別室 野原のギター部屋 Vol.51 ”現地カスタムショップで買い付けた特別なエクスプローラー”

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別室 野原のギター部屋 Vol.51 ”現地カスタムショップで買い付けた特別なエクスプローラー”

記事中に掲載されている価格・税表記および仕様等は予告なく変更することがあります。

ご無沙汰をしております。島村楽器別室 野原のギター部屋管理人の野原です。

前々回の特集記事(Vol.49 “Korina Explorer”)で1958 Korina Explorer Reissueを取り上げたばかりですが、今回は別個体の1958 Korina Explorer Reissueのお話です。「またコリーナのエクスプローラーか…」なんていうお声も聞こえてきそうですが、タイトル通りの「特別なエクスプローラー」ですので、ご興味のある方はぜひご覧ください。

Gibson Custom Shop PSL Murphy Lab 1958 Korina Explorer Heavy AGED

今回ピックアップしたのはマーフィーラボによるヘビーエイジド仕上げのエクスプローラーです。何が特別かと申し上げますと、現在コリーナの1958エクスプローラーはVOSのみの生産となっており、マーフィーラボはラインナップにございません。2021年に米国内限定でブラジリアン・ローズウッド指板を採用したCollector’s Edition Korina Explorer Custom Aged(ウルトラライト・エイジング仕様、$29,999.00!)が19本のみ限定生産されましたが、マーフィーラボとしてはそれ以来、ヘビー・エイジド仕様では初の生産だと思います。

ディーラーからのコリーナ材を使用したM2M、PSLオーダーは依然ストップしていますので、現時点ではかなり希少な仕様です。  

エクスプローラーというモデルについてや1958 Korina Explorer Reissueの基本スペック、特徴などについては前々回の特集記事をご覧頂くとして、今回は芸術的なエイジングを中心にこの個体の魅力に迫りたいと思います。

程良く自然な風合いに施された傷がリアルなヘッドストック。好みになりますが、傷の量、箇所ともに秀逸です。画像では分かりませんが、ヘッドストックの表面にも満遍なくウェザーチェックが入っています。

“Gibson”ロゴを寄りで見てみましょう。VOS仕様のエクスプローラーよりもロゴのやけ色が強いのがお分かりになりますでしょうか。これは通常1回吹いているアンティークコートと呼ばれる塗装を3回吹いているためで、ロゴのみならずギター全体が強めの焼け色に仕上げられています。1958年製のオリジナルも個体によってやけ具合は様々ですが、とてもリアリティのある色合いです。側面のウェザーチェックも素敵です。

ただでさえ希少なモデルですが、ご覧の通りヘッドストック裏をブラックにペイントしたスティンガー仕様です。L-5やSuper400、Byrdlandなどの高級機種に採用されたヘッドですが、それ以外のモデルでは極々少数の仕様となります。1958年製のオリジナルでは書籍(Gibson Electrics The Classic Years)に掲載された1本しか見たことがありませんが、他にも存在するのでしょうか。もちろん、リイシューにしても非常にレアな仕様です。

チューナー(ペグ)は年代に準じたシングル・リング。ライト・エイジド、ウルトラライト・エイジドに比べ焼け色の強いチューナー・ボタンが再現されています。ゴールド・ハードウェアのやれ具合もわざとらしさのない自然な仕上がりです。

ネックは1950’s Chunky D-Shapeを採用。59よりもやや厚みのあるネックですが握り心地が良く、演奏しやすいネックです。センターに対して横方向に入ったウェザーチェックはヴィンテージ愛好家の方がご覧になっても頷くレベルの出来ではないでしょうか。1弦側は演奏による塗装の消失をデリケートに再現しています。

1958年当時はブラジリアン・ローズウッド(ハカランダ)が指板に使用されていましたが、現在はインディアン・ローズウッドが使用されています。1950年代のブラジリアン・ローズウッド指板の中にも明い色のものが存在しますが、やはり黒に近い濃い色味を想像される方が多いと思います。ローズウッドの色味と音質に相関関係はないと言われますが、今回の個体のような黒々した指板はつい眺めてしまいます。

ネックとボディの接合部には塗装の割れが再現されています。ネック材とボディ材で伸縮の仕方が異なるため発生する塗装の割れですが、指板材とネック材の接合部や、バインディングの際などにもみられます。ネックグリップ部では短い間隔で入っていた横方向のウェザーチェックのパターンが、ヒール部や肩の部分ではやや大きく異なるものになっています。マーフィーラボのウェザーチェックの入れ方については公表されていませんが、とても自然な仕上がりです。

ヒール部1弦側のエッジはハイフレットでの演奏時に掌が当たって出来る塗装の擦れを再現しています。オリジナルはもう少し丸みの少ない(四角い)イメージですが、個体差と言える範囲の形状だと思います。

ボディバックにはバックルによる傷が再現されています。周辺のウェザーチェックのパターンから、木部が露出しない程度の打痕も再現されていることがお分かりになると思います。また塗装の割れ方からもヴィンテージに近い硬度の塗料が使われていることが分かります。

極一部PUセレクター・スイッチのキャビティをボディバックからあけた個体も存在しますが、リイシューでは一般的なものを再現しています。コントロール・キャビティ・カバーはカバーはゴールド・トップのレスポール・モデルと同じもので製作されています。

ピックガードは白/黒/白/黒の4プライ。ピックガード・スクリュー(ビス)は頭部がフラットのもので、色は異なりますがピックアップ・マウントリング(エスカッション)・スクリューと同じサイズのものが使用されています。

ネック側ピックアップ・マウントリングとピックガードの間に隙間があります。計算によるものなのかは定かではありませんが、当時のエクスプローラーにも見受けられるものですので個人的には嬉しかったりもします。

ピックアップは定評のあるカスタムバッカーを搭載しています。カスタムバッカーは1950年代のピックアップ(Patent Applied For humbucker “PAF”)を再現したもので、それぞれのボビンの巻き数が異なるアンマッチドターン、アンポッティング(ロウ付け無し)の仕様となります。

ブラス製サドルのABR-1ブリッジとアルミ製のストップバー・テールピースもオリジナルに準じたもの。当時の兄弟機種であるフライングVはV型のプレートが印象的な裏通し仕様したが、エクスプローラーはレスポールやES-335と同じ組み合わせです。もしもエクスプローラーも裏通しだったら、どんな形のプレートが採用されていたでしょうか。色々想像したりもしてみますが、やはりABR-1ブリッジとストップバー・テールピースがベストなような気がします。個人的には、僅差で”CUSTOM MADE”プレート+Bigsby B-5でしょうか。

コリーナのエクスプローラーと言えばゴールドのトップハット型ノブのイメージですが、ご覧の通りブラックのものが取り付けられています。初めてカタログに掲載されたエクスプローラーのイラストがまさにホワイト・ピックガード+ブラックのノブの組み合わせでしたので、開封した際に「もしかしたらこの個体は狙っているのかも」と一人で盛り上がっていました。オリジナルに見られるコントロールノブ上面の窪みやエッジの丸みも丁寧に再現されています。

ジャックプレートはピックガードに合わせて積層(マルチプライ)になっています。ギターの側面(下部)の比較的目立たないパーツですのでホワイトのシングルプライでも問題無いように思いますが、しっかりとピックガードに合わせるところが老舗ブランドならではです。

ボディトップからサイドにかけて入った横方向のウェザーチェックがとても良い感じです。

マーフィーラボをたくさんご覧になってきた方であればお分かりになると思いますが、マーフィーラボのウェザーチェックの入り方はヴィンテージのようにモデルやカラーによってパターンが異なります。例えばレスポールやSGなどのソリッド・ボディは横方向、ES-335などのホロウ・ボディは縦方向に入ることが多いのですが、これをしっかりと再現している印象です。

マーフィーラボは塗装の質感や割れ方から温度差を利用しているように見えるのですが、もし仮にそうだとしたらこのウェザーチェックをコントロールする技術は見事なものだと思います。 

ボディ端の傷の再現もリアルです。リアルと言っても実際に傷をつけているわけですが、塗装が剥離した部分の色味など自然な仕上がりです。

今回は現地カスタムショップで買い付けたPSL Murphy Lab 1958 Korina Explorerをご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。

前々回の特集記事にも書きましたが、コリーナ材は、マホガニーやアルダー、アッシュなどの良いとこ取りと表現されることがあるサウンドキャラクターで、アタックの早さやキレの良さ、明るく広がりのある響き、解像度の高さ、適度な暴れ具合とバイト感など、一度鳴らすと忘れられない魅力があります。またマーフィーラボの硬質なラッカーとの相性も良く、今回の一本はよりオリジナルに近いニュアンスの出方を楽しんで頂けるものだと思います。

序盤に触れた通り、現在ラインナップされているコリーナの1958エクスプローラーはVOS仕様のみとなりますので、(私を含めた)コリーナのマーフィーラボ待ちだった皆様は、この機会をお見逃しなく。詳細につきましては下にご用意させて頂きました商品ページをご覧ください。それでは今回はこの辺で。

ギター部屋の管理人

野原 陽介プロフィール

学生の頃よりバンド活動、レコーディングなど様々な場所での演奏とヴィンテージギターショップ巡りに明け暮れる。
のちにギタークラフトを学び、島村楽器に入社。
入社後は米国Gibson社、Fender社への買い付けなどを担当。
甘いもの好き。

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