別室 野原のギター部屋 Vol.46 “管理人が愛用するレスポール・モデル”

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別室 野原のギター部屋 Vol.46 “管理人が愛用するレスポール・モデル”

記事中に掲載されている価格・税表記および仕様等は予告なく変更することがあります。

皆様こんにちは。島村楽器別室 野原のギター部屋管理人の野原です。

以前(別室 野原のギター部屋 Vol.30)に私が愛用しているストラトキャスターをご紹介いたしましたが、時折「普段(私が)弾いているレスポールも記事にしてよ」とお声をかけて頂くことがあります。

私物ともなると皆様のご期待に沿う内容になるか心配で少々気が引けるのですが、この連載に関しては「好きに書いて良いよ」と会社からも言われているので、取り上げてみたいと思います。

2006 Gibson Historic Collection 1957 Les Paul Reissue Factory Bigsby

私が愛用しているのは旧国内代理店が企画(PSLオーダーのようなもの)した1957レスポール・リイシューです。2006年製ですが代理店契約が終了する2007年の春に入荷した個体で、5月26日に当時勤めていた店舗で購入しました。

レスポール(スタンダード)で憧れているのはサンバーストやゴールド・トップなのですが、当時のヒストリックは今ほどヴィンテージに近い色味では無かったため「いつかもっとリアルな色味になったら購入しよう」と考えていました。そんな折に入荷したこの個体。1950年代に極々少数存在したブラックのカラーリングとビグスビーの組み合わせに強く惹かれました。

2006年当時のヒストリック・コレクションも楽器としての完成度は申し分ないですが、今のリイシューに比べると「ヴィンテージの再現度」は低く、よりオリジナルに近付けるために1950年代のパーツや質の高いレプリカ・パーツに交換する必要性を感じるものでした。

このギターにも1950年代のパーツやDead Mint Club(DMC)などが多数搭載されていますが、そのほとんどは購入と同時に決めていたものでした。

ヴィンテージや近年のリイシューに比べて丸みの少ないGibsonロゴ。取り付けられたトラスロッド・カバーはL-5やバードランドなどの高級機種に使用されていたもので、1950年代のオリジナルです。JLのレスポール・ジュニアやECのES-335を見て取り付けてみたくなったのですが、当時はレプリカも無く入手するのが本当に大変でした。

一般的に1950年代前半頃のトラスロッド・カバーはナットとの距離が離れており、年代が進むにつれて縮まったものが多くなります。画像のトラスロッド・カバーの位置は1957年当時としては少ない部類になりますが、1950年代らしい雰囲気があって好きなポイントです。

チューナー(ペグ)は1956年製のクルーソンで、リイシューよりもシャフトが短いためボタンとヘッドストックの距離が近いです。それまではシュリンクしたボタンを再現したチューナーを使用していましたが、弦交換中にボタンが割れてしまったため「どうせ交換するのなら」と古いクルーソンにしました。

同一個体でレプリカからヴィンテージに交換して分かったことは両者で音が異なる事。ブラス製のペグポストなど素材までこだわったレプリカからの交換であれば音(鳴り)の変化は気が付かない程度ではないかと予想していましたので、意外な結果でした。もちろん、バンドメンバーは誰一人気付いていませんでしたが。

1959年前後のクルーソン・チューナーはボタンが飴色に変色しながらシュリンクするものがほとんどですが、1956年製では今のところ見たことがありません。割れそうな雰囲気や兆候も見受けられないので、この個体も大丈夫だと思います。約70年前の古いチューナーですが動作も滑らかです。

シリアルナンバーは6桁。2006年の後ろの方で作られた個体なのだと思います。インクはレスポールカスタムと同じイエローのものが使用されています。

指板はローズウッド。2006年はマダガスカル・ローズウッドを使用していた時期だと記憶していますが、このギターが該当しているかは覚えていません。木目や油分である程度の察しはつきますが、私物なので音さえ良ければ何ローズでも良いかなと思っています。

2008年にレイシー法が改正されマダガスカル・ローズウッドの輸入にも強い規制がかかったため、2009年頃ギブソンはマダガスカル・ローズウッドの取り扱いをやめます。恐らく2009年、モンタナ工場の20周年を記念して20本リリースされたLuthier’s Choice Advanced Jumbo 20th Anniversary Madagascar Rosewoodあたりがラストではないでしょうか。

ポジション・マーカー(インレイ)の模様も最近のものの方がオリジナルに近い印象です。目に見えない部分ですが、2006年のトラスロッドは細身のものにチューブを被せたものを使用しており(ヴィンテージや現行品はチューブレスの太いトラスロッドを使用)、指板の接着も膠(ニカワ)ではありません。

気合いの入った一部のファンの方はシアトルのギター工房”Dave Johnson Restorations”に預けてトラスロッドの入れ替えや指板の張り替え、リフィニッシュなどを行っていましたが、このギターに関してはオリジナルの塗装に手を加えたくなかったためストックの状態で使用しています。

ボディ・バックの様子。この1957レスポール・リイシューはグロス仕上げのモデルですので、傷は長年の使用で付いたものになります。画像には写っていませんが、ボディ・バックのエッジ部にも多数の傷が付いています。

少し見辛いですが、コントロール・キャビティのカバーは年代に準じたブラウン・カラーのものが取り付けられており、ボディ・カラーのブラックに対して良いアクセントになっています。

ネック・ジョイント付近、1弦側のボディの角の塗装が擦れて無くなりマホガニーが露出しています。ハイフレットでの演奏時、この部分に掌が当たるためです。

ヒール部を見るとマホガニーの導管が凹凸になって現れています。これは塗料(主に有機溶剤)が揮発して痩せたためで、購入時はここまで出ていませんでした。

何となく塗装が剥離しやすく、ウェザーチェックも入りやすそうな状態に見えるかもしれませんが、ヒストリック・コレクションの塗装はある程度の柔軟性があるため、ヴィンテージの様なウェザーチェックの入り方や傷の付き方はほぼしません。もしもこの塗料がマーフィー・ラボのものであれば、少し雰囲気が異なっていたかもしれません。

※リイシューの塗装についてはVol.39 “Gibson Custom Shopの塗装と仕上げについて”をご覧ください

以前は演奏するバンドやジャンルに合わせてストラップの長さを変えていたため数か所で木部が露出しています。ベルトのバックルを出して演奏したことは一度も無いのですが、それでも結構な剥がれ具合です。

可能な限り綺麗な状態を維持したい気持ちもありますが、大切に使い込まれてきた職人の道具の様な味わい深い一本になってくれたら良いなと思っています。

2006年当時のヒストリック・コレクションに搭載されていたプラスティック・パーツは現在のものほど形状や色味を再現しきれていませんでしたので、そのほとんどをDead Mint Club(DMC)製のものに交換しています。

トグル・スイッチ・チップは何種類かの形状と色味がラインナップされていましたが、より一般的なものを選択。スイッチ・プレートはプレーン(ノン・エイジド)を取り付けましたが、いつの間にか「RHYTHM」と「TREBLE」の文字は消えてしましました。加えてスイッチ・リングもDMC製のものに交換しています。

ピックガードも交換しているのですが、こちらはワンオフで製作して頂いたものだと記憶しています。もう何年も前の事なので正確には覚えていませんが、バーストのピックガードから外周をトレースし、ピックアップ・マウント・リングとスクリューの位置のみ出荷時(ヒストリック)のピックガードに合わせていたはずです。

ピックガード・ブラケットのスクリューは「+」から当時のヒストリックには無い「-」のものへと交換しました。交換当初は「ヴィンテージの様な雰囲気で良いな」と思っていましたが、近年のリイシューはほとんどが「-」のものを使用していますので、すっかり旨味は薄れました。

ピックアップ・カバーとマウント・リングはDMC製のエイジド仕様です。オリジナルPAFカバーの上面はもう少しルーズと言いますか、ここまで綺麗にフラットではないのですが、それでもポールピース周辺やエッジの形状など他には無い再現度だと思います。

ピックアップ・マウント・リングはかなりインパクトのある販売価格でしたが、形状や質感、ピックガードより僅かに明るい特有の乳白色など今見てもとても良い雰囲気です。

ピックアップはネック側、ブリッジ側ともにセイモア・ダンカン氏に巻いてもらったものを搭載しています。

このギターはアンプに繋がない状態で鳴らすと立ち上がりが良く明瞭な音がしましたが、アンプに繋いだとたんに窮屈な箱に押し込められたような音に聞こえたため、試奏の段階でPAF系のピックアップに交換することを考えていました。

候補としてトム・ホームズも考えましたが、以前古いマーシャルで試したアンティクイティの音が良い印象として頭に残っていたため、セイモア・ダンカンを選びました。

アンティクイティが最もPAFに酷似しているという訳ではありませんが、どんなにPAFに近い特性のピックアップをヒスコレに乗せても1950年代の音を出す事は出来ないので、素直に「弾いた時の気持ち良さ」を優先しました。

わざわざセイモア・ダンカン氏にオーダーをして巻いてもらったのにはいくつか理由がありますが、その一番の理由がボビンの色です。私が希望していたダブル・ホワイツ(ダブル・クリーム)のピックアップは商標の問題で生産されていませんでしたが、カスタムオーダーであれば入手可能ということでした。

もう一つの理由がサウンドで、市販のアンティクイティはやや暗めで渋いキャラクターに聞こえたので、更に解像度を上げるために僅かに出力を抑えてもらいました。

交換当初は敢えてボビンを見せずに2つともピックアップ・カバーを取り付けて使用していましたが、「そもそも何のためにオーダーしたんだっけ…」と少し虚しい気持ちになったため、暫くしてやめました。

ブリッジはストックのまま使用しています。1957年当時はブリッジ・サドル脱落防止のワイヤーはありませんでしたが、この頃のリイシューには付いています。ディテールに拘るのであればオクターブ調整用スクリューも含めて手を加える余地が多分にありますが、今さらな感じもしているので恐らくこの先もこのまま使用すると思います。

出荷時からビグスビーB-7トレモロユニットが搭載されていた個体ですが、わざわざ1959年製のB-7に交換しています。一見すると現行品と変わらないように見えますが、材質や形状、音質が異なります。

「Bigsby PATENT D.169,120」と入ったプレート部が現行品よりも細身で、両サイドのアウトラインが内側に絞られているのがお分かりになりますでしょうか。1960年以降はより直線的で幅のあるデザインへと変更されますので、この細身のシルエットが1950年代の特徴の一つとなります。

参考までに、1960-1961年製(ES-345)、1964年製(ES-335)のビグスビーB-7と比べてみましょう。

正面からの画像では無いので見辛いかもしれませんが、1959年のものより幅が広いのがお分かり頂けますでしょうか。

決して1960年以降および現行のビグスビーB-7が格好悪いというわけではありませんが、1950年代のリイシューには細身のシェイプのビグスビーが良く似合います。

余談ですが、2023年に発売されたB.B. King “Live at the Regal” ES-335を皮切りに、一部のモデルに現行品をリシェイプした細身のビグスビーが搭載されました。

これをきっかけにビグスビー社から精巧なリイシューが発売されると良いのですが、新しい型を用意するだけでかなりのコストがかかるため難しいようです。

細かい部分も見てみましょう。アームを取り付けているスクリューですが、1956年頃までは「-」、1957年~1959年頃(1960年の一部のモデルを含む)は「+」、1960年以降はプレーンの丸頭が使用されています。

ボディ・トップに固定するスクリューは「+」のラウンド・ヘッド・スクリュー(丸頭ねじ)で、1959年の途中までは「-」のものが使用されていました。現行品にはサイズの大きいレイズド・カウンターシンク・ヘッド・スクリュー(丸皿ねじ)が使用されているため、結構雰囲気が違って見えます。

ヴィブラート・シャフトをボディ・エンド側から見た画像です。シャフトに巻き付いている各弦の下に穴が開いているのが確認できます。これは弦(ボールエンド)を掛けるピンをシャフトに固定するためのものなのですが、古い時代のビグスビーにはあって近年のビグスビーにはありません。

前述のボディトップのスクリューと合わせて知っておくと、年代物のギターを見る時に少し役に立ちます。 

ボディ・エンドの留め具には「-」のスクリューが使用されています。「+」と「-」が混在する過渡期ならではです。

1958年の途中までは3本のスクリューで固定する三角形の留め具が使用されていましたが、以降は4本のスクリューで固定する画像の形状のものになります。

コントロール・ノブはDMC製Top Hat Knob Ver.1のエイジドに交換しています。ヴィンテージと同様にブラス・パウダーを使用したもので、エイジドはノブの縁に緑青が出ている様子まで再現されているのですが、残念なことにボディカラーがブラックなので見え辛いです。

後にヴィンテージと同じ様にブラックライトに反応するVer.2が発売にされVer.1の下取りキャンペーンも行われていましたが、買い替えずにそのまま使用しています。本体がヴィンテージならともかく、ヒスコレですので。

コンデンサ(キャパシタ)は以前の記事でも取り上げた1950s NOS Cornell Dubilier Tiger(.02uf 400v)に交換しました。

先にコリーナのフライングVに搭載していたのですが、交換した際とても良い変化が見られたのでこのレスポールにも搭載しました。具体的には音の解像度が上がったと言いますか、良い意味で音の間に隙間ができたように感じます。

レスポールのコンデンサと言えばスプラグ社のバンブルビーが有名ですが、個人的にはゴールド・トップに採用されていたCornell Dubilier社のGrey Tigerや、今回のTigerの方が好みかもしれません。もちろん本体との相性もありますので一概には言えませんが、所有するフライングVとこのレスポールに関しては満足しています。

今回は私物のレスポールをご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。

時折「2006年当時のヒスコレが現在のリイシューと同じスペックだったら、こんなにも苦労して手を加えることはなかったんだろうな」と考えることもありますが、手を加えた分だけ更に愛着が湧いたのも事実です。

新品で購入して早17年、私にとっては既に替えのきかないレスポールになっていますので、この先も大切に弾き続けていきたいと考えています。

最後にスペックをまとめましたので、ご興味がございましたらご覧ください。それでは今回はこの辺で。

【Spec】
Body
Top:2-Piece Maple
Back:Mahogany

Weight Relief:None
Finish:Nitrocellulose Lacquer / Gloss

Neck
Material:Solid Mahogany
Profile:1957 Rounded
Fingerboard Material:Rosewood
Joint:Long Tenon

Hardware
Finish:Nickel
Bridge:ABR-1
Saddle Material:Nickel-plated Brass
Tailpiece:1959 Bigsby B-7
Tuning Machines:1956 Kluson Deluxe Tuner
Pickguard:Custom Made
Truss Rod Cover:1950s L-5 Truss Rod Cover
Control Knobs:DMC Top Hat Knobs Ver.1 Aged
Switch Tip:DMC Round Switch Tip
Switchwasher:DMC Knurled Switch Ring Nickel Aged
Switch Plate:DMC R/T Switch Plate 59 Cream Plain
Jack Plate Cover:DMC Thinner Jack Plate → Gibson PRJP-050
Control Covers:Brown Royalite
Strap Buttons:Aluminum
Mounting Rings:DMC M69 Pickup Rings BL Aged
Pickup Covers:DMC Pickup Cover 59 Nickel Aged

Electronics
Neck Pickup:Seymour Duncan Custom Hand Wound Pickups
Bridge Pickup:Seymour Duncan Custom Hand Wound Pickups
Controls:2 Volume, 2 Tone, CTS 500K Audio Taper Potentiometers, 1950s NOS Cornell Dubilier Tiger Wax Tone Capacitors .02uf 400v

Pickup Selector:3-Way Switchcraft
Output Jack:1/4 Switchcraft

ギター部屋の管理人

野原 陽介プロフィール

学生の頃よりバンド活動、レコーディングなど様々な場所での演奏とヴィンテージギターショップ巡りに明け暮れる。
のちにギタークラフトを学び、島村楽器に入社。
入社後は米国Gibson社、Fender社への買い付けなどを担当。
甘いもの好き。

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