別室 野原のギター部屋 Vol.35 “Gibson Brands Partner Experience in Nashville 2023 現地レポート(後編)”

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別室 野原のギター部屋 Vol.35 “Gibson Brands Partner Experience in Nashville 2023 現地レポート(後編)”

記事中に掲載されている価格・税表記および仕様等は予告なく変更することがあります。

皆様こんにちは。島村楽器別室 野原のギター部屋管理人の野原です。

前回(別室 野原のギター部屋 Vol.34)に引き続き、10月初旬に参加しましたGibson Brands Partner Experience in Nashville, TNの様子をお届けしたいと思います。

DAY2 -Gibson Custom Shop, Gibson Garage-

2日目はギブソン・カスタムショップを訪問。ヒストリックをはじめ世界中のギタリストが愛用する名品がここで製作されています。

工場内は撮影が禁止されているため作業風景をご紹介する事はできませんが、木材の粗削りなどは最新の機械で正確かつ効率良く進めつつ、多くの工程は熟練の職人の手で行われています。

例えばボディにバインディングを巻く作業は、150年前と変わらず紐で縛って接着をします。乾燥までに4時間を要し、ボディバックにも施されるモデルなどでは、4時間×2=8時間もの時間を要します。何度か別の方法も試されたそうですが、この方法が最も綺麗に巻くことが出来るそうです。

昔と異なり様々な機械が導入されているのは事実ですが、様々な工程で昔と変わらず熟練の職人一人一人の手によって作り上げられている事が良く分かります。

扉を開けると右手にフレットボードの壁が見えます。壁面をフレットボードで埋め尽くすアイディアに脱帽です。

左手にはギブソンを代表するエレクトリック・ギターの製図が並べられています。製図は楽器製作の第一歩。カスタムショップのエントランスに相応しい素敵なデザインです。

製図がデザインされたガラスの扉の先には、ボディ材や指板、サンバーストのカラーサンプルなどが置かれた部屋があります。もちろんカスタムショップの木材が全て置いてあるわけでは無いのですが、ここの部屋でオーダーするギターの仕様を考えたりすることが出来ます。

保管された木材はどれも素敵な物ばかり。左は加工を終えたレスポールのボディ、右はトップに使用される2ピースのメイプル材。

製作途中の材ですら美しさを感じてしまうのは私だけでしょうか。

この部屋の先に大きなディスプレイとテーブルが用意された部屋があり、そこでギブソンのプレゼンと意見交換などが行われました。日本のお客様が何を望まれているのか、私達の意見を真剣に聞き入っている姿が印象的でした。

ミーティングがひと段落すると、正面のディスプレイにトム・マーフィー氏からのメッセージが流れてきました。冒頭の日本語の挨拶にその場の空気が和みます。専任スタッフしか入れないマーフィー・ラボの内部の様子や仕事内容をとても良く理解することが出来ました。

マーフィー・ラボの内部の様子はGibson TVからご覧頂けます。

映像が終わり部屋が明るくなると、ギブソンUSスタッフが「スペシャル・ゲストを紹介します」と部屋の後ろに手を向けます。一同が振り返ると…

トム・マーフィー氏がにこやかに立っていました。嬉しいサプライズに室内が湧きます。その後ご本人から改めてマーフィー・ラボ設立の経緯やラボについての詳しいお話を聞くことができました。

最近ではエイジングの第一人者として有名なトム・マーフィー氏ですが、ヒストリック・コレクションを立ち上げた一人でもあります。まさか1980年代のリイシューからヒストリック・コレクション誕生までの貴重なお話をご本人から直接伺うことができるとは思いもしませんでした。

目の前でエイジングのデモンストレーションも行ってくださいました。実際に使用している年季の入った道具についてのエピソードも楽しいものばかり。とても有意義な時間でした。

最後に記念撮影。今回の現地訪問を楽しんでいること、多くの日本のファンがトム・マーフィー氏の作品に夢中になっていることをお伝えすると、とても嬉しそうにされていました。

ちなみにマーフィー・ラボはカスタムショップの一角にあります。前述の通り専任スタッフのみが入室できる特別な部屋になっています。

ミーティングの後はカスタムショップ製品のプロダクトピックとなります。初日と同じ様に、抽選で決められた順番で1本ずつ欲しいギターをハンドピックしていきます。

並べられたギターはどれも素敵なものばかり。代表的な1959レスポール・スタンダード・リイシューやここでしか手に入らない様な1点物など、様々なモデルが用意されていました。

どのディーラーも真剣な眼差しでギターを見ては手に取って細部まで確認をしていきます。皆様の一生物になるであろうギターの選定、私も一切の妥協を排して丁寧に1本ずつ選びます。

あまりに本数が多いため、ここで一旦昼食。ヘルシーな上に日本人が好む美味しい味付けにおかわりをする人が続出していました。

昼食はカスタムショップ内の休憩室でいただいたのですが、立派なテーブルにもギブソン・カスタムショップのロゴが入っています。

食事も終わり、プロダクトピックの再開です。美味しい食事のおかげで気力も十分です。

気になるプロダクトピックの結果ですが、抽選で1番を引いた今井のおかげで、個人的に欲しかったモデルをほぼ入手することが出来ました。私は確信しました。やはり今回の彼は持っている。

せっかくですので、2日目に入手したギターを少しだけご紹介したいと思います。

先ずはこちら。1959レスポール・スタンダード・リイシューです。マーフィー・ラボのこちらの1本、何か違和感を覚えませんか。1959なのにメタル・インサートのコントロール・ノブ、ネック・ピックアップ・ボビンの配色が通常とは逆になっています。

シグネイチャーモデルではありませんが、再度レス・ポール人気に火をつけたあのギタリストを彷彿とします。一度はピックガードを外して頂きたい1本です。

次はマーフィー・ラボ1957レスポール・スタンダード・リイシュー。通常はゴールド・トップですが、チェリー・レッドにフィニッシュされています。これだけでも珍しい仕様なのですが、トップのメイプルにご注目下さい。

センターを大きくずれた位置に継ぎ目が来ています。オリジナルのゴールドトップはセンターで継いでるものがほぼ無く、リフィニッシュする際にゴールドを剥がすとオフセットのメイプルが露出します。この個体もリフィニッシュされたものを再現しているかと思われますが、ポイントは継ぎ目の位置です。全く同じ位置ではございませんが、二人の偉大なギタリストに愛用されたあのレスポールが頭に浮かびました。

ちなみに、先ほどトム・マーフィー氏にお会いした室内のギターも全てプロダクトピックの対象でしたので、たくさん入手してきました。反対側の壁面にもカスタムショップ製品が所狭しと並んでおり、まるで上質な楽器店にいるような気分になります。

プロダクト・ピックの後はカーター・ヴィンテージ・ギターズを視察してきました。ホームページは拝見していましたが、想像以上に1950~1960年代の貴重なヴィンテージ・ギターやベース、アンプなどがストックされていました。個人的には90年代に発売されたロニー・マック・フライングVが刺さりました。

カーター・ヴィンテージ・ギターズからギブソン・ガレージへと移動し、各々がショッピングを楽しみます。昨日までギターが展示されていたステージには、ガレージ奥の部屋に置かれていたバイクが。

車体にはギブソンン・ロゴが入っており、レザー・シートにはピックを入れるポケットまであります。タンクのグラデーションはサンバーストカラーを意識したものだと思いますが、とにかく素敵です。

ガレージでのショッピングの後、次の時間までナッシュヴィルの街を少し歩きました。写真左手に見える建物がギブソン・ガレージやオフィスが入った建物です。線路を長い貨物列車が走ったりと、素敵なロケーションです。

信号待ちで音楽の鳴る方に目をやると、ジミ・ヘンドリックスが描かれた飲食店のオープンテラスでミュージシャンが演奏をしていました。流石は音楽の街ナッシュヴィル。

この後ギブソン・ガレージに戻りギブソン・スタッフ、ディーラーの皆様とディナーを楽しみました。いよいよ明日はナッシュヴィル最終日。楽しい時間はあっという間に過ぎてしまいます。

DAY3 -Gibson USA Factory, Gibson Repair & Restoration-

3日目の朝、車に分乗してやってきたのがこちら。

ギブソンUSAファクトリーです。学生時代、ページがバラバラになるまで何度も読み返していたムック本に掲載されていたUSAファクトリー正面口の写真。まさに今その場所に立っていると思うと胸が熱くなります。初めて買ったエレキギターも、この工場で作られたレスポールでした。

工場内は撮影禁止のため写真はございませんが、一角に山積みにされたフレイム・メイプル、キルト・メイプル、コア材から、M2M、PSL用の材を選定します。

先ずはディーラー全員でPSL用(日本市場向けのモデル用)のフレイム・メイプルを選んでいきます。グループを2つに分け、一方が選定した材の山をもう一方が選定し直し、より高い精度で仕分けていきます。一枚一枚材を手に取っては何度も傾け、様々な方向から杢の出方や深さを確認する様子は真剣そのものです。

フレイム・メイプルの後は5Aキルト・メイプルの選定を行います。キルト・メイプルはプロダクトピック同様、各ディーラーが抽選順で一枚ずつ選んでいきます。今回も比較的早い順番で選ぶことが出来たため、当初の予定通り素晴らしい杢の出た5枚のキルト・メイプルを入手することが出来ました。5枚のキルト・メイプルはM2Mオーダーに使用致しますので、完成を楽しみにお待ちください。

材の選定後に昼食を食べ、USAファクトリー内の見学を行います。案内してくださったのはマスター・ルシアーのジム・デコラ氏。ファクトリー内の様子はGibson TVで紹介されていますので、こちらをご覧ください。

さらに細かく製造過程を見たい方は、Episode 1~14まであるこちらの動画をどうぞ。まさに私たちが見て来たのと同じ作業の様子が映し出されています。

USAファクトリーツアーの後、ギブソン・リペア&レストレーションに車で移動します。ギブソン・リペア&レストレーションは名前の通りギブソン公式のリペア部門で、MODコレクションもこちらの職人一人一人が自由な発想で製作しているそうです。

また、同じ建物内にはピックアップを製造するピックアップ・ショップが併設されています。市場で高い評価を得ているカスタムバッカーもこちらで巻かれています。

ギブソン・リペア&レストレーションを見学した後、ギブソンカスタムショップへと戻ります。

カスタムショップへ戻ると、雰囲気抜群の杢が出た加工済みボディ(写真左)も日本ディーラーに提供してくださることとなり、急遽あみだくじによる抽選が決定しました。紛れもなくこの出張最後の抽選。直感を信じて今井に託したところ、見事に一番を引き当てました。やはり今回の彼は持っている。

狙っていた固体を手にしM2Mプロダクト・マネージャーのダスティン・ウェインスコ氏と記念撮影。

素敵な固体を手に笑みがこぼれる私。

ボディトップを覆う杢とフレックが大変雰囲気の良い個体です。私の頭の中では既にカラーや仕上げが思い浮かんでおりますが、皆様はどんなレスポールを想像されますでしょうか。完成と入荷は暫く先になると思いますが、楽しみにお待ち頂ければと思います。

これにて全てのプログラムが終了し、最後に全員で美味しい食事を頂きました。あっという間の3日間、少し寂しい気持ちもありますが、帰国に向けて準備をし、仮眠を取りたいと思います。

ナッシュビルからアトランタを経由し、日本へ

朝の4時30分に集合しナッシュヴィル空港へ。まだ外が暗いです。

「今井さん、ちょっと仕事をしている感じの写真を撮ってもらえます?」とカメラを渡すも、PCすら開いてないタイミングでシャッターを押す今井。自演失敗。

国内線という事もあり、朝早くから多くの方が利用されています。

経由地のアトランタへは初めて来ましたが、とても大きい空港です。なんでも2021年には「世界で最も忙しい空港」に選ばれているそうで、乗降客数は約7,570万人だったそうです。

空港内での食事。NFLやNBAが流れる店内、窓の外には飛行機、素敵なロケーションです。毎日とても美味しい食事をいただいていましたが、このハンバーガーも良い味でした。

アトランタから羽田へのフライトは約11時間だったと思いますが、機内で写真を整理したりしていましたので、行きよりも短く感じました。本当に充実した楽しい出張でした。

最後に

さて、2回に渡り現地の様子をお送りしてきましたが、いかがでしたでしょうか。

ギブソン程の大きな会社になると生産規模も大きくなり、必然的に工場も大きくなります。工場が大きくなると働く人の数も多くなるわけですが、実際に訪れると「伝統の工法や技術を大切にする熟練の職人一人一人の集まり」であることがとても良く分かります。自分の所有するギターもこうした職人たちの手によって作られたのかと思うと、益々愛着が湧いてきました。

まだまだお伝えしきれない現地の話がたくさんございますので、ぜひお気軽に遊びにいらっしゃってください。

今回買い付けたギターは私の勤務する新宿PePe店に入荷する予定となっています。入荷情報は新宿PePe店のX(旧Twitter)で発信致しますので、チェックして頂ければと思います。

ギブソン・スタッフの皆様、参加されたディーラーの皆様、改めましてありがとうございました。日本国内により素敵なギターを届けたい想いで一丸となり、一緒に働けたことを大変光栄に思います。今後とも宜しくお願い致します。

ギター部屋の管理人

野原 陽介プロフィール

学生の頃よりバンド活動、レコーディングなど様々な場所での演奏とヴィンテージギターショップ巡りに明け暮れる。
のちにギタークラフトを学び、島村楽器に入社。
入社後は米国Gibson社、Fender社への買い付けなどを担当。
甘いもの好き。

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