皆様こんにちは。島村楽器別室 野原のギター部屋管理人の野原です。
楽器店スタッフの仕事の一つに、カスタムオーダーやセミオーダーといったものがあります。文字通り自分で仕様を考えて通常ラインナップには無いモデルを形にします。全てはお客様に喜んで頂くためですが、自分の好みをより反映することができる楽しい仕事です。今回は国内屈指のブランド”Freedom Custom Guitar Research(以下Freedom CGR)”でオーダーしたお気に入りの1本をご紹介したいと思います。
Freedom Custom Guitar Research O.S. TE Pepper Semi Hollow Korina

オーダーしたのはFreedom CGRの人気機種TE Pepperです。TE Pepperにはボディの構造が異なる4機種がラインナップされており、それぞれの特徴は以下の通りとなります。
TE Pepper HollowⅠ(Red Pepper)
TE Pepperの最軽量モデル。ボディバックからブリッジ下以外を全てくりぬき、バックから蓋をしたフルホロウ構造。
TE Pepper HollowⅡ(Brown Pepper)
ボディトップからブリッジ下以外を全てくりぬき、トップから蓋をしたフルホロウ構造。シリーズ中最もウォームな箱鳴りを持ったモデル。
TE Pepper Semi Solid(Black Pepper)
トップ材と密着したセンターブロックを採用。シリーズ中最もソリッドなサウンドを放つモデル。
TE Pepper Semi Hollow(Green Pepper)
センターブロックをトップ・バック材に密着させない、ミドルポジションセンターブロック構造採用。
「センターブロック」という言葉からES-335などをイメージされる方も多いと思いますが、TE Pepperはマホガニーの板をくりぬいたモデルですので、表板、側板、裏板を使用して製作されるいわゆる「箱モノ」とは構造と響き方が異なります。fホールこそ開いていますが、そのボディサイズや構造から基本的にはややソリッド寄りのサウンドイメージです。トップ材と密着したセンターブロックを採用したTE PepperにSemi Hollowではなく”Semi Solid”と名付けたのも、そんなイメージからかもしれません。
今回はベースモデルにTE Pepper Semi Hollow(Green Pepper)を選んでみました。

Freedom Custom Guitar Research TE Pepper Semi Hollow (Green Pepper)
Body Wood 1 (Top & Back):Zebrawood 2pc
Body Wood 2 (Center):Mahogany 2pc with M.P. Center Block
Neck / Shape:Mahogany / Pepper U-Shape
Scale:25.5in
Joint:Bolt on 4-Point Joint / Plate
Nut / Nut Width:Silicone Oiled Bone / 42mm
Fingerboard (FB):Rosewood
Fret:Eternal Fret / EI-W-016WARM / 22F
Fingerboard Radius:280R
Top Position Mark:Dot – White Shell
Side Position Mark:Luminlay – 3mm (Green)
Machinehead:GOTOH SD91-P5W(pearl)-HAP-L
Pickups:F-90 & Pepper SPTE
Control:1Vol. / 1Tone / 3way Switch
Bridge:GOTOH GTC-202 (Steel Saddle/10.8mm Pitch)
Neck Finish:Poly・艶消し – 極薄仕上げ
Body Finish:Poly ・ 艶有り
Strings:D’Addario 10-46

通常TE Pepper Semi Hollow(Green Pepper)のボディトップとバックには木目の綺麗なゼブラウッド(マメ科ツルサイカチ属の広葉樹)を使用していますが、今回はモデル名からもお分かりの通りコリーナ材を使用しました。
ゼブラウッドは硬質な木材で、明瞭さや長いサステインが特徴です。TE Pepperのボディセンターには温かみのある滑らかな中域が特徴のマホガニーが使用されていますので、アタックに緊張感を持たせ適度にレンジをまとめるという点でとても良い組み合わせです。そんな完成されたサウンドを少し甘く大味な感じにするのが今回の狙いです。
コリーナ材は、マホガニーやアルダー、アッシュなどの良いとこ取りと表現されるサウンドキャラクターで、アタックの早さやキレの良さ、明るく広がりのある響き、適度な暴れ具合とバイト感を持っています。解像度の高さを保持しつつピシッとした整ったサウンドをややルーズで渋みのあるものにするには最適な材だと考えました。

通常はボディに合わせたカラーで着色されるネック及びヘッドストックですが、マホガニー材そのままの色味を楽しむため無着色(クリア)で仕上げています。羽根型のストリングリテイナーは3弦チューナー(ペグ)と4弦チューナーの間あたりに取り付けられています。

チューナー(ペグ)はGOTOH SD91-P5W(pearl)-HAP。H.A.P.(Height Adjustable Post)とは巻軸(ポスト)の高さを任意に設定できる機構で、これにより弾き手の好みのストリングテンションやサステイン、コードバランスを得ることができます。背面の穴から六角レンチを入れて固定ビスの解除と移動を行い、可動軸(ポスト)を手で回して任意の高さに調整します。

ローズウッド指板にはEternal Fret(ステンレスフレット)が打ち込まれています。Eternal Fretには硬さの違う「WARM」と「SPEEDY」の2種類がラインナップされており、本機にはWARMが採用されています。ステンレスフレットと聞くと材質も音質も硬質なイメージですが、WARMは一般的なニッケルシルバーのフレットに非常に近い音質で、硬度も同様かそれ以下となります。時間が経過しても錆びず、一般的なフレットと同じような感覚で演奏ができるのが魅力的です。

サイドポジションマーカーは3mmのLuminlay(蓄光素材 / Green)です。ステージ等での利便性と、光らせていない時の色味が今回のモデルに合っていたのでそのまま採用しました。フレットエッジの処理が綺麗で、指板サイドも滑らかに仕上げられているため握り心地が良いです。

細い導管が詰まった良質なマホガニー材。マホガニーはメイプルなどに比べて柔らかいため、仮にイマイチなものを使用すると音像がぼやけた芯の弱いサウンドになってしまいます。Freedom CGRが保有する材はどれも質が良いので選定に苦労することはありませんが、ネックに使用するマホガニーはよりシビアに見るようにしています。

通常TE Pepper Semi Hollow(Green Pepper)のボディにはバインディングが施されていますが、コリーナ材とマホガニー材のコントラストをより楽しむという狙いで今回はあえて無しにしてみました。小口面(木材を横に切った時の断面、年輪が見える切り口)をご覧になりますと、よりマホガニー材の詰まり具合がお分かり頂けると思います。

ネック側ピックアップにはF-90 Soapbarをセレクト。「P-90らしい音の太さ」と「レンジの広さと⾳抜けの良さ」を両立させたFreedom CGR製のピックアップです。公式サイトの記載通り、クリーンからクランチで感じるニュアンスの出しやすさを保持したままバイト感あるドライブサウンドへ移行できるイメージで、コントロールしやすいです。
ハムバッキングピックアップも考えてみましたが、イメージよりも少し上品になりそうだったのでF-90 Soapbarをセレクトしました。今文章を書いていて思い付いたのですが、TE Pepper HollowⅡ(Brown Pepper)のボディトップをスプルース材にしてハムバッキングピックアップを搭載したら、ジャズ系のサウンドにフォーカスしたモデルとして良さそうだと思ったのですが、いかがでしょうか。

ブリッジはGOTOH GTC-202 (Steel Saddle / 10.8mm Pitch)をそのまま採用しました。例えば昔ながらのブラス製3サドルのブリッジを搭載してより味わいのある(いなたい)サウンドにすることもできましたが、既にコリーナ材がそれに近しい役割をしてくれているのでTE Pepperらしいイントネーションの正確さを残すことにしました。

1968年製のTelecaster Thinlineをオマージュしたと思われるピックガードはカタログ仕様のまま変更していません。オリジナルのTelecaster Thinlineもそうですが、経年変化でやけたナチュラルカラーにはホワイトパールのピックガードがとても良く似合うんですよね。最後まで候補として残っていましたが、1ピースのべっ甲柄も素敵だと思います。

前述の通りTE Pepper Semi Hollow(Green Pepper)のセンターブロックはトップ・バック材に密着させない構造を採用しています。画像はfホールからセンターブロックを写したものですが、ボディバック材との間に隙間(赤い矢印の先)があるのがお分かり頂けますでしょうか。また、湿気対策として中の部分は材を貼り合わせる前に塗料が塗られています。

正面から見てみましょう。時間を経て変色したようなナチュラルカラーをセレクトしたため、通常のTE Pepperよりもトラッドな雰囲気が漂うルックスに仕上がりました。ラッカーのような大きな変化はありませんが、材自体の色味も少しづつ変化していきますので、ルックス面においても経年変化をお楽しみ頂けます。10年後、20年後の姿が楽しみです。

今回はFreedom CGRでオーダーしたお気に入りの1本をご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。
このオーダーモデルの魅力についてはこれまで記してきた通りですが、実はこの個体、価格改定前にオーダーしたためお買い求めやすい販売価格となっております。ぜひご興味のある方はこの下の商品ページをご覧ください。お近くの店舗での試奏も承っておりますので、ご希望の方は展示店の島村楽器 新宿PePe店までお気軽にご連絡ください。それではこの辺で。

ギター部屋の管理人

野原 陽介プロフィール
学生の頃よりバンド活動、レコーディングなど様々な場所での演奏とヴィンテージギターショップ巡りに明け暮れる。
のちにギタークラフトを学び、島村楽器に入社。
入社後は米国Gibson社、Fender社への買い付けなどを担当。
甘いもの好き。