清々しい秋晴れが続く日々、皆様いかがお過ごしでしょうか。島村楽器別室 野原のギター部屋管理人の野原です。
島村楽器にはHISTORYというオリジナルブランドがあるのですが、皆様はご存知でしょうか。
最新のテクノロジーや革新的なマテリアルを適材適所に導入し、高品位なサウンドにこだわったギター&ベース作りを目指すブランド(公式HPより)で、私は「つくりが良い」「精度が良い」「弾き易い」「癖が少ない」「ノイズが少ない」「サウンドバランスが良い」といったイメージを持っています。
試奏されたお客様からも「優等生だね」とご感想を頂戴しますので概ねそんなイメージだと思うのですが、今回皆様にご紹介しますのは、私の趣味嗜好を盛り込んで製作したブランドイメージを度外視したHISTORYです。
HISTORY HST/62-Premium Limited Antique Fiesta Red
HISTORYと言えばグロス仕上げですが、ご覧の通りエイジングを施しました。
ベースになっているのはHISTORY HST/SSH Premiumというモデルで、個人工房で製作されるハンドメイドの最上位モデルとなります。木部の露出パターンはテキサス州出身のギタリストが愛用した「Number One」を参考にアレンジを加えたもの。もともとHST/SSH Premiumはニトロセルロースラッカーで薄く仕上げていますが、より木部を鳴らすために大きく塗装を剥ぎました。
エレキギターは「本体の振動が大きければ大きいほど良い」というものでは無く、狙った音色や響きにするために、どの部分をどれ程鳴らすかが重要だと考えます。国産のギターは綺麗にまとまったサウンドになる傾向がありますので、オープンで音楽的な揺れがあり、雑味のあるサウンドへ寄せるためにこのような仕上げにしました。もちろん、見た目が格好良いことが第一ですが。

フィエスタ・レッドだけというわけではありませんが、カラーは調色する人の解釈の数だけバリエーションが存在するため、理想通りの色味で仕上げてもらうのが大変難しい印象です。現存するオリジナルのフィエスタ・レッドも過ごしてきた環境で色味が異なるため、ただ「1960年代のフィエスタ・レッドで」と注文しても理想通りになるとは限りません。
このギターを製作された方も数多くのヴィンテージに触れてきた方ですので、色味が私のイメージから大きく外れることはないだろうと考えていましたが、一応「ガソリンの匂いがしそうなスモーキーなフィエスタレッドが好きです」とお願いしました。
「強いて日本の色で言うのであれば、古びた鳥居の色ですかね」と添えた言葉が参考になったかは分かりませんが、これ以上ない程イメージ通りのカラーに仕上げて頂きました。

このギターをX(旧Twitter)にポストした際「(HISTORYのロゴが)スパロゴ風だったら…」というご意見を頂戴しました。本当に仰る通りで、私も同じことを考えましたのでコメントを拝見した時は嬉しくなりました。それでも最終的に見慣れた通常のロゴを選んだ理由は、今回のモデルにHISTORYならではのモダンなスペックを残したためです。今後モダンな要素を一切排したヴィンテージ・レプリカを作る機会がありましたら、スパロゴ風にチャレンジしてみたいと思います。

ナットはHST/SSH Premiumと同じ厳選された無漂白の牛骨ナットを使用。適度な油分を含んでいるため弦の滑りが良く、チューニングが安定します。奇をてらうのではなく、スタンダードで音の良い材を選びました。

”Easy Access Joint Type I”と名付けられた独自設計のヒールカット形状。ヒールを丸くカットするだけでなく、1弦側をやや薄くすることでハイポジションの演奏性を向上させています。カッタウェイに繋がるラインも繊細に加工されています。これ、かなり弾き易いです。造形も素敵なので、個人的にお気に入りのポイントです。

ネックジョイントには楽器用チタンパーツで定評あるKTS製の特注品を使用。HST/SSH Premiumの商品ページには「ネック振動をボディに伝達しやすい性質を持ちます。」と記載されています。組み込みやセットアップの良さもあるとは思いますが、確かにネックとボディが一緒に鳴っているように感じます。
より「いなたさ」を狙うのであればスチールですが、塗装を大きく剥いでいる分少し音をタイトにする狙いもあってHST/SSH Premiumの仕様を残しました。

ネックの反りを調整するトラスロッドはホイールアジャスト方式を採用しています。ネックを外さずにチューニングしたまま調整できる利便性の高さが特長です。またナット周りに適度な重量を確保することで、ネック鳴りを生かす設計になっているそうです。
私自身ローフレットで少しバズ音が鳴ってでもネックをどストレートにセッティングするのが好きなので、演奏先で調整することが結構あります。そんな時はささっと手早く調整を済ませたいものですが、このホイールアジャスト方式が一番早くて楽に感じます。

弦交換や調整が楽になるように私物のストラトキャスターのバック・プレート(トレモロ・キャビティ・カバー)は常に外している状態なのですが、このプレートなら外さずにスプリング(ハンガーの)調整が行えます。様々なメーカーで採用しているアイディアなので見慣れている方も多いと思いますが。

ベースになったHST/SSH Premiumはモデル名の通りピックアップのレイアウトがS-S-Hですが、今回は3シングルにしてみました。
通常モデルに採用されているピックアップの説明には「ヴィンテージギターのサウンドデータを元にしながらも、今の音楽シーンにも対応できるよう調整を加え、さらにHISTORYの造りに合わせてカスタマイズ。」と書かれています。そのままでも良く出来たピックアップなのですが、今回は更に私好みにするために新たなピックアップの開発に携わらせて頂きました。
で、私が何をしたかと申し上げますと、HISTORYらしさでもある上記の赤い字の部分を取り払いました。
個人的な印象ですが、HISTORYのピックアップは一番後ろに極薄くコンプレッサーを入れているような音に聞こえます。音が綺麗で演奏し易いのですが、ヴィンテージを演奏する感覚で弾くと、ピッキングに力を入れて音を飛ばしたいときに少し抑えられてしまう感覚を覚えます。リミッターが掛かると申しますか。そこで、より反応が早くHi-Fi(=高忠実度、高再現性)でレンジの広いピックアップにするために、幾つかピックアップを巻いてもらい、最終的に下の3つで比較しました。
①Prototype A
HST/SSH Premium純正ピックアップを3S用に出力を調整した(直流抵抗値を下げた)もの(AlnicoⅤマグネット)
②Prototype B
①のコイルの巻き数はそのままに、マグネットをAlnicoⅢにしたもの(①と同じ直流抵抗値)
③Prototype C
①のマグネットはそのままに、コイルの巻き数を減少させたもの(①よりも低い直流抵抗値)
結果、同じ直流抵抗値でもマグネットをAlnicoⅤからAlnicoⅢにしただけでも少し音は明瞭になりましたが、今回のギターではAlnicoⅤのまま直流抵抗値を減少させたピックアップ(③)が一番イメージに近いものになりました。
今までのHISTORYに慣れている方からするとややピーキーなサウンドに聞こえるかも知れませんが、より繊細なタッチが出やすく、各ポジションのキャラクターもはっきり出るので弾いていて楽しいギターだと思います。

今回は島村楽器のオリジナルブランドでオーダーしたHISTORY HST/62-Premium Limitedをご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。
様々なブランドでトラッドなモデルに新しい技術やデザインを取り入れた魅力的な製品がリリースされていますが、それらと比較して頂けるような素敵なギターに仕上がったと思います。
本機は私の勤務している新宿PePe店で展示していますので、お近くにお越しの際はぜひお手に取ってお試し頂ければと思います。詳細につきましては下にご用意させて頂きました商品ページをご覧ください。それでは今回はこの辺で。
