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特集記事

【Grosh Guitars】ドン・グロッシュ氏の職人魂 Vol.4 “楽器の作り手から見た凄さとは?”

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“知る人ぞ知る”アメリカのギターブランド「Grosh Guitars(グロッシュ・ギターズ)」についてご紹介する本連載。
第4回目では楽器の作り手から見たGrosh Guitarsの凄さ・魅力という視点で、当社が誇る楽器のスペシャリスト“ルシアー駒木”にご紹介いただきます。
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ルシアー駒木プロフィール


ヴィンテージギター販売からそのキャリアをスタートさせ、雑誌掲載用等のオーダーメイド製作、講師業務、店頭リペア業務等を経て、現在では楽器開発から海外ギター工場での技術指導までを手がけている。
アメリカ・スウェーデンのアーティストや、スペインの伝統的なギター製作現場からも高い信頼を得る国際派技術者。

ギター・ベースの入門書や、メンテナンスDVDへの出演、ラジオ「SAME'SBAR」への出演等、その活動の場を更に広げ、現在は浅草橋ギター&リペア工房長を務めている。
Don氏との信頼関係から、島村楽器でのGrosh Guitars取り扱い開始時より、国内入荷時の検品・セットアップ、お客様購入後の調整まで監修している。

ルシアー駒木の感じた“Grosh Guitarsの魅力”とは?

皆さまこんにちは、ルシアー駒木です。

Grosh Guitarsについて、、、というよりDon氏という業界の大先輩について、と言った方がむしろ適切かもしれませんが、私自身ハンドメイドでの楽器製作もし、世界中の工場や工房での技術交流や指導を行なってきた者としての視点で、少しお話をさせていただければと思います。

楽器の『鳴り』を左右する木材の選別

まず、ギターという楽器の『鳴り』を考える為には、
「どこが」鳴っているのか

や、
「どのように」なっているのか(倍音構成)

が、
とても重要で、これを設計段階・製造段階で狙って構築できる事が理想ですが、それが容易でない事は想像に難くないと思います。

逆に言えば、これがコントロール出来れば、いわゆる「同じモデル内での個体差」、、、更にそれはお客様には「当たり外れ」と評される事もある(本来の意味では「好き嫌い」ではありますが)、、、をコントロールできる事になります。
先の動画でお分かりのように、これは『本体構造部分』の「弦を支える要素」と「それ自体が響く要素」のバランスを取るという事であり、材種・個体差によるヤング率(材料の硬さを表す定数)などの選別・個体差による重さ・ネックとボディのバランス、等が重要です。

多くの工場で木材を「区別」するのは、皆さんも聞いた事があるであろう「グレード」というもので、AAAAAだのAAAだのという選別がされます。が、この選別のほとんどは「見た目の美しさ」によるものです。杢がどのように出ているのか、節は無いか、シミが出ていないかetc...。

私がGrosh Guitarsの工房に初めて伺い、Don氏に説明を受けながら中を拝見し、最初に衝撃を受けたのが、角材の状態から、まず重さを測り、木材の選別に重きを置いていた事です。



この段階で、見た目が綺麗で材として何も問題の無い木材の中に、すでに楽器として使われない判断をされたものがありました。

更に、あるモデルの木工加工が仕上がった状態の物が並べられた場所で、私は更に衝撃を受ける事になりました。
そのモデルは基準の重さが3.75ポンドとの事でしたが、何と4ポンドを超えたものは使わない、という事で撥ねられていました。
kgに換算して考えると、約1701gが基準で、約1814gはNG判断という事になります。僅か113gオーバーすると楽器として使わない。セロリ1本位の重さでNGにしている訳です。

またこの重さについての説明をしてくれる中で、私は英語が得意ではありませんから、だからこそとても気になった彼の言葉がありました。

彼は3.75ポンドという重さを私に伝えてくれる時、私なら「Standard」「Criteria」といった言葉を使うと思うのですが、彼は「Target」という言葉を使いました。
「基準」「標準」というニュアンスよりも「狙い」「目標」という感じ。この言葉のチョイスに私は彼の「明確な意思」を感じました。

その重さによる「弦鳴りとボディ鳴りのバランス」でないと、そのモデルで彼が狙っている倍音構成比、、、トーン・サウンド・鳴り方にならない。
だから他の工場工房なら何本も完成させられる木材で1本しか出来てこない。これはもうある程度高額になって然るべきですよね。
つまり「音をコントロール」するという段階はすでに超え、「明確に狙った音にする」レベルで重さを管理している。これはとんでもない事です。

精度優先の徹底した丁寧な作業

そして、材の重さ管理と同じくらい私が驚いたのは、その丁寧さです。
彼含め、スタッフの誰もが恐ろしいほどの丁寧さで作業をしています。

例えばネックグリップを加工する時に、「まず0.2ミリ設計値よりも厚く削るんだ」と言いながら加工を見せてくれ、手その後細かい番手で磨くように残りの0.1ミリを削っていました。もう0.1ミリはマスキングテープの厚み。
更にそのネックにオイルを塗る時には、何と細かな箇所を綿棒で塗っています。

バフをかけている様子を見た時には、熱を持たない絶妙な押し当て具合で、丁寧に時間をかけていたのが印象的でした。
つまり、「時間を敢えてかけている」。かかっている、のではなく。

日本含め多くの工場工房では「上達」=「同じ作業が短い時間で出来るようになる事」だと思います。
一定の仕上がり基準があってそれを下回らないように時間短縮出来た人が「上達した人」で「優秀な人」で「生産性の高い人」。

彼の工房は、まず最上の仕上げにする事が最優先事項で、シッカリ時間をかけてその時間は特に短くしなくても同じ時間で「より良い仕上げに出来る事」が「上達」。
もはやギター業界を超えたはなしかもしれませんが、企業成長・生産性を追うあまり、多くの工場工房が忘れてしまった、大切なことを思い出させてくれる、そんな製作風景でした。

その彼の製作姿勢は機械にも見えました。

フレットの溝を加工する時、多くの、というより殆ど全ての工場・工房は、鋸を使います。手作業でも鋸ですし、大量生産でも鋸の機械で切り込みます。
しかし彼は回転刃を使った機械で、しかも気が遠くなるような遅いスピードでその機械を動かし、しかも1本の溝切に機械を3往復もさせていました。

鋸加工で”たまに”起きる材の僅かなチップ(欠け)を防ぐが為であり、更にその機械を指板Rと平行に動かす事で、溝の中までRと平行に加工される。
丁寧さを機械にまで求める姿勢には、感服しました。

設備・経営に対する考え方


私が彼のファクトリーに初めて伺った時、シカゴで別の仕事をして、その後彼のところ(デンバー)に行き、更にその後車を運転しダラスに向かう、という結構大変な移動だったのもあって(笑)、どうしてデンバーに作ったの?と聞きました。
彼は、静かで良いところだよ!とニコニコしながら、こんな話をしてくれました。

「カリフォルニアから引っ越しをしてきたわけだけど、ビジネスって事を考えたら、カリフォルニアは便利だよね。デンバーは便利とは言えない。でも、カリフォルニアは雨季と乾季があって、その湿度の変化が凄いんだよ。加工前のメイプルのトップ材なんて波打っちゃう。だけどデンバーはロッキー山脈の東麓にあるから、高地で湿度が安定してるんだ。だから材料を保管して楽器を作る事には最適な場所だと思っているよ。」

ビジネスのしやすさより、材料の安定を求める。彼らしい話でした。




Staffは皆凄腕でした。勿論。設備も万全。勿論そういった凄さやテクニックを語っても良いのですが、私はそれよりも、本来モノづくりにあるべきなのに、しかし世の中の多くの人が経済成長の為に犠牲にしてきた事があり、その本来当たり前のあるべき事を今でも当たり前に丁寧に取り組む。
私にとってGrosh Guitarsとはそんな場所でした。

だから、私個人としては、杢の凄い材を使った特別なモデルより(もちろんそれも最高ですが)、一見普通に見えるNOSやRetro Classicなどを是非試していただきたいです。スタンダードなモデルに見え隠れする、丁寧さとトーンへのこだわり。そこに真髄がありますから。

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工場内には「これは自分用に作ってるんだけど、なかなか忙しくて進められてないんだ。何年掛かってることやら(苦笑)」という仕掛かり品もありました。品質にこだわるがゆえに、年間の生産数も限られています。

私は、従業員増やして、生産本数を増やそうとは思わないの?設備はあるし、受注もあるし、働きたい人も沢山いるでしょ?と聞いてみたのですが、彼はこんな事を話してくれました。

「君は知っている通り、私はValleyArtsにいたんだけど、ValleyArtsの仕事は本当に楽しかった。マイクは(MikeMcGuire-ValleyArtsの創設者)良い人だったし、ルカサーやカールトンと仕事をする事は刺激的で勉強になった。でも、あの出来ごとがあって(ValleyArtsはショップを放火され経営悪化、サミック社に株式を売却し、全くそれ以前とは別の楽器製造スタイルになりました)自分達の目が届かないところで、楽器がどんどん出荷されていく、私はそれが嫌だったんだよ。だから自分の知らないところで自分が知らない個体が出荷されるのは避けたい。全ての出荷個体を全部自分で把握していたいんだ。だから今の規模を大きくするつもりは無いよ。」

本当に魅力的な人でした。

ちなみに、彼が御馳走してくれた、近所のホームメイドバーガーは最高に美味でした(笑)

最後に

いかがでしたでしょうか?
今回は“楽器の作り手から見た凄さとは?”という視点でルシアー駒木にGrosh Guitarsの魅力についてご紹介いただきました。
スペックシートや楽器の見た目からは伝わりにくい職人のこだわりこそが世界のトッププロからも信頼を得られるギター製作の秘訣のようですね。

それではまた次回の特集でお会いしましょう。
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