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別室 野原のギター部屋 Vol.32 “モノクロ放送映えするTVカラー”

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別室 野原のギター部屋 Vol.32 “モノクロ放送映えするTVカラー”

記事中に掲載されている価格・税表記および仕様等は予告なく変更することがあります。

1954年1月23日、米NBCのニューヨーク局であるWNBC局が世界初のカラー放送を行ったそうです。1965年4月時点でのカラーテレビ普及率は白黒テレビの1割程ですので、1950年代はほぼモノクロで放送を見ていたことになります。

当時のモノクロ放送では白いものが写るとハレーション(強い光がレンズに入り、光が飽和した状態で映像に写り込むこと)が起きるそうで、クリーム色のような色がハレーションを起こさず発色の良い白に見えていたと言われています。

もう既にお気付きの方もいらっしゃるかと思いますが、今回ご紹介するのはモノクロ放送映えを狙ったカラーリングと言われているライムドマホガニーに身を包んだこちらのモデルです。

Gibson Custom Shop Murphy Lab Japan Linited Run 1957 Les Paul Special Single Cut TV Yellow Ultra Light Aged

1955年に発売されたレスポール・スペシャル。発売当時(1955年)のカタログには「レスポール・モデルの魅力を継承しながら、求めやすい価格を実現」と記載されており、1954年に発売されたレスポール・ジュニアの上位モデルというよりは、レスポール・モデル(=スタンダード)の廉価版として販売されていました。

販売価格はジュニアよりも高く、装飾を含め豪華な仕様となっています。

スペックLes Paul JuniorLes Paul Special
ピックアップ(P-90)1つ2つ
ヘッドストックの突板(ホリーウッド)なしあり
ヘッドストックのブランドロゴデカールマザー・オブ・パール(インレイ)
トラスロッドカバー1プライ2プライ
ピックガード1プライ5プライ
指板のバインディングなしあり

レスポール・スペシャルの初年度の出荷本数は373本でしたが、翌年にはレスポール・モデル(スタンダード)を越える1,345本が出荷されました。同じ2ピックアップ仕様なのにレスポール・モデルより65ドル50セントもお手頃なわけですから、売れ行きも良かったのではないでしょうか。

参考までに、1955年当時の主要モデルの販売価格をまとめてみました。

モデル販売価格(ドル)
S-400CESN675.00
S-400CES650.00
L-5CESN590.00
L-5CES575.00
ES-225T179.50
Les Paul Custom360.00
Les Paul Model235.00
Les Paul Special169.50
Les Paul Junior110.00

何となくレスポール・スペシャルというモデルの立ち位置やイメージが把握できましたでしょうか。

今回のモデルは日本ディーラー限定 PSL(Pre Sold Limited)オーダーのカタログ外モデルで、1957年当時のレスポール・スペシャルを忠実に再現したものになります。製造はギブソンのカスタムショップで行われ、マーフィー・ラボのリアルなフィニッシュが施されています。相変わらず塗装の質感や経年変化の再現が素敵なマーフィー・ラボですが、そんな本体より先にご覧頂きたいのがこちら。

付属のハードケースです。商品が届き、箱から取り出した瞬間に思わず声を上げてしまいました。

ここ数年カスタムショップのレスポール・スペシャルにはスタンダードと共通のブラウン・ケースが付属していましたが、まさかのアリゲーター柄。これは当時Geib社(楽器ケース製造メーカー)がギブソンに提供していたChallenge Caseを意識したものになります。

当時のChallenge Caseはチップボード(紙)で作られたリーズナブルなもので、スペシャルやジュニア、後年にはメロディメーカーなどのエントリーモデルに良く使用されていました。非常に脆く、保護性や耐久性が低いケースのため現代においては運搬に使われることはほぼ無いと思います。

そんなChallenge Caseの雰囲気を楽しむため新たに用意されたのが今回のケースになります。ブラウン・ケースが使用されることもありましたが、やはりスペシャルやジュニアには「アリゲーター・ケース」が良く似合います。

現代の「アリゲーター・ケース」は保護性や耐久性もばっちりです。ネックサポートの側面にはLifton社のマークが見えます。

オリジナルのChallenge Caseには無かったロゴバッジが取り付けられています。アリゲーター柄との相性も良いですね。

ギター本体を見ていきましょう。ヘッドストックに入れられたギブソン・ロゴの位置が低く見えます。これは~1957年頃に見られた特徴で、PSLオーダーで指定したものになります。同時期のジュニアは現在と同じ様な位置に入れられていますので、インレイ・ロゴで共通の突板を使用していたモデル(レスポール・モデルとスペシャル)の特徴だと思います。
※レスポール・カスタムは専用の突板を使用していたため、この特徴に当てはまりません

1957年頃は”i”ドットの位置が高いものが多くなりますが、リイシューでは標準的な位置に入れられています。

チューニング・ペグは年代に準じた3オン・ア・プレート(3パー・プレート)のクルーソン・タイプ。見慣れているのもありますが、白いペグ・ボタンがとても良く似合っています。

指板にはレスポール・モデル(スタンダード)と同様にバインディングが施されています。ディッシュ・インレイよりもシンプルなデザインのドット・インレイが入れられています。指板のローズウッドの色味も悪くないと思います。

通常は50s Rounded Medium Cシェイプですが1959 Les Paul Medium CシェイプとReissueフレットを採用しているため、やや厚みのあるネックが苦手な方でも演奏し易いネックに仕上がっています。

サイド・ポジション・マーカーには他のモデルと同じべっ甲柄が採用されています。レスポール・モデルの廉価版という立ち位置で生産された少しポップなモデルですが、しっかりと老舗ブランドの伝統やセンスが感じられるのが素敵です。

レスポール・スペシャル(とジュニア)の大きな特徴の一つがネックジョイントです。

レスポール・モデルやカスタムはネック・エンドにネック幅より狭いテノンと呼ばれる延長部があり、それをピックアップ・キャビティの下まで差し込む接着方法(=ディープ・ジョイント)を採用していますが、スペシャルは16フレット~指板(ネック)エンドまでをボディに差し込み接着しています(=ボックス・ジョイント)。

この方法(ボックス・ジョイント)では強度を高めるためにネックを受けるカッタウェイ側のボディに木が残され、ネックとボディの接合部に段差ができます。対してレスポール・モデルやカスタムではボディのカッタウェイとネックが滑らかに繋がります。

上の写真は貴重な初年度のレスポール・スペシャルのものですが、ネックがそのままボディに差し込まれているのがお分かりになるかと思います。ピックアップ・キャビティも丁寧かつ綺麗に加工されているのがお分かりになると思います。

ピックアップは1940年代にギブソン社のウォルター・フラー氏が開発したP-90が2つ搭載されています。1950年代のP-90はAWG42のプレーン・エナメル線を約10,000ターン巻いており、アルニコマグネットが使われました。本機にはこれを再現したCustom Soapbar P-90が搭載しており、オリジナルさながらの明瞭でキレとコシのあるサウンドが堪能できます。

ハムバッキング・ピックアップに比べ非力なサウンドを想像される方もいらっしゃると思いますが、ハムバッキング・ピックアップ(5,000ターンのボビンがふたつで計10,000ターン)とほぼ同じ巻き数で、直流抵抗値も平均7.25kオームから8.25kオーム程ですので特別非力に感じる事は無いと思います。

余談ですが、セス・ラヴァー氏はP-90のサウンドを気に入っていたそうですので、PAFの巻き数を約10,000ターンに設定したのは極力P-90のサウンドを崩さずにノイズを消すためだったのではないかと個人的には考えています。飽くまで推測ですが。

ブリッジはスタッド・バー・ブリッジ・テイルピース(ラップアラウンド・ブリッジ)を採用。レスポール・カスタムやレスポール・モデル(1955年途中~)がABR-1(Tune-o-matic)ブリッジを搭載する中、スペシャルはラップアラウンド・ブリッジを継続します。※1975頃のリイシューでNashvikke Tune-o-maticブリッジを搭載

ラップアラウンド・ブリッジは軽量なアルミ合金製で、ボディに固定するスタッドはスティール製のものを使用している。弦を留めつつ乗せるこのパーツのサウンドに与える影響は大きく、その特有のサウンドは近年でも多くのギタリストに支持されています。

Tune-o-maticブリッジのように各弦ごとにオクターブ調整は行えませんが、側面スタッド付近に見えますイモネジでおおよその調整を行う仕組みになっています。他社製のブリッジなどに付け替えればTune-o-matic並みのしっかりとした調整も出来ますが、個人的にはこのルーズな響きに旨味を感じています。

年代に準じたトップ・ハット型ノブですが、目盛りもヴィンテージを彷彿とする色合いに仕上げられています。ウェザーチェックの入ったボディに搭載されていても違和感を覚えません。各プラスティックパーツにTrue Historic Partsを採用した今回のPSLならではの雰囲気だと思います。

ポット類にはヴィンテージ・テーパー・ポット、コンデンサーには定評のあるLuxe社製バンブルビー・コンデンサーを搭載している点も見逃せません。

ジャックプレートは黒/白/黒の3プライ。構えてしまえば目立たない部分でもありますし、レスポール・モデルの廉価版という立ち位置を考えれば黒の1プライでも良さそうですが、細部に至るまで丁寧にデザインされています。こうした当時の美的センスがとても好きです。

さて、今回はGibson Custom Shop Murphy Lab 1957 Les Paul Specialをご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。

レス・ポールには様々な魅力的なモデルが存在しますが、サウンド面においてもレスポール・スペシャルは多くのギタリストに支持されている印象です。レスポンスの速さ、キレの良さ、芯の強さ、マホガニー単板構造による豊かな鳴り(響き)など、レスポール・スペシャルならではのサウンドがしっかりと存在し、弾き手と聞き手を存分に楽しませてくれます。

1956年前後にはネックの仕込み角やそれに伴うピックアップキャビティの深さの変更があり、1957年は仕様の定まったレスポール・スペシャルが販売されていた年。そんな1957年のオリジナルを忠実に再現した本モデルは、最も当時のギブソンが意としたレスポール・スペシャルを堪能する事が出来る1本ではないでしょうか。

今回の記事に登場しましたMurphy Lab 1957 Les Paul Specialの詳細につきましては、この下にご用意させて頂きました商品ページをご覧ください。それでは今回はこの辺で。

ギター部屋の管理人

野原 陽介プロフィール

学生の頃よりバンド活動、レコーディングなど様々な場所での演奏とヴィンテージギターショップ巡りに明け暮れる。
のちにギタークラフトを学び、島村楽器に入社。
入社後は米国Gibson社、Fender社への買い付けなどを担当。
甘いもの好き。

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