らしかったです。

ではなぜ弾き辛いと感じたのか。
それは、経験したことの無い反応の良さと音の再現性でした。

「ピックが弦に触れる前から鳴っているかのような早い立ち上がり」「ピッキングのミスや斑(むら)までもが明瞭に音になる再現性」から、とても弾くのが難しく感じました。
もちろん音色は好みでしたが、素直に感動する余裕が無いほど、弾くのに苦戦しました。

この当時私が愛用していたのがギブソンUSA(レギュラー)のレスポール・スタンダードで、ピックアップをバーストバッカー1&2に交換したものでした。

この所有するUSAを例えるのであれば、マスタリング後のようなバランスの良さと、音のまとまり具合を持っているギターで、とても弾きやすく感じていました。

その後、どうしてもヴィンテージの音が必要になりヴィンテージやリイシューを手にするわけですが、それらに慣れた現在でも前述のギブソンUSAのレスポール・スタンダードは大切に所有しています。

ヴィンテージやカスタムショップ製品を所有していると、USAをサブギターとして使用しているように思われることがありますが、USAを手にするのはシンプルにUSAの音を求めるからであり、特にサブギターとして位置づけて使用したことはございません。
それだけUSAのレスポールのサウンドも気に入ってます。


さて、今回はギブソンUSAのレスポールについて執筆してみましたが、いかがでしたでしょうか。
セットネックやアーチトップといった量産には向かない構造の楽器であるにもかかわらず、高く安定した品質で量産されるGibson USA Les Paul Standard。

ぜひお近くの店舗で手に取ってその魅力を体感してみてください。
また、下のリンクより島村楽器各店の在庫がご確認いただけますのでチェックくださいませ。

それでは今回はこの辺で。
ギブソンUSA(レギュラーライン)のファイヤーバードが欲しい野原でした。

この記事を書いた人


学生の頃よりバンド活動、レコーディングなど様々な場所での演奏とヴィンテージギターショップ巡りに明け暮れる。後にギタークラフトを学び島村楽器に入社。入社後は米国Gibson社、Fender社への買い付けなどを担当。現在は新宿PePe店に勤務。甘いもの好き。

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