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別室 野原のギター部屋 Vol.42 “どこまでがオリジナルかを考える”

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別室 野原のギター部屋 Vol.42 “どこまでがオリジナルかを考える”

記事中に掲載されている価格・税表記および仕様等は予告なく変更することがあります。

皆様こんにちは。島村楽器別室 野原のギター部屋管理人の野原です。

島村楽器では一部の店舗で楽器の買い取りや下取りを行っており、時としてヴィンテージと呼ばれる年代の楽器をお申込み頂くことがあります。個人的に好きなジャンルの楽器で学生の頃より専門書を読み漁っては様々なモデルを手にしてきましたが、知れば知るほど自身の知識の浅さを痛感する奥深いジャンルです。

楽器の査定をする際にはGruhn’s Guide to Vintage Guitars(グルーンズ・ガイド)やブルー・ブックをはじめとする各種資料、ブラックライトなどを用いて行いますが、何より自身の経験や知識を過信せず注意深く真摯に行う姿勢が大切だと考えています。もちろん、楽器そのものや歴代のオーナーに対する敬意も忘れません。(ヴィンテージのみならず、全てのお客様の楽器に対して言える事ですが)

今回は当店でストックしているヴィンテージのメロディメーカーを皆様と一緒に見ていきたいと思います。

シリアルナンバーから1964年に出荷されたと考えられる個体です。当時のメロディ・メーカーはブリッジ・ピックアップのみのものも生産されていましたが、こちらはネック側にもピックアップが搭載されたデュアル・ピックアップ仕様となります。

メロディ・メーカーは1959年に発売されたモデルで、シングル・カットのマホガニー材スラブ・ボディ、サンバースト・カラー、ドットのポジション・マーカーなど1954年に発売されたレスポール・ジュニアに似ていましたが、ボディ厚1.3/8インチとジュニアの1.4インチよりもかなり薄い仕様となります。

ダブル・カッタウェイに変更されたのは1961年で、各種レスポール・モデルも行われました。

レスポール・ジュニアのヘッド・ストックは左右に耳張りされた一般的なギブソンのシェイプですが、メロディ・メーカーはスリムなヘッドストックが特徴的です。トラスロッド・カバーはジュニアでも採用されている黒のシングル・プライです。

ヘッド・ストックに取り付けられた1弦ペグのブッシュをご覧ください。他のものよりも輝いて見えます。
※写真では分かりづらいですが、メッキの質感や色が異なります

1964年当時のギブソンのハードウェアはペグ・ブッシュも含めてニッケルのものを搭載していました。ニッケル・メッキは酸化しやすく、白く曇り、やがて錆が出ますが、同じシルバーのメッキでもクロム・メッキは酸化しづらい特性を持っています。

今回の個体は1964年のシリアル・ナンバーが打たれていますので、1弦のみクロム・メッキのブッシュが取り付けられて出荷された可能性はほぼ無いと考えるのが自然です。

ここからは推測になりますが、後年何らかの理由で紛失してしまった1弦ペグのブッシュを直そうとしたが、ニッケル・メッキのものが無かったためクロム・メッキのものを取り付けたのだと思います。

交換されたブッシュがどのようなものなのかを特定するにはヘッドストックから取り外し、特徴の観察と計測をしなくてはなりませんが、本体の査定においては交換されている事実が分かれば良い点、また木部からの取り外しによるリスクを考慮し特定はしていません。

チューニング・ペグはオープン・バックの3パー・プレートで、1964年のメロディ・メーカーに搭載されていたものと同じものになります。やや変色したプラスティック・ボタンがとても良い雰囲気です。

慎重に取り外してパーツに隠れた木部を確認しましたが、他のものが取り付けられた形跡が無かったためオリジナルと判断しましたが、「確証」はございません。

「確証が無い」とはどういうことなのか。

例えば工場出荷時から取り付けられていたチューニング・ペグに不具合が出たとします。当然演奏するには交換をしなくてはなりませんが、このギターを大切に想うオーナーが1964年頃の同じチューニング・ペグを探し出し取り付けた可能性も0では無いという事です。もし仮にそのような過去があったとしても、交換したオーナー自身が手放す際に申告しなければ「交換歴無し」「オリジナル」として判断される事の方が多いと思います。

完成後誰の手にも渡らずに工場で眠っていた個体であれば「フル・オリジナル」の状態と言えますが、第三者に渡った時点でオリジナルのパーツが「出荷時の」オリジナルである「確証」を得るのは非常に難しくなります。

小売店で働く人間としてあらゆる可能性を考慮した上で状態を見極め、正しく客観的にお客様にお伝えできるよう日々努めていますが、自身が消費者側になった際は「もしも工場出荷時のままだったらロマンがあるなぁ」ぐらいに程良く緩く考えて楽しむようにしています。

フレットはサイドの足の部分に塗料が乗っているためオリジナルと判断しました。擦り合わせは行われていると思いますが、まだフレットに高さがあるため弾きやすいです。

ネック・ジョイント部。ネックのリセットや修理歴の無い綺麗な状態です。

ピックアップはオリジナルのPU-380。スカイラークやES-120Tに搭載されていたものです。この時代のハムバッキング・ピックアップと同じ42AWGワイヤーで巻かれたピックアップでマグネットもアルニコを採用しています。ピックアップ・カバーの削れ、指板との間に入れられた「MELODY MAKER」の文字が良い雰囲気ですね。

ブリッジ/テールピースはコンペンセイテッド・テールピースです。1962年頃に登場したパーツで、1950年代のラップ・アラウンド・ブリッジには無かったピッチを正確にするための起伏が設けられました。1962年当時は一般的に3弦も巻弦でしたが、現代ではプレーン弦が主流ですので微妙にピッチが合いません。

素材は1950年代と同じアルミニウムです。スタッド・ボルトの武骨さとテールピースの丸みの対比が美しいです。

裏を見てみましょう。両端のキャビティの中にはナンバーが入れられています。こちら側には「TPBR8513」。

反対側が「12809」です。

コントロールは2Vol、2Tone、1ピックアップ・セレクター・スイッチとなっており、ジャックも含めて全てピックガードに取り付けられています。

こちらはピックガード・ビス。ビスの頭部はフラットになります。ピックガード・ビスと言えば今では丸い頭のビスが多く使われていますが、1958~1959年製のフライングVにもこのタイプが使用されていました。

ということで、ピックガードを開けてみましょう。

ポット・デイトを確認すると1963年製であることが分かりました。1964年のシリアル・ナンバーを持つ個体ですが、1年違いのポットが使用されることは珍しくなく、ハンダの状態もあわせてオリジナルと判断しました。黄色いチューブが被せられたアース線の取り回し(結線の仕方や長さ)なども同時期のメロディ・メーカーで見受けられるものです。

その他セレクター・スイッチ、ジャック、コンデンサもオリジナルと判断しています。

ピックガードで隠れていた部分は1トーン明るい元の色を残しています。やや浮かせて取り付けられているテールピースの下もご覧のとおり。

ポラリス・ホワイトもそうですが、ギブソンのソリッド・カラーのフィニッシュは大柄で特徴的なウェザーチェックが入るイメージを持っています。細くて小さいウェザーチェックも確認できますが、一本一本の割れが太く凹凸もしっかりと出ています。

ポットの背中から出ている黒い線はアース線で、テールピースのスタッド・アンカーに繋げられています。年代物の配線材は酸化などで脆くなっていますので、ピックガードを開ける際は現行品以上に注意します。

ピックアップの底面にはプラスティックのカバーが取り付けられています。1964年は黒いカバーの方が多く見受けられますが、この個体には1950年代や1960年代初頭に使用されていた白いものが取り付けられています。カバーを外すと、マグネットとボビンを確認することが出来ます。

ピックアップのリード線はピックガードに留められています。留めているのは(恐らく)白いマスキングテープと細長い黒いテープ。実はこうして記事を書いている今も答えが導き出せていないのですが、皆様はこのテープが製作時に貼られたものかどうかお分かりになりますでしょうか。

デュアル・ピックアップのメロディ・メーカーは写真の黒いテープでピックアップのリード線を2か所留めているものがほとんどで、いずれもリード線に直交するような角度で貼られています。

今回の個体に貼られた黒いテープは材質や幅から当時の物で間違いないと思うのですが、白いマスキングテープだけは分からず、調べてもこれを使用した個体を見つけることが出来ませんでした。

例えば、組み込み時に黒いテープが見当たらず、手元にあったマスキングテープで代用したら黒いテープが見付かったため、一応マニュアル通り黒いテープも貼った。なんてことも考えられますが、飽くまで想像ですので根拠は全くありません。

もし同じように白いマスキングテープが使われたメロディ・メーカーをご覧になったことがある方は、何年頃の個体だったかお教え頂けると嬉しいです。

こちらはブリッジ側ピックアップの写真。ボディーの塗料がピックガード材に付着しています。

ボディ側を見ると、ボディ材のマホガニーが露出しています。塗装の断面を見ると、着色層とトップコートを含めた塗膜の厚さを確認することが出来ます。

ピックガードやパーツに塗料が付着しないに越したことはないですが、私はこのような状態を理由に査定額を減額することはしません。このギターが過ごしてきた環境の影響が0とは言いませんが、当時の塗料とピックガードの性質、構造によるところが大きいと考えるためです。

ネック側ピックアップの高さを調整するビスは「+」のものが使用されています。その特徴からオリジナルものと考えられます。

ブリッジ側のビスは「-」のものが使用されています。1964年製の多くはピックアップ側、ブリッジ側ともに「+」のものが使われていることが多いですが、この個体のように「-」のものが使用されることもあります。
※他には1960年、1962年の個体で使用されているのを確認したことがあります

昔のラッカーは汗やヤニ、その他様々な要因で白く曇りやすいものですが、もともとは濡れた様な艶のある光沢が美しい透明度の高い塗料です。前述の通り大柄なウェザーチェックや使用による傷こそありますが、光沢の残った綺麗なコンディションをキープしています。

塗装やプラスティック・パーツ、金属パーツの質感やコントラストが素敵です。現行品には現行品の美しさがありますが、当時のものでしか得られないものがあるのも確かです。

今回は皆様と一緒に1964年製のメロディ・メーカーを見てきましたが、いかがでしたでしょうか。

いつもであればこの記事の下に商品ページのリンクを用意するのですが、私の文章力では正確にこの個体の情報をお伝えすることが出来ないと判断し、島村楽器のオンラインストアをはじめ各種ECサイトでの販売を控えさせて頂きました。商品の詳細などにつきましては私から直接ご案内させて頂きますので、ぜひ新宿店へお越しください。

もちろん通信販売にも対応いたしますので、お越しになれない方は新宿店にお電話頂くか、島村楽器のお問い合わせフォームからお問い合わせください。ご不便をおかけして申し訳ございませんが、よろしくお願いいたします。

いつもと違う流れだったので大切なことを書き忘れていましたが、もちろんサウンドもばっちりです。立ち上がりの良さや反応の良さ、はっきりとした音像など、ヴィンテージ特有の良い意味で派手な音が堪能できる1本です。

それでは今回はこの辺で。

ギター部屋の管理人

野原 陽介プロフィール

学生の頃よりバンド活動、レコーディングなど様々な場所での演奏とヴィンテージギターショップ巡りに明け暮れる。
のちにギタークラフトを学び、島村楽器に入社。
入社後は米国Gibson社、Fender社への買い付けなどを担当。
甘いもの好き。

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