いつも島村楽器をご利用いただき、誠にありがとうございます。
島村楽器静岡パルコ店、店長兼バイヤーの平林です。
2024年2月初旬にPRS Factory Visit 2024に参加し、PRS社やUSAディーラーとのミーティング、現地視察、Private Stockオーダーにあたっての木材選定を行ってまいりました。
先日公開したレポート前編はお楽しみいただけましたでしょうか?
今回は後編ということで、お待ちかねのPrivate Stockオーダーの様子をご紹介いたします。
Private Stockオーダー
PS用の木材が保管されているThe Vaultにて、ウッドマテリアルをセレクトしていきます。
しばらく茶色や白い木材の画像が続きますので、何卒ご了承くださいませ。
The Vaultには世界最高峰の木材が集結しており、各々が素晴らしい個性を持っていますが、その中でも更に特別なマテリアルかつイメージするギターにマッチするコンビネーションを見つけていきます。
すでに厳選されているとはいえ、重量がある木材を1枚ずつ入念にセレクトする過程では頭と身体をフル活用します。
海外輸出用のブラジリアンローズウッド・ネック材も豊富にございますが、今回は別のアイディア・要望をPRSに伝えていますので、あえて使用を見送っています。
The Vaultの中を一通り見て全体の様子をつかんだ後、ボディ用のトップ/ミッド/バック材、ネック、フィンガーボード、ヘッドストック・ベニア材を全てセレクトします。
初めにコア材を選定いたします。
ブラジリアンローズウッドと双璧をなす人気のマテリアルのコア材ですが、ハイグレードな木材は近年市場で枯渇が進み、ギターに限らず価格が高騰しています。
PRSのようにアーチトップで使用可能なマテリアルとなると、さらに希少です。
今回は世界屈指の木材ストックを誇るPRSらしい、最上級のカーリーコアをセレクトすることができました。
セレクトしたコア材をMilesとモデル別のテンプレートを使用しながら、木材の色や表情、サイドからも目の出方を見て、削り出した後の杢を想定しつつ、表と裏、上下を変えて最適なポジションを探します。
ベストな位置が決まり次第、マーキングしてフィニッシュです。
全てのコア材を入念に確認した中で間違いなくベストというマテリアルを2枚セレクトいたしました。
先のトップ材にマッチするネック材ですが、今回PRSへコアのネック材をご用意いただけないか事前にオファーしていました。
ハカランダネックよりも圧倒的に数が少なく、オーダーシートの選択肢に存在すらしないコアネックですが、なんと2本分ご用意いただきました。
ヘッド角があるPRSですので厚みのある角材ですが、軽量でトーンウッドとしても最適と感じさせてくれます。
フィンガーボード、ヘッドストックもコアで統一します。
ボディバック用のコア材はさすがにストックが無いということで、製作までに間に合えばオファーいただく約束をいたしました。
PSオーダーのレギュレーションは都度変化がありますので構想していたことが全て出来るということはほとんど無く、臨機応変な対応力が求められます。
オールコアのPSという可能性を残しつつ、ボディバック用のマテリアルをセレクトいたします。
全てのマホガニー材を確認しましたがイメージするマテリアルが見つからないため、Milesに交渉したところ、ストックから探してきてくれました。
こちらの素晴らしいフィギュアド・マホガニーですが、サウスアメリカン・マホガニーです。
いわゆるホンジュラスマホガニーと同様の南米産マホガニーかつ全体に杢が入った貴重なマテリアルですので、コアトップ以外のモデルにも使用いたします。
さらにThe Vaultを散策していると、名前の記載が無いマテリアルが保管されています。
Milesに確認を取るとハリケーン・マリアで倒壊した建物から取られたプエルトリコ産のマホガニーで、 購入後に製材したところ見事なフィギュアド杢だったという逸話を持つレアウッドでした。
今後2度と入荷しないマホガニーということでしたので、急遽セレクトして国内初オーダーを行います。
距離もホンジュラスに近い、南米産のマホガニーです。
続いて、メイプル材をセレクトいたします。
PRSといえばメイプルトップを思い浮かべる方も多く、ギターの顔となる非常に重要なマテリアルですので、豊富なストックから吟味します。
マテリアルに合わせてカラーを決めるか、カラーに合わせてマテリアルを決めるのか状況によって様々ですが、完成形をイメージしながら選定します。
Milesが「SICK!」と呟いたワンピースメイプル材を使用します。
ギターという楽器において最も人気が高い木材の一つであるキルトメイプルですが、世界的に良質なマテリアルが減少し、価格も高騰を続けています。
メイプル材の選定を進める中で「DQ=Dirty QuiltedMaple」という表記の木材を見つけました。
PRSと言えば美しく整った杢を想像される方が多いと思いますが、Paul’s Dirtyやリクレイムドモデル等、一見するとダーティーな素材の良さを引き出すことが得意なメーカーでもあります。
野生的で素晴らしい表情を持った2枚のメイプル材をセレクトした後、マテリアルからイメージした希望カラーをMilesへ伝えながら、細かく確認してどちらにするか決定いたします。
「Wide&Deepなグレインで個人的にこれが好き!」とMilesが言うワンピース材を使用することにしました。
自分自身の好みだけでなく、PSを知り尽くした専門家のアドバイスを素直に聞くことが、最終的に良いギターに仕上げる秘訣だと思います。
こちらのワンピースキルトメイプル材の指板にはブラジリアンローズウッド材を合わせます。
インターナショナル・ハカランダ指板材の中から、一見するとエボニーのような漆黒のブラジリアンローズウッドを選んでいます。
上の画像の組み合わせで1本のギターが完成いたします。
Quilted Maple Body Top&1P Burl Maple BackにAqua Violet Reverse Dragon’sBreathカラーをステインする、国内外でも初の試みです。
ボディトップの向きもリバース・ドラゴンズブレスに合わせて配置しています。
楽器を製作するにはルックスだけでなくサウンドも重要です。
タップトーンで木材本来のサウンドを確認して、モデルに合わせて最適な木材をセレクトしていきます。
昨今のPSではモデルごとにフレット数やスケール等が限定され、自由度が下がっています。
これはPRSが様々なギターを製作してきた経験を踏まえて、Paul自身がPRSのサウンドを追求するためのポジティブな変更です。
画像はカメラを向けるとお茶目な表情を見せるMilesです(笑)
こういったことを繰り返しながら時間をかけて全てのマテリアルを選び抜き、Miles、Tim、大坪氏を交えながら細かなスペックをミーティングします。
一つのスペックを変更するだけで完成したギターの印象が大きく変化するため、今までの経験を活かしつつ細部まで拘りながら、最新かつ斬新な要素も取り入れてオーダーします。
現在、バードインレイのアウトラインゴールドは金の価格が高騰していることで選択不可でした。
ギター業界も世界情勢に大きく影響を受けます。
カラーサンプルを参考にしながら新色が無いか確認した際、2色のニューカラーがあるとのこと。
実際に確認したところ素晴らしいフィニッシュでしたので、一部のモデルに採用いたしました。
完成品にご期待くださいませ。
こちらが今回、静岡パルコ店オーダー用にセレクトしたマテリアルです。
翌日にはディーラーネーム入りのタグを用意され保管いただきます。
同じ棚にはUSAディーラーがセレクトしたマテリアルもストックされています。
それでは、今回のFactoryVisitでオーダーした5本をご紹介いたします。
Product Introduction
Custom24 Semi-Hollow
<SPEC>
Koa Top, Koa Neck, Koa Fingerboard, and Natural Smoked Burst
SantanaⅡ
<SPEC>
Koa Top, Koa Neck, Koa Fingerboard, and Natural Smoked Burst
Custom24
<SPEC>
Quilted Maple Body Top, 1P Burl Maple Back, 1P Ash Center Curly Maple Neck&FB, and Aqua Violet Reverse Dragon’s Breath
McCarty594 Trem Semi-Hollow
<SPEC>
1P Dirty Quilted Maple Top, South American Mahogany Back, Brazilian Rosewood FB, Figured Mahogany Neck, and Dirty Blonde Color
McCarty594 HollowbodyⅡ
<SPEC>
1P Quilted Maple Top & Back, 1P Ash Center, Stained Curly Maple Neck & Quilted Maple FB, P-90 PU, and Blue Steel Glow Color
製作過程における事情で木材が変更になる場合やコア材を使用したモデルは上述の通り、スペックが変更になる可能性がございますので予めご了承ください。
2024年末以降、静岡パルコ店に順次入荷予定となっておりますので、ぜひご期待くださいませ。
Thank you Paul Miles!!!
現地3日目にニューヨーク州から「ish Guitars」が来るという情報を入手。
日ごろからInstagramで見ていたショップだったため、PRSへ紹介してほしいと依頼してお会いすることができました。
PSオーダーの着想等に関して意見交換を行う中で、日本からも多くインスパイアされているとお話しされていました。
貴重なお時間をありがとうございます。
ジェイミー、ダン、グレッグ、ティム、ジェフのPRSチームとディナーです。
1985年創業当時の話や現在の状況を伺いながら、要望等を伝えます。
KENT ISLANDは汽水域のため海産物が美味しく、オイスターも最高です。
現地楽器店視察
現地3日目はワシントンD.C.やPRSの地元楽器店を視察します。
1店舗目はMattʻs Guitar
SNSも面白いので、ぜひご覧くださいませ。
2店舗目は、1958年総合のChuck Levinʼs Washington Music Center
こちらで個人的な買い物をしたらTシャツを頂きました。
3店舗目は、Paulも通うPRSの地元楽器店BAY TUNES GUITARSです。
それぞれが個人経営店なのですが、想像を超える売上を誇ります。
最終日のディナーは、個人的にPRS出張といえばというお店「The JETTY」でハンバーガーを食べて仕事納めです。
いつもは現地でもそこまで食べないハンバーガーをFIVE GUYSを含めて3回も行っていました。
やっぱり美味しいんですよね。
出国→帰国
ホテルに戻り仮眠を取った後、6時に集合してUBERでダレス空港に向かい、羽田に向けて離陸します。
帰りは14時間のフライトでしたが、無事に帰国しました。
長い様であっという間の楽しい出張も、これにて終了です。
アテンド頂いたPRSスタッフの皆様、サポート頂いた参加ディーラーの皆様、誠にありがとうございます!
この場を借りて厚く御礼を申し上げます。
国内外の楽器業界、音楽シーンが盛り上がるように邁進いたしますので、今後とも島村楽器をよろしくお願いいたします。
PRS Factory Visit 2024 Overview
前編でもご紹介しましたが、ライトにも行程の様子をお楽しみいただけるよう動画も作成いたしました。
併せてご覧くださいませ。